第23話 忌まわしい出来事4
神の研究実験は二つの眷族が頑張っていた。
その実験は、まるで競い合う様に行なっていたのだ。
眷族の研究所は少ないが、かなりの人数で長期にわたり成功するまで行う予定だ。
一つの研究機関から研究とは関係のない全く別の要望が出た。
それは種族名だ。
最近片方で種族名が決まったと言う話しを自慢されて、もう片方も種族名を授けて欲しいと眷族の神に懇願してきた。
今までは僕の年長者に任せていたが、流石に部下の要望が抑えきれないらしいのだ。
そうなって来ると暗黒龍の使徒ベルムと聖白龍の使徒ベルスの問題だ。
何故ならばテネブリスの一部を代行しているのがベルムだからだ。
ベルスの自室で唇を押し付けるベルム。
秘密にしていた親達の行為を子供達が見て真似たのだ。
最初は抵抗していたベルスも、今ではベルムを受け入れていて、自らが率先している位なのだ。
「それで、どうするの? 貴女の眷族の種族名は」
「特に考えて無いわ・・・」
「もう、可哀想よ」
「そんなの自分達で決められないのかなぁ」
「彼らは神の言葉が聞きたいのよ」
「私達は神じゃ無いわよ」
「下界の者には解らないわ」
裸で抱き合いながら、互いの唇をついばむ行為を楽しむ2人だ。
室内の壁に備え付けてある遠隔地情報の画像を見ながら適当な事を思い付くベルム。
「貴女のエルフ達と私の眷族は髪と瞳の色が違うだけで体つきは同じよね」
「まぁ元々僕の末裔と龍人の混合種の末裔を交配したからねぇ」
「そうよね、ちょっと時間はかかったけど神々の要望も叶ったし良かったわ」
「そうだ、姿が似てて色だけ違うからさ、ダーク・・・ダークエルフってどう?」
「何か安易じゃない? 怒られるわよ、テネブリス様に」
「大丈夫よ。お母様達も私達たちと同様に・・・」
「・・・もうベルムったらぁ・・・」
ベルムが下界にいる眷族の種族名の報告をしようとした時、テネブリスの意識は無かった。
「お母様は又お休みになられた様ね」
「貴女に伝言が有るわベルム。今後お姉様の意識が有る時も無い時も眷族の指示は貴女が行なう様にと」
「ええっ」
「お姉様の代理よ。今のお姉様の眠りの間隔は長くなっているわ。そして要望は”あの二つ”だけ。後は貴女に任せるって」
「・・・解かりましたお母様」
テネブリスの寝顔を見ながら答えたベルムだった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
テネブリスは意識的に眠っている。
いや、眠る事を選択したのだ。
それは、初めて魔素切れから目が覚めていつもの様に生活を始めてから数日後に起こった。
“ドクンッ”
転生してから初めての動悸。
急に激しく心臓が鼓動を始め、めまいがする。
意識が遠ざかる。
魔素切れの時と似ているが明らかに違うのだ。
“何かに引っ張られる”感覚が有る。
「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ・・・」
壁に手を当てて意識を集中する。
(何これ、病気なの?・・・横になって休もう)
それからというもの、時折訪れる動悸。
意識が途切れ、気が付くと自室で目を覚ます。
記憶に無い支持を眷族が聞いて報告に来る。
(いったい何かどうしたの? 私どうなってるの?)
どれだけ長い時を生きて居ても初めての体験に困惑し不安で一杯のテネブリスだ。
その不安を唯一話せたのは最愛の妹だった。
「・・・でね、私が私じゃないみたいで怖いのよ。貴女も気を付けて」
「お姉様・・・」
原因は分からない。
精神異常や毒など状態異常も、テネブリスは無効化出来る体質だ。
それでもあえて魔法を唱えるアルブマ。
効果が有るかは解らない。
そんなある朝。
自室で寝ていたアルブマの目覚めを襲う者が居た。
「ああぁぁぁ・・・だめぇぇぇ・・・もうお姉様ったらぁぁ・・・!!!」
ガバッと起き上がるアルブマだ。
何故なら最愛の姉は最近寝たきりだからだ。
しかし、裸で身体をまさぐっているのは、まぎれも無い姉だった。
「どうしたのアルブマァ。いつもの様に可愛い声を聞かせておくれ」
ドンッと突き離し距離を取るアルブマ。
「お姉様・・・違うわ。あなたは誰? お姉様の姿に変身したって解かるのよ」
眉間に怒りが集中しているのが相手にも見て取れたのだろう。
「何を言いだすの、アルブマ。あなたは私のモノでしょ。さぁ、いつもの様に愛し合いましょう」
その歪んだ笑顔を見て背筋がゾクッとしたアルブマ。
目の前に居るのは明らかに最愛の姉だ。
しかし、異様ともいえる雰囲気を危険と察知し警戒を緩めない。
「貴女は・・・誰? お姉様じゃ無いわ」
「クククッ、何を言いだすのかしらアルブマったら・・・さぁ、おいで・・・」
ジリジリとだが、少しづつ壁際まで2人の位置が移動した。
いつもの様に愛する妹を招きよせようとする姉と、姉の異変に気付いた妹が距離を取りながら後ずさりしていた。
気が付くと背中に壁が当り、横に移動するしか無い事に気づくが、すかさず姉が壁に手を押し付けた。
「どうしたの・・・さぁアルブマ、いつもの様に・・・」
テネブリスの歪んだ顔が近づくと、目を閉じて大声で叫ぶアルブマだ。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳元で大音量の叫び声に反応するテネブリス。
ドン!!
「止めろぉぉ、アルブマに手を出すなぁぁぁ!!」
両手を壁に当て、自らの額を壁にぶつける。
「お姉様・・・?」
「アルブマは部屋から出ろぉぉ・・・クッ」
【まだ抵抗するか・・・もはや我を解き放せ。そうすればお前も楽になれるのにねぇ】
「させない・・・絶対に守るわぁぁぁぁぁぁ!!」
【クククッまぁ良いでしょう。いずれ交代の時が来るまで待つ事にするわ】
そう言い残し、床に崩れ落ちたテネブリス。
「お姉様!! シッカリしてお姉様ぁぁぁぁぁ!!」
二度目の叫び声で、ようやく異変に気付いたのか世話係が部屋に入って来た。
姉の異変は即座に母であるスプレムスに報告するために向かったアルブマだ。
「・・・お母様。いったいお姉様はどうなってしまったのかしら・・・」
「・・・あの子は・・・何かをずっと我慢していたと思うわ」
「我慢・・・ですか?」
「ええ、そしてこの前の隕石襲来の時、魔素が無くなるまで頑張った事が関係あると思うのよ」
「はい。私もその事を考えていました。ですがお母様、先程のお姉様は・・・まるで別龍の様な雰囲気と仕草をしていたわ。まるでお姉様の中に別の者が居る感じなの」
「・・・」
母娘で不安な胸中を語るも過去に無い龍種の挙動に困惑し、安静のまま様子を見る事にしたのだった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
久しぶりに自室で目覚めた部屋の主。
当たり前のように妹が世話をしていた。
「・・・ねぇアルブマ」
「なぁに、お姉様」
「あの隕石はどうなったの?」
アルブマは答えた。
隕石は無事に大地に埋まり封印された事を。
そして、その前後の経緯を説明した。
巨大隕石が惑星に衝突・・・では無く吸収封印された時の衝撃は見た目よりも深刻だったと惑星を管理する僕の部隊が調べた数値が物語っていた。
それは地軸が傾いたのだ。
また巨大隕石に気を取られ、後方から迫っていた無数の小型の隕石に気づかず、大隕石の後方に衝突し爆散した後、惑星に飛散したのだ。
衝突の衝撃で巨大隕石の落下速度が加速した事も計算外だった。
龍人が飛散した全ての隕石に対処できず、幾つかの隕石が大地に激突した。
その影響で巻き起こった粉塵が空を越える勢いで舞い上がり大地を覆った。
その後、降り注ぐ輝く光が遮られ惑星の半分はとても寒くなり、幾つかの文明と沢山の生命が失われる事になった。
静かに語るアルブマの報告を聞いて、テネブリスは自分の発案が安易だったことを後悔していた。
もっと慎重に考えていれば・・・と。
そして自身の異変に不安を抱きながら眠りにつくのだった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
本来、体内の魔素が無くなってしまえば例え龍種としても死に直面してしまう。
しかし、活動する原動力となる魔素が体内から無くなる事は無い。
体内の魔素が二割を下回ると、急激な生命維持制御で体内機能が急停止してしまうからだ。
一般的には”気を失う”事となる。
龍種の場合も同様だが、テネブリスの場合は事情が違った。
転生してから睡眠以外で初めて本龍の意識が無くなり、抑え込まれていた本龍の属性自我が目覚めたのだ。
それは“何もかも奪われて全てを欲する寂しがりの心”が思いのまま自由に行動出来るようになったと言う事だ。
既に数回に渡り、身体の入れ替わりを経験した”闇のテネブリス”。
いつも心の奥底で状況を感じてはいたが、自分の意思で行動する事に浮かれていた。
そんな”闇のテネブリス”は機会を伺っていたのだった。
ある日、パッチリと目が覚め上半身を起こし歓喜をこらえきれず笑う者がいた。
「ふふふっ、あはははは。もう私のモノよ・・・」
何度が支配した身体を使い行動した結果、失敗したのは”あの個体”だけなので、その個体さえ注意していればうまく入れ替われると考えていた。
そしてもう一体。
気配だけで危険な存在。
それは自らを創生した個体だ。
配下の者達は疑う事を知らず命令には寡黙に従うだけだ。
注意するのは”二つの個体”。
「全てを奪ってやる・・・私が無くしたモノの替わりにこの世界の全てを常闇の暗黒の中に引きずり込んでやる・・・」
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
ある日、テネブリスは1人で歩いていた。
龍国の中を隅々まで1人で歩いたのだ。
とは言え、中心部分と特別な個体の近くには行かなかった。
何故ならば大いなる力を感じる場所と、自らを拒絶する個体が存在するからだ、
勿論、国内をわざわざ確認しなくても”知っている”のだが、”自らの意思”で確認したかったのだ。
“自分”が指示した魔法や魔法陣の研究所や眷族達とも直接話しかけ違和感の無い事を再確認し、妹弟の領域にも顔を出す。
「姉貴!! どうしたんだ」
「あら、私が来るのは変かしら?」
「いやそうじゃ無くて・・・大丈夫なの?」
「ええ、貴女の可愛い顔を見て元気になったわ」
「なっ!!・・・」
滅多に褒めない姉が、眷族が大勢いる中で可愛いなどと褒め言葉をかけてくるので真っ赤になるセプティモだった。
狼狽えるセプティモに近づき抱きしめて頬を摺り寄せる姉だ。
「ああ、可愛いセプティモ。今度良い事しましょう、お姉ちゃんが教えてあげるわ」
耳元で囁く姉にドキドキしながら反抗する妹だった。
「止めて、何言ってんだぁ姉貴ぃ」
久しぶりに至近距離で姉の顔を見ているが何とも言えない、その目が怖かったセプティモだった。
まるで瞳の奥から襲われるような感じがしたのだ。
だが、そんなセプティモを軽くあしらい次の領域に向かうテネブリス。
向ったのは綺麗な水が大量に流れる地区だ。
「セプテム、居るかしら」
「姉上!! いったいどうしたのですか!?」
「ふふふ、お利口さんのセプテム。貴男だけが頼りよ」
そう言って抱きしめるテネブリス。
普段そのような行為などは一切せず、毅然とした態度で種族長たる振舞いの姉を尊愛していたセプテムが驚いた。
勿論、抱きしめられた事もさることながら、姉の豊満な胸部がとても柔らかかった事にだ。
テネブリスの身に何が・・・
ときめくセプテム。