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【視る】  作者: DUNE
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第十七話


「どうして話したの!」麻美の怒声が響き渡った。この怒声に学校中がこちらを見ている事は明らかだが、それでも麻美の怒りは収まりそうもない。「俺も最近まで知らなかったんだ、まさか絢が航平の弟を自殺に追い込んだなんて。友人として話すべきか、俺だって迷った。でも、今の航平なら大丈夫だと思ったんだ。あいつには麻美ちゃんもいるから、こんなバカな真似するとは思ってなかった。」麻美がこちらを睨みつけながら言った。「私が傍にいて何をしてたんだって口ぶりね。私はあんたを許さない。こうなる事は分かってたんでしょ?航平が邪魔になった?それとも絢さん?航平がどれだけあんたを、、」麻美の目から涙がこぼれた。

「邪魔だとか、分かっていただとか、ひどい言われようだな。航平が絢を暴行して逮捕されて、俺だって言わない方が良かった、と、後悔してる。絢もひどいケガらしい。もう顔の傷は消えないそうだ。」そう言うと、麻美は踵を返して去っていった。彼女の目は最後までこちらを睨みつけていた。巧は待ち合わせである喫茶店へと歩きながら、今日までの事を考えていた。自分に起こる事が分かれば、どんな事でも対処できると思っていたが、青野実と細野貴司が動き始めた事で、巧の絶対的な安息は崩されそうになった。楓は警察関係者の娘だから、これから自分に不利な事があっても、と、そう思っての保険のつもりだったが思っていたよりも簡単な事ではないらしい。航平も今になって思えば、絢の刃が航平に向かっている時点で放置しておけば、あんな手間をかけることも無かった。まだ航平は自分に必要な人間だと思っていたが、結局は邪魔になった。

あの日、航平はあろう事か、巧に自首を勧めてきた。

『なぁ、巧。刑事さんが来たんだ。楓ちゃんのお兄さんなんだってさ。巧の事、聞かれたよ。麻美も話をしたらしい。俺もこれから警察に一緒に行くからさ、警察に話そう。木戸先輩の事で巧が関わってるなら、全部話した方が良い。』この言葉で、航平はもう自分にとって必要ない、そう思った。

細野貴司にはまた関係者である事を不審に思われるだろうが、証拠が無ければどうしようも無い。問題は青野実だ。今回の事で何かしら動きを見せるかとも思っていたが、何故奴は動かなかったのか。『本来起こるはずだった未来に修正します。』ここまで言っておきながら、この未来は予見できなかったのか?それとも何か違う事を?まぁ良い。考えても仕方がない事だ。どちらにしても、青野実は必ず始末する。

その為の由美だ。

由美は自分を疑ったりはしない。というより、由美には自分というものがないらしい。

『この玄関、古くなってて建付けが悪いらしいの。音が結構するでしょ?でも、この音が聞こえると、巧が来たって分かるから気に入ってるの』そう言っていた翌日に、巧が業者に依頼して、ドアの建付けを直してもらうと『スムーズに開け閉め出来て、すっごく良い!隙間風もなくなってるね、ありがとう』と感謝までしていた。

人の顔色を窺って生きる不憫な女。だが、今は最も重要だ。

楓も重要ではあるが、彼女の性格を考えれば先日プレゼントしたぬいぐるみは大切に保管してくれるだろう。楓の部屋には4体のぬいぐるみがある。小さい頃、両親から貰った物らしいが、どれも綺麗に保管されている。その横に巧がプレゼントは大事に飾られているだろう。

今日、3月22日の為に、準備してきた。喫茶店に到着し、店内に入ると既に二人は別々の席で座っていた。巧は先に片方の席に座ってすぐにこう言った。

「青野さん、こんにちは。お久しぶりですね。」青野は少しだけ頭を下げた。

「今日は青野さんに、どうしても会わせたい人がいるんです。それで、わざわざここまで来てもらったんです。僕の彼女なんですけどね。もう実はここに呼んであるんですよ。向こうの席に座らせているので、こちらに呼んでも良いですか?」青野は巧に少し目線をやってから答えた。「えぇ、良いですよ。こちらに来て頂いて構いません。」巧は満面の笑みで席に座っている由美を呼んだ。

「こちらが同じ学校の先輩の青野実さんだ。」由美に紹介すると、由美は簡単に自己紹介をして席に座った。「青野さん、あなたが色々僕の友人に話している事は分かってます。それももう終わりにしましょう。2日後の3月24日、由美の自宅に来てもらえませんか?当日は、由美に迎えに行かせますから、僕は部屋で待っています。そこで腹を割って話をしませんか?」

そう言って青野実を見た。なにも聞かされていない由美はキョトンとしていたが、この女が自発的に何か発言する事はまずあり得ない。言われるがまま、言われた通りにするしかない。青野も必ずこの誘いに乗ってくる。

既に由美を【視た】はずだ。その事で由美の『闇』に気が付いたはず。

今日この女を【視る】事が出来る様に、どこかでその能力を使わせない為に、

前日に明日会おう、と、わざわざお膳立てまでしている。

2日後を【視る】事が出来る俺には【視える】。

由美がどのようにして死ぬのか、その横にいるお前がどうなるのかも。

3日後しか【視る】事の出来ないお前には何も【視る】事が出来ず、ただ『闇』を【視て】なにが起きるのだろう、と妄想するのが関の山だ。

それでも未来を修正するには、お前はこの誘いに乗るしか無い。

青野が口を開いた。「分かりました。『2日後』ですね。確かに『3日後』ではお互い何が起こるのか分かってしまいます。会って話す意味も無くなりますからね。」

巧はこれまでにない高揚を感じていた。これで青野実は確実に始末出来る。

「では、明後日お待ちしています。」そう言って喫茶店を由美と出ると、由美は不思議そうに言った。「どういう事か全然分からなかった。どうすればいい?」

「由美は何も考えなくて良いんだ。俺が言った通りにしてくれれば。大丈夫。」

そう言うと由美は頷き笑顔を見せた。




3月24日

巧は誰もいない由美の部屋に鍵をかけずに、家を出た。

由美の家の近くを二時間程ぐるぐると歩いた。

もう青野と由美が来る。巧が時計に目をやると、さほど遠くも無い場所で、大きな爆発音が響いた。「さようなら、青野実。」


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