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【視る】  作者: DUNE
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第十二話

12話 細野 楓2


「そういえば、この前また巧君に会ったよ。楓の所の学生さんが亡くなったろう?その件で、彼は亡くなった先輩を慕っていたそうで、一応、話を聞きに行ったんだ。」貴司が残ったエビフライに箸をのばしながら言った。


「お兄ちゃん、食事の時にそんな話やめてよ。」


楓はその話を遮ったが、父がその話に食いついた。「巧君って楓がこの前連れてきた好青年か。確かその事件はすぐに犯人を逮捕出来たんだったな。早期解決おめでとう、貴司。」そう言われ、兄は捜査の話を始めた。こうなっては警察官である父と兄の口はもう止まらない。まるで捜査会議だ。


母と顔を見合わせて二人でため息をついた。


「手足の腱を切るってやり口が、どうしても通り魔的な犯行だとは思えないって上に言ったんだけど、証拠もないし新井の自供もあったから、そのまま送検って訳。」


兄がそう言うと、父は少し考えて言った。


「確かに、手足の腱を切る通り魔ってのは変だな。貴司はどうみる?」


「俺は新井が誰かを庇ってるとしか思えないんだ。関係者の話だと恨まれる様な人物では無かった。が、被害者は空手をやっていたんだ。もし殺害されていなかったとしても、空手は出来ない体になっていただろうから、そのやり方に強い恨みを感じるんだ。新井は供述通り、本当に殺すつもりじゃ無かったんじゃないかと思ってる。」貴司が若干興奮して、話をしているのが楓にも分かった。


「なるほど、恨みを持った誰かからの指示、というセンか。」


「そうそう。まぁ、もう新井の通り魔的犯行で立件されたから、再捜査って事は無いんだけどね。それにしても、この短期間にまた巧君に会うとは思ってなかったよ。その少し前の公園での事故覚えてる?運転中、わき見していた運転手が、子供の目の前で母親を轢いた事故。彼、偶然そこに居合わせてたんだよ。事故で亡くなった母親の子供と遊んでたらしくって。この短期間で同じ公園で事件、事故があって、その二度とも警察に事情を、」「いい加減にして!」


楓は話を遮って、持っていたお箸をテーブルに叩きつけた。父と兄はしきりに謝っていたが、とても許す気にはなれず、そのまま自室に戻ってきた。


我が家は、母も元警察官で父は警察官僚、兄はそんな両親に憧れて当然の様に警察官になった警察一家だ。兄はあの若さで一課の刑事なのだから優秀なのだろう。


そんな家に生まれたのだから、全員が顔を合わせれば、捜査会議になるのは日常茶飯事で、楓は慣れたものだったが、巧の気持ちを無視した様な発言は許せなかった。


それでなくてもしばらく巧とは会えていない。木戸先輩が亡くなる前、部活に専念したいから。と、しばらく会えないでいたが、先輩が亡くなってから、ひどく落ち込んでいて何と声をかけていいか分からなかった事と、巧がどこか別人になった様な気がして、二人の間に溝があると感じていた。それにさっき兄に聞くまで巧が公園に行ってその事故現場にいた事も知らなかった。


「前に会えたのはこの前のお通夜かー。」そう言ってベットに飛び込んで天井を見ていると、青野実の事を思い出した。『残念?ですか。政宗もあなたに手を合わせて欲しくはないでしょうけど。』彼の言った言葉が妙に気になる。帰り道、航平君は失礼な奴、変な奴、と言っていたけど、楓には悪い人には見えなかった。


それに、すごく悲しんでいる様にも見えた。


兄のせいで訳の分からない事を思い出してしまった。


気分を変える為に、麻美に話を聞いてもらおう。楓はベッドから出て携帯電話を手に取った。

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