第39話 もうすぐ復活
「しかし・・・自力で若返りの魔法を作り上げるとは大したものよ」
ラソンの前で、珍しくフィドキアが絶賛していた。
それは、過去に長い時を経て龍種だけが開発に成功した魔法を独学で、しかも恐ろしく短期間で完成させた者に対しての称賛だった。
「流石はテネブリス様の伴侶ね」
「ふむ、まだまだ粗削りだが才能だけは我らの知る過去に例が無い程だ」
「だけって・・・」
下界の監視を続けながら重要な報告業務を念話するフィドキアだ。
(我が神よ、ご家族の事で報告が御座います)
無くなる事の無い嫉妬に燃えるテネブリスは未だに外郭で暴れていた。
流石にアルブマは眷族の末裔が無茶をした事で、姉を怒らせていると思い放置していたのだ。
(何があったの!?)
(はっ、ご家族がエルフの国を出て人族の国に移るそうです)
(何ですってえぇぇぇ!!!)
テネブリスは驚いた。
両親達が100年以上も監禁されていたのに、急にそんな事が起こるのか信じられなかった。
急いで変身し、自分の部屋に戻り下界を映し出した。
しかし、現在の様子を見ても解らなかったのでフィドキアに説明させた。
問題だったアルブマの眷族の末裔の女が、両親達に進言し”お兄ちゃん”も同意したと説明を受けた。
(なるほど・・・宗教国家の力を使う訳ね。悪く無いわ。”あの子”の為にも良い事ね。でも・・・長くは住めないでしょうに。どうするつもりかしら、しばらく様子を見る必要が有りそうね)
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
「これは・・・獣人の国に向っているの?」
(フィドキア!!)
(はっ、我が神よ)
(お兄ちゃんは何処に向っているのか調べなさい)
(はっ)
ずっと下界を見守っていたテネブリスだが、監視対象者が他国に移動したので調べさせた。
隣で一緒に寛いでいたアルブマが、思いもよらない事を発したのだった。
「お姉様、もしかしてお母様の予知夢が当るかも知れないわ」
「えっ? 何の事だったかしらアルブマ」
「もぅ、忘れちゃったのぉ、お姉様ぁ。ロサが復活するかもしれないわ」
「!! そうだったわ、すっかり忘れてた。ありがとうアルブマ」
「皆に知らせましょうか?」
「ええ、お願い出来るかしら」
「勿論よ、お姉様」
アルブマはロサの創造主である母のベルスと、同種の妻達であるオルキス、ヒラソル、ナルキッスとプリムラに念話で教えていた。
その吉報が届くと、龍国内は一気に慌ただしくなっていた。
長らく不在だったロサが復活する知らせは龍人達全員にも伝わっていた。
「フィドキアッ、お父様がようやく復活されると連絡が有りました」
「ふむ、やはりあの男が鍵だったか」
「そうみたいね」
「暫くは様子を見るとしようでは無いか」
「ええっ」
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
暫らくすると監視対象者が訊ねて来た。
「オーイ、フィドキアァー、ラソン居るかー」
「おぉ来たか」
「いらっしゃい」
そして要件を告げて来た。
それは創造主であり父であるロサが、自ら復活する為に変貌を遂げた姿の”魔物”を討伐したいと言って来たからだ。
「棘王にダムネイション使ったら勝てるのか? 」
「無理だ」
「何ぃぃ! 何でだよ、あの魔法で死なないなんておかしいだろ? 何で無理なんだ? ダムネイションで全ての棘は無くなるだろう?」
「だが核は無理だ」
「なんでそんな事知ってんだ?」
そう聞くと苦虫を潰したような顔をするフィドキア。
「何か言えない事があるのか?」
黙ったまま答えないフィドキアにラソンが教えてくれた。
「棘王は、フィドキアの創造主なのよ」
「何ぃぃぃぃ!本当なのか?」
頷くフィドキア。
「って事は俺の先祖?」
「そうだ」
監視対象者はソファに深く座り溜息をついた。
「なんでご先祖様が棘な訳?」
「厳密に言うと棘では無い」
「別にいいけど、お手上げだ」
「そんな事は無いぞ。我らには出来なかったが、お前は出来る」
「何断言してんだよ」
「出来るから言ってるのよ」
フィドキアとのやり取りに口を挟むラソン。
「貴男がこの前作った魔法剣であれば可能だわ」
「なんでそんな事が解るんだ?」
「未だかつて”あの剣”を携えた者はこの大地には居なかったからだ」
「居なかったから切れる訳では無いと思うけど? 」
「我らは”あの剣”を知っているからだ」
「えっ本当に?」
「あぁ特別な者にしか作れない剣だ」
「過去に誰が作ったの? フィドキア? ラソン?」
「私達では無いわ」
「じゃ人族?」
「大地に居る者では無い」
「・・・解らん」
「それでいい、時が来たら教えよう」
「じゃどうやって倒せばいい? 具体的な手順だぞ」
しばしフィドキアは考えて説明した。
「まずダムネイションで棘を消滅させて核が出たらお前が切る。以上!」
「おおざっぱだなぁ。本当にダムネイションだけで棘が無くなるのか?」
「大丈夫だ。心配なら2回使えば良いだろう」
仕方ないみたいな顔でラソンが語りだした。
「昔々あの方が暴走してね、私達が必至で止めたのよ。その時にダムネイションを何度も使ったわ。だけど核は無傷だったから、あの地に核を封印したのよ。ただ、会話が出来るように純粋な心を取り出してね」
監視対象者は、不満そうな態度なので説明するフィドキアだ。
「1度核を壊さないと再生しないからだ」
「ハァー? 再生だと?」
「そうだ、再生すれば元のオルギデア・ロサ・ティロ様に戻られる」
「でも何で暴走何てしたの?」
・・・黙り込む2人。
「いずれ話すが一言で言うと”愛の為だ”」
「・・・じゃその方向で頼むわ」
「解った」
大昔の事は監視対象者には理解出来ない事なので解決方法が見つかり帰っていった。
監視対象者とのやり取りを終えるとラソンが嬉しそうに母であるオルキスに念話した。
フィドキアも同様だったが、念話したのはベルムだった。
龍国はロサの復活に向けて活気づいていた。
「ラソン、もうすぐ始まるぞ」
「ええ、フィドキア・・・頑張ってね」
「ふむ、奴が召喚するまでしばしの間待とうではないか」
そう言って2人は画面を見ていた。
フィドキア達以外も龍国でその時を見る為に下界を映し出す魔導具を見ていた。
「ロサには辛い思いをさせてしまったわ」
「お母様・・・今は復活の時を待ちましょう」
テネブリスの部屋ではアルブマとベルムが下界の様子を伺っていた。
「・・・いい事、あの子が復活したら何でも願いを聞き入れてあげるわ」
「ありがとうございますお母様」
「まずはオルキス達ね、あの子達にも随分と我慢させたようだし・・・」
「呼びましょうかお姉様」
「ええ」
アルブマに呼び出されてやって来たオルキスだ。
「オルキス、知っての通りロサの復活が近いでしょ、あなた達が喧嘩にならない様にちゃんとしなさい」
「はい、テネブリス様」
「それから、不在だった期間の事も全員で説明するのよ」
「承知いたしました」
「どのようにして復活できたのかもね」
「はい、全てを説明致します」
そして・・・
「ねぇ、ダムネイションだけで大丈夫?」
「心配はいらん、あの時とは違うのだ。棘だけの体と強化したダムネイションであれば一度で十分だ」
「・・・解かったわ」
「ラソン、良く見て置け」
「はい」
「では行って来る」
監視対象者の召還を受け入れ転移するフィドキアだった。
成龍体となって現れたのは獣人が支配する国の王城の場所だ。
監視対象者が変わり果てた姿の創造主に魔法を放つ様に指示された。
使ったのはダムネイションと言う無属性の広範囲の攻撃魔法だ。
フィドキアの口の前には透明な5重の魔法陣が現れて魔法を放った。
遥か彼方に一瞬の光が輝くと、この世の終わりの様な轟音が届いた。
そして荒れ狂う風と共に周りに近場に有ったであろう石や木々が吹き飛ばされて来た。
(どう?)
(棘は無くなったから後は核を切ってくれ)
(解った)
監視対象者に指示を出して、一旦戻ったフィドキアだ。
「もう一度行く」
「ええ、気を付けて」
ダムネイションの中心地には、創造主の核と監視対象者が対峙していた。
監視対象者は”大神しか顕現できない剣”を手に携えていた。
そして一刀の元に核を真っ二つにしたのだった。
「良くやった、後は我が見よう」
「はぁ?」
後ろから突然現れたフィドキア。
監視対象者は何をするのか近くで見ていたら、割れた核の中に自らの血を垂らすフィドキアだ。
「何してんの?」
「再生するのに少し力を分けている所だ」
そう言ってフィドキアはティエラ・マヒアの操作をして二つに割れた核を地下深くに埋めた。
「では帰るか。一緒に来い」
フィドキアは監視対象者を連れて監視室に転移していた。
「お疲れ様でした」
優しく答えてくれたのはラソンだった。
「結局棘王はどうなるの?」
「邪悪な外皮が破れて元の核に戻るために土に埋めたのよ。新たなオルギデア・ロサ・ティロとしてね」
「なるほど、まるで植物だね」
「それは我が創造主の能力の1つだ」
「へぇ~便利だなぁ。もしかして死なないのか?」
「我らと死は無縁だ」
「マジで?!」
頷くラソン。
「流石は龍人だな、じゃ俺行くよ」
「近いうちに連絡する」
手を振って自ら転移魔法で立ち去った監視対象者だ。
「良かったわ、これでお父様が復活なされるのも時間の問題よ」
「ふむ、あの者には感謝せぬといかんな」
一方の龍国では、奇声を上げて喜んで居る者が大勢居た。
誰もがロサの復活を確信して浮かれているのだ。
(流石は”お兄ちゃん”、まさかお母様の剣を作りだすとは・・・立派よ)
テネブリスだけは保護対象者を褒め称えていた。