第3話 暗黒龍は成龍になって創生する 改
以前にテネブリスは母である始祖龍スプレムスから聞いていた。
それは自分たち龍の存在意義だ。
(テネブリス。良く聞きなさい)
(はい)
(我らの使命はこの星を見守る事です)
(見守る・・・)
既に大地は固まり火山活動もかなり少なくなっていて大きな水溜まりに、気候の温度差で地上が凍っている場所もあるほどだ。
草木が生い茂り小さな生命体も多種多様に見かける様になっている。
“少しずつ分裂する大地”を眺めながら、テネブリスによって母親と自覚させられたスプレムスが2人の娘に念話していた。
テネブリスは女性の思考が有る為、姉の真似をするアルブマは、いつの間にか妹になっていたのだ。
(この星が成長する過程において、いろんな種族が産まれて来るでしょう。その者たちに、ある時は手を差し伸べて、ある時は滅ぼし、繁栄と衰退を見届ける事です。そして、やがて来る魔素の枯渇への対策を考える事・・・)
(ええっ! 魔素が無くなると言われるのですか? お母様!)
(ずっと先の事だけどね。これは私の能力の1つ、予知夢で知ったのよ)
サラッと受け流すテネブリス。
((母様の能力を今更とやかく言っても仕方ないし・・・))
(それでは私達の食糧が無くなれば私達は死んでしまう訳ですか?)
(いいえ。ちゃんと考えてあります。ただ、それはもう少し仲間を増やしてからでないと出来ない事なの。その為にもテネブリス、あなたはそろそろ最終進化の次期では無いですか?)
これまでに数回有った成長の進化。
長い睡眠の後に身体の変化と、その都度様々な能力が開眼していたテネブリスだ。
その中で、前世で覚えていた魔法も自然に覚えたフリをして使っていた。
(ハイ。次の眠りにつけば最後の進化が始まると思います。・・・アルブマ)
(ハイ、お姉様)
(あなたが私を見守っていてくださいね)
(お任せください、お姉様)
テネブリスとアルブマは交互に進化の眠りにつき長い時をかけて成長していた。
そしていつもの様に巨大な洞窟でテネブリスが最後だと思われる長い深い眠りに着いた。
その寝姿にアルブマが寄り添うように横になり見守っていた。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
どれだけの時が経ったか、ある時テネブリスの身体が発光し膨張していく姿に驚くアルブマだ。
成長進化で全身が輝き巨大化する姿をアルブマが離れて見ていた。
眩い光が収縮し、大気中の魔素が吸い込まれるように黒い鱗が輝き出し、洞窟の暗闇の中で輝くテネブリスの姿が確認できた。
とても威厳のある巨大な角と雄姿、黒光りした鱗の輝き、優しい瞳に”姉”を見つめる妹が歓喜に震えながら側に居た。
進化が終わった事を確認するように咆哮を放ったテネブリス。
だがその咆哮は破壊と恐怖を暗示し、アルブマでさえ身震いするような力強さを秘めていた。
そんな暗黒龍テネブリス・アダマスに飛び付く聖白龍アルブマ・クリスタが騒ぎ立てる。
(凄い! 大きくなった! お姉様カッコイイ! )
母のスプレムス程では無いがかなりの大きさとなり、ずっと暮らして居た洞窟が随分と狭く感じるほどの成長だった。
(お母様。最後の成長が終わりました)
(立派になったわ。あなたもこれで成体ね。私と同じ・・・導く存在として、この星を育てていくのよ)
導く存在がどのような意味か直ぐには理解出来なかったが、続けて念話するスプレムスの言葉で理解した。
(私達はこの大地に時に恵みを、時には破壊を齎すのよ。あなたの場合は破壊が主な役目ですが、あなたの知識を知性ある生命体に助言として与えると良いでしょう)
((だよねぇ暗黒だもんなぁ。破壊かぁ別に壊すのは好きじゃないけど、それが使命なら仕方ないよね。私、龍だもん))
今の自分の存在意義に自問自答した時期も有ったが、この姿で長い時を過ごす事により目に映る状況が諦めざるを得ない事を認識させ、気持ちは吹っ切れていたテネブリスだった。
転生前とは全く違う場所と自分の存在。
最終進化前でもかなりの大きさだった為、飛翔して空を駆ける事を楽しんでいた時期もあった。
もっとも、速さを求めてしまう為に星を一回りする事など、さして時間の掛らないテネブリス。
飛翔の度に大地の形が変わり、噴火が少なくなって水面が多くなっていた事も気づいていた。
親であるスプレムスと”姉”のテネブリスに妹のアルブマ三体が飛翔する姿は雄大だが、この時期発生した小さな生命体にとっては死活問題で、三体の姿が見えると物陰に隠れたりする行動が見て取れた。
その小さな生命体が何で有るかはテネブリスには解らなかったが、特に気にする存在では無かった。
始めは昆虫かと思っていた存在が群れを成し、巣を作り大群を作るような行動をとりだすと流石にアルブマからも、”面白いモノが居る”と観察の対象となっていた。
だが、テネブリスの期待する生命体では無く、転生前に本で読んだ食用生物に似ていた。
瞼を閉じて、開けると気候が変わっていたり、生命体の種類も変わっていたりする時の流れを間近に見る事ができると、多少の期待を持つようになる。
それは進化だ。
眼下の生命体が進化する過程を断片的に垣間見る事で、エルフ的な存在が産まれる可能性に淡い期待を持つテネブリス。
だがそれは”時の向こう側の出来事”と考えを改めた。
今自分が取る行動は母であるスプレムスの考えの元、自らの一族を増やす事だ。
(はい、解りました、お母様。以前お話しした件ですが、さっそく初めてもよろしいですか?)
(えぇ初めて頂戴)
それはアルブマが初めて行う創生だ。
テネブリスは始祖龍スプレムス・オリゴーの1番最初の理解者だ。
龍種としてテネブリスにアルブマや今後創生される一族の眷族を増やす考えは以前から聞かされていて、その計画に提案をしていた。
母のスプレムスの子であるテネブリス達が更に子を創造し、その子にも創造させる。
徐々に体格を小さくして能力も制限する。
テネブリスが説明したのは、無作為に創生するのではなく属性などの計画を考える事だ。
(お母様を頂点として、私達、私達の子、孫、曾孫まで創生させます。創生は私の子が1体、孫が2体、曾孫が3体までとします)
じっとテネブリスを見つめて念話を聞いているスプレムスと、頷きながら聞いているアルブマだった。
(魔素の総量は、お母様が1だとして、私達が半分、子が10分の1、孫が20分の1、曾孫が40分の1として、体長と最大魔素に創生する子の数を制限するの)
制限する事には意味が有る。
それは以前スプレムスがテネブリスにだけに教えた事で、何事も失敗が有り成功を掴むと言う、言い訳の様な話だ。
実際は創生に失敗した事が有り、知性の無い者が産まれ”悲しくて辛い思いをした”と聞いていた。
それが何を意味するのか理解するのにさして時間が掛らなかったテネブリスだ。
自らも転生前に子を産み、離れ離れになった辛い経験を持って居る為だ。
(アルブマ)
(ハイ、お姉様)
(あなたもいずれ成龍となれば創生するのですから、良く見ておきなさいね)
(ハイ、お姉様)
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
暗黒龍の使徒創生。
龍の使徒とは、親龍の力を分け与えられて創生された生命体である。
実際はテネブリスやアルブマも同様だが、スプレムスを始祖として別格扱いとしたテネブリスだ。
使徒となる子は親龍と同様の能力を持っているが、扱える魔素量が大きく異なる。
スプレムスは星の魔素を確保する計画を優先させる為に、その他の事は子であるテネブリス達に指示を出して一任する事になって行く。
然るに自分の一族を順当に創生させて妹であるアルブマの手本と成る様に行っていた。
(まずは想像です)
瞼を閉じ集中するテネブリス。
(我が子の産まれてくる姿と、性格と、色などを細かく思い浮かべ、その子の力となる魔素を周囲の空間から全身で集めるの。魔素量を感じとり両手で放出して混ぜるように形にしていくわ)
身を持って教えるテネブリスの両手が輝きだす。
(集中してぇ、想像力を膨らませてぇ・・・集めた魔素の放出時間でこの子の力と強さが決まるのよぉ)
手から出ている魔素の先には光り輝く球体状の物体が出来ていた。
十分な魔素の放出が終わると輝きが終息していった。
(出来た・・・。お母様、出来ました)
(良く出来たわ。初めての創生で失敗無く出来たのはたいしたものよ。流石は我が子)
喜んでいるスプレムスだが、未だにその表情が解かり辛いと思っているアルブマだ。
しかし、長い年月を共にしていると解かった事が有る。
それは、このように喜んでいる時は鼻の穴が微妙に動くのだ。
他に変化は一切無いので、唯一の確認方法だと認識していた。
確信したのはアルブマが同様の動きを見せた時だった。
と同時に自身もその様にしていると自覚した瞬間恥ずかしくなったテネブリスだ。
聖白龍アルブマが興奮して凄い、凄いと騒ぎ出す。
テネブリスが飛び回るアルブマに念話する。
(私はあなたが創生される時を見ているのよ)
(ええぇっ!)
アルブマが恥ずかしそうにテネブリスを見ている。
(あの時は私が初めて見たから、今のあなたの様にはしゃいでいたわ)
笑いながらその時を思い出して念話するテネブリス。
スプレムスが、以前自分が聞かれていた事を我が子に対して聞いて見た。
(貴女、自分の子の名前は考えてあるの?)
(ハイ。ベルム・プリムです)
(あなたがいつも聞いていたけど、その名前の意味は?)
(ハイ、”始まりの真実”です)
(始まりの真実・・・・)
スプレムスは何か言いたそうだったが
(良い名ですね。真実ですか。我らの事を正しく教えなさい、テネブリス)
(ハイ、お母様)
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
アルブマの時より短い期間で羽化したベルム・プリムは、見るからにテネブリスを小さくした体躯で可愛かったのか、よくアルブマにおもちゃにされ遊ばれていた。
そんなアルブマを見てスプレムスから警告が入った。
(テネブリスはもう龍の使徒を実際に創生しているけど、アルブマはまだ成龍では無いので創生してはダメよ)
(何故ですかお母様・・・)
(それは・・・)
そう言ってテネブリスを見ると恥ずかしそうに打ち明けた。
(以前、お母様の言う事を聞かずに1度だけ試した事が有るの。そうしたらね・・・失敗しちゃったのよ。不完全なモノが出来ちゃってね。あぁ無かったことにしたいわ・・・闇に葬りましょう・・・)
言い付けを聞かずに大失敗したテネブリスは、前世と同様に怒られると思ったが、素直に謝るテネブリスに(もうダメよ)と優しくされた事が余程心に”くび木”を撃たれた様な感じがしていた。
当然ながら失敗作はスプレムスの手で”処理”された。
これも親の責任だと教えられてからだ。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
使徒であるベルム・プリムは創生から20,000年で成龍となる。
成龍となったベルムに指導し創生の手順を教えたテネブリス。
それはスプレムスから教わった言葉とまったく同じ物だった。
そしてベルムが創生する前にテネブリスから助言があった。
(ベルム)
(ハイ、お母様)
(あなたの子は我ら龍族と植物の合成体にしてみましょう)
(植物の合成体ですか・・・)
(えぇ、そうよ。勿論理由があります)
(宜しければお聞かせ願えますか?)
(我ら龍族が無酸素空間でも活動可能な事は知っているわね?)
(ハイ)
(我らの母なる始祖龍スプレムス・オリゴーの計画では龍種以外で多少の生命体も必要なの。その生命体を維持する為にも酸素を生み出す植物が必要なのよ。ただ単に植物があれば良い訳では無いのよ。計画ではかなりの広さに必要だと聞いているわ。私やアルブマ、これからお母様が創生する龍にも孫にあたる子孫は合成体となるわ)
(分かりました、お母様。ただ・・・植物と言われましても・・・)
(ベルム。私があなたにお願いしたいのはソコなの)
どの部分なのか理解出来ないベルムは首を傾げていた。
(?)
(以前あなたと飛んでいた時に、真っ赤な花が一面に咲いていた場所を覚えているかしら?)
(・・・ハイ。お母様)
(アレを使ったらどうかしら?)
(畏まりました、お母様)
ベルムはその花が咲き乱れている場所へ飛んで行き、土ごと一握りの花を根から掘り起しを持って来て確認した。
(お母様こちらで宜しいですか?)
(えぇそうよ)
それは真っ赤な花びらが幾重にも重なり、大輪の花を咲かせていた。
(では、初めます)
(頑張ってベルム)
始祖龍スプレムス、テネブリス、アルブマに見守られて目を閉じ集中するベルム。
両手で花を持ったまま集中するベルム。
そして、教わった通りまずは想像した。
どの様な龍の形で、性格、色などを細かく思い浮かべ、その子の力となる魔素を周囲の空間から全身で集める。
魔素量を感じとり両手で放出して混ぜるように形にしていく。
集中し想像力を膨らませる・・・・集めた魔素と放出時間でこの子の力と強さが決まる。
手から出ている魔素の先には光り輝く球体状の物体が出来ていた。
卵は赤と黒のマダラ模様だった。
(凄いわベルム、卵に赤色が入っているわ)
(・・・卵に模様がうかんでる)
驚くアルブマに照れながら初めて創生した卵を見て感想を呟くベルム。
(大切に育てるのよ)
(ハイ、お母様)
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
そして生まれた龍は見た目はテネブリスやベルムに似ているが、違う部分が数か所あった。
角、爪が赤い。
背中にトゲトゲがあり濃い緑だ。
よく見ると舌が真っ赤だ。
他は、目、鱗は黒。
ちょっとカッコイイとテネブリスは思った。
スプレムスが、テネブリスに問いかける。
(この子の名前はどうするの?)
テネブリスはベルムの顔を見て頷きベルムが告げる。
(これは暗黒龍テネブリス・アダマスの使徒ベルム・プリムが植物を元に創生した最初の生命体でロサと申します)
スプレムスが嬉しそうに微笑んでいるが龍の表情は微妙だが鼻孔は動いている。
(テネブリス、ベルム、おめでとう)
「「ありがとうございます。お母様」」
(おめでとうございます。お姉様、ベルム)
アルブマも祝ってくれた。
暗黒龍の使徒が第1ビダであるロサは創生から10,000年で成龍となる。
ロサ誕生と同時期に聖白龍アルブマ・クリスタが成龍になる成長進化が始まった。
成長日記「テネブリスの成龍時点」
暗黒龍・・・テネブリス・アダマス・・・体長70km、成龍。
暗黒龍の使徒であるベルム・プリム・・・卵の大きさ・・8km・・生後6km
「生後20,000年、体長20km、成龍」
暗黒龍の使徒の第1ビダであるロサ・・・「卵の大きさ・・700m・・生後600m」
聖白龍・・・アルブマ・クリスタ・・・・生後40,000年、体長45km。
転生前から90万年前の出来事。
話し方が丁寧になって行くのはテネブリスが念話での言語教育した賜物です。
龍の使徒とはそれぞれの親龍が力を与え創造した生命体(性別無し)の事である。
使徒の第1ビダとは、使徒が創造した最初の生命「Primero Vida」の意。
(成長後性別有、後に人化する事により交配も可)
ある程度の龍が揃うまで時空短縮で進めます。