第38話 監視対象者との邂逅
アルブマはテネブリスに
ベルムはベルスに
オルキスはロサに祈りを
ラソンはフィドキアに謝罪した。
とは言え
自らの野心の為にアルブマを巻き込んでオスクロ系の魔素の封印し、その魔素を原動力にする魔導具を使われた事がダークエルフの滅亡する結果となり、更にはその魔導具で自らが転生魔法陣で転生する事に成るとは夢にも思わなかったテネブリスだった。
テネブリスとアルブマの眷族が集まり、今回の経緯が説明された。
「フィドキア、お前には無駄な事をさせてしまったわ。ごめんなさい」
「滅相も御座いません我が神よ。御身は常に正いのです。何成りとご命令ください」
「・・・」
「お姉様・・・」
頷いたテネブリスはアルブマと相談した事を話す事にした。
「フィドキアよ」
「はっ」
「今後、わたくしが”あのエルフ”を殺せと命令しても、お前は”その命令に従う事を拒絶せよ”と命令します」
「はっ、・・・畏まりました」
テネブリスの命令が絶対のフィドキアにとっては”あのエルフ”を殺してはいけない事になった。
とは言え、自らが手を下さなくても死ぬ場合が有る。
「ラソン」
「はい」
「貴女には”あのエルフ”とその子供を守護しなさい」
「はい、畏まりました」
アルブマの一族は大神の予知夢が絶対なのだ。
それにより、自分達の幸せが崩壊しない為には手段を選ばない。
例え、間接的に最愛の姉を苦しめたエルフの女を擁護したとしてもアルブマは今の関係性を維持したいのだ。
その結果、眷族達も幸せになるのだから。
そしてテネブリスの鬱憤は激しい愛情表現となってアルブマにもたらされる。
一旦はテネブリスの怒りも収まり、平穏が訪れたと思われた。
所が、今現在テネブリスは外郭で激怒していた。
ブレスを吐きちらし咆哮をあげ、地を蹴り罵詈雑言を吐き、尾も使って怒りを大地にぶつけていた。
アルブマ達の謝罪を受け、しばらくは大人しくすると誓った矢先、衝撃の映像が飛び込んで来た。
アルブマと一緒に自分の居なくなったその後を観察する為に、息子達家族と大好きなお兄ちゃんを二画面に映し出し同時に見ていたのだ。
家族はいつも通りで、若干両親の元気が無さそうに見えた。
一方のお兄ちゃんはエルフの国を出て一人旅に出たようだ。
そしてお兄ちゃんの行動が怒りの原因となって行く。
「な、何してるのこれは・・・」
「・・・」
「ま、まさか・・・」
「お姉様、家族の方も見てはどうかしら・・・」
アルブマの問いかけも虚しく、目の前に映るお兄ちゃんは下界の女達と楽しそうな光景が移っていた。
「あっ・・・」
「お兄ちゃん!! まさか獣人の女を2人も相手にするなんてぇぇ・・・」
見る見るうちに憤怒の形相に変わっていくテネブリスにアルブマが抱き付いて訴えた。
「ダメェェ!! お姉様ぁぁ約束したでしょう、国内では暴れないって!!」
「アルブマ・・・転移するわ」
そう言って消えたテネブリスが、現在外郭で暴れているのだ。
「それにしても、”お兄ちゃん”にも困ったものねぇ・・・」
アルブマにも厄介者の認定をされたお兄ちゃんでした。
外郭では例の如く憎悪の念話をするテネブリスだった。
(フィドキアよ・・・)
(はっ)
(お前が潜んでいる近くに魔物を沢山待機させておきなさい)
(我が神よ、エルフを襲う訳では無いのですね?)
(勿論よ。今度は人族に獣人よ)
(国を襲うほどの数でしょうか?)
(国では無いわ。相手は精々10体ほどかしら。だけど確実に殲滅できる数をそろえて頂戴)
(はっ、魔物で宜しいのでしょうか?)
(ええ、我らの眷族は強すぎるでしょ?)
(はっ、仰るとおりです)
(では、待機させておくように)
(はっ、畏まりました)
暫らくすると変化が見られたので、暴れている姉を念話で呼び出したアルブマだった。
2人で見る画面に映っているのは、お兄ちゃんと宗教関係の男女だった。
「アルブマ、あれは貴女の眷族の宗教よねぇ」
「・・・そうみたい」
「貴女何か知っているの?」
「何も聞いて無いわ、ベルスに聞いて見ようかしら」
呼びたされたベルスは戸惑っていた。
発案は自分では無いが、同意してしまった事に対してだ。
しかも全て順調に進み、目の前にはその結果が実る前の者達が映し出されているのだから。
「ベルス、何か知っている事が有れば教えて頂戴」
自らの創造主であり母たるアルブマに問われて答えない事は出来ないベルスだ。
「我らが眷族の末裔と、テネブリス様の眷族の末裔が交わる事で、我らの関係もより深い者になると思って・・・」
「占いを使ったのね?」
アルブマの質問に頷くベルスだった。
アルブマは瞬時に理解した。
それはとても望ましい事だ。
しかし、横で睨んでいる姉に対しては”非常に宜しく無い”。
「アルブマァ、私の”お兄ちゃん”に浮気させるつもりなのねぇ・・・」
「ち、違うわよ、私とお姉様の眷族を掛け合わせたいのよね、ベルスゥ!?」
「はい、その通りです、テネブリス様。この事はわたくしが一存で進めた事で、決してお母様の指示ではございません。罰は全てわたしくが受けます!!」
決死の覚悟で神と直談判するベルスだった。
「はあああぁっ」
テネブリスは大きな溜息をついた。
「あなた達は私達の事を考えて行動したのでしょ? だったら私がアルブマの子を罰する事は無いわ。例えどんな事が有ってもね。」
「は、はい」
「でもね、行動する前に相談位して欲しかったわ」
「も、申し訳ありませんでした」
「アルブマ、後の事は良く聞いて頂戴ね」
「解かったわ、お姉様」
アルブマが娘を思い念話で宗教国家が介入する理由を聞くと、龍人達の原因まで全部白状したベルスだった。
(困ったわぁ、まさかラソンとインスティントがまだフィドキアを取り合いしていただなんて・・・しかも解決方法が、我らが三種の末裔を交配させるだなんて・・・中々考えたじゃない)
しかし、その事は言わずに暫らく様子を伺う事にしたアルブマだった。
そこにフィドキアから緊急の念話が入った。
テネブリスは前回の一件から、フィドキアが入手した情報で重要度が高いと判断した場合は、即座に念話で報告するように指示していたのだった。
(我が神よ、宜しいでしょうか?)
(あらフィドキア、何か有ったのかしら?)
(はっ、お耳に入れた方が良い件が御座います)
(何かしら、話して頂戴)
(はっ、アルブマ様の眷族の末裔が”かの男”に求婚を迫っており、半ば承諾した様子でございます)
(なっ・・・)
テネブリスは憤怒の表情だった。
(ころせ・・・)
(は?)
(例の魔物を使って襲わせろ!!)
(しかし・・・畏まりました。魔物を向かわせます)
フィドキアが躊躇したのは、襲わせる場所に神が大事にしている男がいるからだ。
しかも宗教関係者はアルブマの眷族の末裔であることも知っているからだが、瞬時に否定し、神の言葉を最優先させた。
(あの者ならば、ある程度の魔物など造作も無いはずだ・・・)
念話を終え、大声で叫ぶテネブリスだった。
眷族達が先走った行動に出たが、姉の眷族と交配させると言う嬉しい計画を聞いて満面の笑みを浮かべていたアルブマに大声が聞こえた。
「アルブマァァァァ!! 外郭に行くわぁ!!」
その言葉に驚いたが、既に姉の姿は無かった。
「やっぱり怒ってたのねぇ・・・」
そして時間差で、ラソンからオルキス、ベルス経由でフィドキアからテネブリスに伝わった情報を聞いたアルプマだった。
(それは・・・不味いわ。只でさえ”お兄ちゃん”の浮気で激怒していたのに、私の末裔が求婚させるなんて・・・でもここを乗り切ればお姉様と混じり合う事が出来るわ・・・ウフッ)
姉の怒りを抑えるよりも自らの欲望を優先するアルブマだ。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
テネブリスが外郭で暴れている一方で、下界では出会いが有った。
フィドキアとラソンが監視対象者を観察する為に作った地下施設は上部を迷宮にしていたため、何故か監視対象者が迷宮を突破して訪れていたのだった。
「ふむ、やはりあの程度の魔物では壁にもならんか」
「どうするの、フィドキア」
「良い機会だ、ここに通せばよかろう」
「ではわたくし達の事を教えても良いのね?」
「ふむ、いずれ話さなければならない事実だ。予定には無かったが、向こうからこの場所を探り当てたのなら誉めてやろうではないか」
「あら、随分と優しいのね」
「ふん」
「では扉を開けるわ」
フィドキアとラソンの前に監視対象者と、ラソンとインスティントの末裔を交配させたロリと言う名の女性を連れて現れた。
「ようこそ監視室へ。2人を待っていたわ、さぁこちらの椅子に掛けてください」
2人は驚き戸惑っている。
「初めまして、わたくしはラソンよ。貴方達の事は良く存じていますわ。」
「あのぉこの迷宮の底で、あなた達は何をされているのですか?」
「その質問には我が答えよう」
「フィドキア! 何故ここに居る」
「又会ったな。今は待て、戦いの時では無い」
「随分と勝手な事を言うな、フィドキア」
「わたくしからもお願いしますわ。今回は2人に私たちの事を説明したいのです」
「わたくしの事が解りますか?」
暫らく考える様に沈黙していたがロリが答えた。
「聖魔法王国の最も神聖なる場所であり崇拝の対象物、”神の坐する場所”の壁に掛けてある絵に私達の神と使者の方達が描かれています。あのぉ・・・貴女はその中の1人と良く似ていますが・・・」
「ええ・・・そうね。あの絵は後世に掛かれた物だけど、わたくしが時の教祖に言って修正させたのよ。最初の絵は記憶を頼りに口頭で説明して絵師に描かせた物だったから・・・余り似ていなかったの。描かれている人物は全部で3人でしょ?」
「ハイ」
「わたくしは右端に居るわ」
「ハイ。では、貴女は龍人で・・・」
「フフフッそうよ。わたくしは我らが神、聖白龍アルブマ・クリスタ様の僕、龍人のラソンです」
「説明してもらおうかフィドキア」
「何をだ?」
「お前がエルフの国を襲った理由だ」
「・・・分かった。説明はするが、今は出来ん」
「それは、しないと同じことだぞ!」
「では、こうしよう。説明は、エルフの街を我に襲えと指示した者にしてもらおう」
「何ぃ? それは・・・お前よりも高位の存在か?」
「当然だ」
「何故今話せない」
「今はその時では無いからだ」
「・・・さっきラソンが言っていたような龍の存在がお前を動かしているのか?」
「ラソンの言葉を借りるなら、お前たちダークエルフの先祖は・・・我の種族だ」
「何ぃ!」
「驚いたか?」
「本当か?」
「勿論だ。信じるか信じないかはお前の自由だが・・・そうだな、後で魔法を教えてやろう」
「所で、ここで何をしていたんだ?」
「監視だ」
「何の?」
「地上の監視だ」
「話しをもどすが、先日の魔物の大群の事は見ていたのか?」
自らの神の命令で”お前達を襲え”と指示が有った事は伏せた。
「当然、見知っている」
「では何故対処しなかった?」
「お前が居たからな。我らは監視する者だ。我らが直接手を出すのはよっぽどの事が起きなければ無い」
「エルフの街を襲ったのは、よっぽどの事か?」
「その通りだ」
「ラソンはどうも思わないのか?」
「何が?」
「自分の子孫が同じ龍人に襲われた事に対してだ」
こそは、間髪入れずにキッパリと言い切るラソンだ。
「無いわ。わたくし達にはエルフや王国の者よりも、大切な意思があるの。例えエルフや王国の者が滅びても、その意思の指示の元で私達は動いているのよ」
「「・・・・・」」
「まぁ、そんなにしょげるな。良い物を授けよう。魔法も後で教えるが、これをお前たちにやろう。我らはお前たちと敵対しない。むしろ友好関係を築きたいと思っている。その証しとして龍人の腕輪を与えよう。我らからはお前たちが何処に居ようとも居場所が解り、お前たちの呼び出しで転移して現れよう」
様々な魔法の伝授と自らを召喚できる魔法陣が付与された腕輪を与えた2人だった。
真実は伏せられたまま。
燻ぶる嫉妬の炎。