ACT.68 最後の一閃(Ⅰ)
「――ギンコ?」
懐から突如現れカイトを助けたのは、ジライヤから託された白銀の体毛を持つ妖狐・ギンコだった。
普段呼ばれないと来ない、来ても言うことを聞かないその妖狐が自身を助けたことに、カイトは驚く。
「お前、どうして」
カイトのその言葉を聞いたギンコは、ふんと鼻を鳴らし呆れたような表情を作る。
その表情は、どことなく今までのモノとは違う気がした。
カイトはそれを見て、何となく察する。
「――一緒に戦ってくれるのか?」
『KUn』
仕方ないといった素振りで頷くと、ギンコは一声鳴いた。
その瞬間、ギンコを眩い光が包み込む。
光が晴れると、そこには空中に一本のカタナが浮いていた。
「これは」
うっすらと紫色の光を宿す刀身、柄も鍔も純白、柄頭には狐の尾を思わせる飾りのついた、不思議な美しさを持ったカタナだ。
思わず、カイトはそのカタナを手にする。
手にした途端、システムアナウンスが視界に表示される。
『【魔剣:銀光】を装備しました。特殊効果により、パッシブスキル【血の対価】、アクティブスキル【古月斬破】を限定習得します』
『【血の対価】:HP残量に反比例して、【古月斬破】の威力を上昇させる(最大500%)』
『【古月斬破】:自身のHPを消費(最大HPの20%)して、通常攻撃力の300%の斬撃を飛ばす。』
そのアナウンスに瞬時に眼を通し、カイトは強く柄を握りしめる。
カイトが感じたのは確信だ。
「よし、やれる」
これならきっと、あの青いオーラを貫通して目の前のクソトカゲを叩き斬れるという確信。
だが、カイトの変化に気が付いたセイリュウⅡもまた、警戒色を濃くする。
そこへ、ライガがカイトに駆け寄る。
「――それ、良さそうだね」
「えぇ、きっと当たれば勝てます」
「了解しました。なら、当てる隙はボクたちが稼ぎます」
そう言うと、ライガは右手を大きく頭上に掲げて、叫ぶ。
「皆さん、ここが最後の正念場です、気張っていきましょう!!」
全員を鼓舞する叫びを上げたライガは、小さく息を整え再び叫ぶ。
「【奥義:|悪シキ鬼ヨ、ソノ腕落トセ《ラショウモン》】!!」
ライガが必殺の奥義を唱えた瞬間、彼の背後に古びた巨大な門の幻影が出現する。
そして幻影の門が開き、中から巨大な鬼の右手が伸びる。
『GUYRTya!』
その鬼の手がセイリュウⅡに届いた瞬間霧散し、赤い霧に代わる。
赤い霧はそのまま、セイリュウⅡに纏わりつく。
「ボクの奥義は、相手の全ステータスを五分の一だけ落とします。――ただ、制限時間があって、ボクも動けなくなるので容易には切れませんでしたが」
それを聞いて、奴に視線を向けると、心なしか息苦しそうに見える。
確かに、ライガの奥義は効いているようであった。
「今のうちに!!」
「――ありがとうございます!」
そういって、カイトは走り出し、スズハヤを含めた残存メンバーも同時に動き出す。
ここからが、本当の最終局面だ。
羅生門は、平安時代に頼光四天王の渡辺綱が、鬼(茨木童子)退治をした場所です。
その際に鬼の右手を切り落とし持ち帰ったそうですが、あとで右手は鬼に取り返されます。
右手を取り返した時に鬼は「お前強すぎるから、金輪際子孫にも関わらないでおくわ(意訳)」と言って去りました。
以降、「渡辺」の性を持つ人の元へは、鬼が来なくなったそうです。
だから「渡辺」さんは、節分の時でも豆まきをしないのだそうな。
その逸話になぞらえて、【奥義:|悪シキ鬼ヨ、ソノ腕落トセ《ラショウモン》】は五体のうち右手分――つまり五分の一ステータスを下げる能力なんですね。




