第32話 過去の真実
テネブリスは自室でアルブマが呼びに来るのを待っていた。
龍族だけを集め説明をするとだけ伝えたのだ。
テネブリスの魂を分割し肌身離さずアルブマが光玉を持っていた事は周知の事実だ。
その経緯を龍族全体に説明するものだと思っていたアルブマだった。
実際は・・・テネブリスの決心は・・・全く違う内容だった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
「姉貴、大丈夫かぁ?」
「ええ、もう心配無いわよ」
「また魔素が暴走したら知らねぇよ!?」
「大丈夫だって言ってるでしょう。それにもしもの時は最強たる貴女を頼りにしているわ」
「マジか!! 本当に大丈夫なんだよな!?」
「ええ」
不安がるセプティモを茶化すアルブマだった。
「ところで姉上、一体何の説明なのですか?」
「私にも教えてくれないのよ。多分今回の原因じゃないかしら」
セプテムの質問に答えたアルブマだが、本当の原因までは知る由も無かった。
「でもお母様が大丈夫だと言われたなら大丈夫だよね」
「ええ、そうよ」
姉弟だけの時は、幼さが出てしまうスペロに優しく答えるアルブマだ。
報告会議の場所とは違い、小さな部屋だが天上の無い部屋を用意して皆を安心させるアルブマだ。
何故なら直ぐに飛んで避難できるならだ。
龍族全員が集まった所に扉が開いた。
扉を開けて入室したのはベルムだった。
そして後からテネブリスが入って来た。
龍族達の序列は決まっている。
それは力では無く産まれた順だ。
眷族別に縦に並び全員に向う様にテネブリスが座り、左右にはアルブマとベルムが腰かけていた。
「私の仲間達。いろいろ心配させて御免なさいね・・・今回集まってもらったのは、話したい事があるからなの」
一同が静かにテネブリスの言葉を聞いていた。
「今から話す事は、ずっと秘密にして来た事なの・・・お母様にも・・・」
「お姉様!!」
思っていた事と違い驚くアルブマ。
「大丈夫よ、お母様にも聞こえる様にしてあるの」
「・・・」
不安そうな表情のアルブマだった。
辺りを見回して声をかけるテネブリス。
「スペロ、大きくなったわねぇ、幾つになったかしら?」
「あ、姉上、確かに姉弟の中では私が一番若輩ですが・・・」
「あら、そう言う意味じゃないのよ。本当に幾つになったのか覚えて無いのよねぇ」
「姉上よりもかなり若いですが・・・」
「もう、真面目ねえスペロは。」
そしてテネブリスは部屋に居る者達の名前を次々に呼んで行った。
「第2ビダのテンプス、ルクス、シエロ、マル、モンタ。
龍人のフィドキア、ラソン、インスティント、カマラダ、バレンティア。
第1ビダのロサ、オルキス、ヒラソル、ナルキッス、プリムラ。
使徒のベルム・プリム、ベルス・プリム、フォルティス・プリム、リベルタ・プリム、オラティオ・プリム。
そしてアルブマ・クリスタ、セプティモ・カエロ、セプテム・オケアノス、スペロ・テラ・ビルトス・・・産まれた順番はさて置き種族別ではこれで全員よね」
全員と目が合い相鎚で応える仲間達。
「こうして見ると我が眷族は随分と長く生きているわねぇ」
「お姉様、私がお姉様の次に長く生きていますわ」
「そうだったわね、アルブマ。貴女が産まれた時の事は今でも良く覚えているわよ」
「お姉様、やめてください」
「うふふふっ。皆の産まれた時も良く覚えているわよ。誰もが力強く生命に満ち溢れ龍として誇り高く生まれてきたわ」
全員の目が輝いていた。
「でもね・・・私は違うの・・・」
そう言ってテネブリスは魔法を使った。
「音声阻害・・・余程外部には知られたくない秘密なのか・・・」
セプティモが大きな独り言を言って周囲に教えていた。
「みんな、良く聞いて。そして私に力を貸して欲しいの」
「何言ってんだよ、そんなの当たり前だろぉ姉貴よぉ。らしくないぜぇ」
「全くだ。姉上に協力するのは当然だと思うが?」
「心配しないで話して下さい姉さん」
同族だけの時は姉ちゃん。
眷族が居る場合は姉さんと呼び方を変えるスペロだった。
「ありがとう、みんな・・・」
穏やかな表情だが、左右に座る者の手を握りしめ覚悟を決めて告白するテネブリス。
「わたしは・・・わたしは、産まれる以前の記憶を持っているの・・・」
左右に居るアルブマとベルムが驚きの表情でテネブリスを見ていた。
離れた場所でその状況を見ていたスプレムスもかなり驚いた様子だった。
「お母様には申し訳ないけど、私がこの世界に産まれた時・・・もう絶望しか無かったわ」
ギュッと両手を握りしめる左右に座る存在。
「お母様の目を盗んで毎晩泣いていたわ・・・来る日来る日も・・・それでね、涙も枯れて生まれる前の事は忘れる様にしていたわ」
「お姉様・・・」
「そうしたらね貴女が産まれたのよ、アルブマァ!! 私は嬉しくて貴女が可愛くてしかたなかったわ」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるアルブマだった。
「それからの事は皆が知っている事も多いと思うけど、私が暴走する原因となったのは・・・第一ビダ達が大人になってからね」
「えええっ!!」
大きな声を上げたのはオルキスだった。
「二足歩行型に変身してからは、それなりに欲望を処理する事も出来ていたけど・・・」
片方の手を握ると、同じく握り返してきたアルブマ。
「やっぱりあなた達に嫉妬していたのね・・・どうしてかと言うと、生まれる前は貴女達と同じ様に愛し合い子供も居たのよ」
それは龍種では無く別の種族だと告白したも同然だった。
「お母様・・・」
「心配しないで、私の子は貴女だけよ」
ベルムに優しく応えたテネブリス。
「それでね、嫉妬というか憎悪が知らない内に溜まっていたのよねぇ・・・あ、でも産まれてからの絶望も含まれているみたいだから、嫉妬だけじゃないからね」
そうは言われても、オルキスとヒラソルにナルキッスとプリムラは、深い罪悪感に苛まれていた。
「それからは、その欲望が私の身体を支配して暴走して行ったのよねぇ・・・」
その先は全員が知るテネブリスが下界で暴れまくった事件だ。
犠牲者はロサと沢山の下界の生命に文明だ。
龍人達の苦労と、未だに監視を続けているアルセ・ティロと妖精王ヴィオレタ・ルルディも犠牲者と言えよう。
「それでね、その際にアルブマが持っていた光玉に私の理性が入っていたと言う話しだけど・・・ちょっと違うのよねぇ」
「お姉様・・・聞いて無いですわ」
「解かったから黙って聞いてて頂戴」
「”あれ”はもう1人の私と言った方が良いかも知れないわ」
「どういう事ですか姉上」
一番理性的で冷静なセプテムが問いただしてきた。
「私の中に元から居た絶望した者と、龍族としてお母様の期待に応える為に振る舞ってきた者・・・別の言い方をすれば力と理性かな? 同じ考えの時も有れば思考が逆の時も有ったわ」
「1つの身体の中に二つの意識でしょうか・・・」
「その通りよセプテム」
「じゃ今はどっちの姉貴なんだ?」
「・・・どっちだと思うぅ?」
「解かんねぇよ」
「今はぁ、光玉に入っていた理性の方よ」
「じゃ欲望の方は?」
「勿論一緒に見てるわ」
何故か急に畏まるセプティモとセプテムにスペロだった。
テネブリスの横には怖い姉が居るので余計な事は誰1人として口を噤んでいた。
「まぁあの時下界で暴れた私も考えた訳よ。こんな事をしてても意味は無いってね。結局元に戻る事になったの」
「ええっ姉貴が力づくで倒したんじゃ無かったのか?」
「セプティモォ・・・貴女も倒されたいのかしら」
「いや・・・結構ですぅ・・・」
アルブマが睨みを効かす。
「クスクス・・・そうね、正確に言うと本体の方は細かな制御が出来なかったのか変身して戻れなかったの。だから失神させている間に精神体の私が戻った訳。そうする事でこの姿に変身する事も出来たのよ」
ある程度、曖昧な説明はしてあったが改めて一連の真相を知る一同だった。
「じゃ、この前の説明をするわよ、そして私が全てを教えようとした理由も・・・」
用意させていた会議の資料を全員に渡したベルム。
「全てはこの報告書が原因なの・・・」
全員が読み返すが、何が原因か解らなかった。
「まぁ解らないのは仕方のない事よ。私だけしか解らない事。それは・・・」
全員がテネブリスを見ていた。
「もう暫らくすると、前世の私が産まれるわ」
「はぁぁぁぁ!?」
「なにぃぃ!?」
「どう言う事ぉぉ!?」
「お母様、説明を」
「お姉様!!」
同族とベルムだけが声を荒げて驚いた様子で、他の者達は声には出さないが資料を見ながら周りとヒソヒソと確認しているようだった。
「私も驚いたわよ、貴女達の比じゃ無いくらいにね。皆の前で泣いたのも初めてかな?」
照れながら教えるテネブリスを見る一同は”あの時”を思い出していた。
美しい大粒の涙が頬をつたい歓喜に震える神の姿を。
はぁ? 何言ってるのか解んないんですけどぉぉぉぉ! 的な表情の一同だ。
驚いて嬉し泣きよ。By テネブリス