ACT.64 “最強”の意地(Ⅱ)
「疾ッ!」
ジライヤは駆ける。
彼のステータスはAGI型ではないが、そもそも一般のシノビとはまさしくレベルが違う。
ひとつはレベルの最大値。
通常は職業レベルはLv85という上限があるが、称号職を獲得するとその上限がLv160まで延長される。
現在はLv148ーー通常のシノビを軽く凌駕するレベルを所持している。
レベルが高いということは、そもそもの基礎ステータスが高いということであり、事実その数値はAGI型とも遜色無い値を叩き出していた。
「油遁:蝦蟇油弾!」
走り距離を縮めながらも、ジライヤは牽制を兼ねて油の弾丸を放って攻撃する。
砲撃の様な弾丸は、着弾と同時に砲弾を受けたようなダメージと、油がベタベタと重く絡みつき、そのうごきを鈍化させる。
そして、近づいてくるジライヤに対し、セイリュウもまた黙って見ているだけでは無い。
セイリュウが大きく口を開け、そしてーー。
「っ!」
瞬時に何かを感じ取ったジライヤは、転がる様に横へ跳ぶ。
すると次の瞬間、ジライヤが居た地面が抉れ吹き飛んだ。
そして、そこを見ると、赤何かが、セイリュウの口内からピンと伸びていた。
この攻撃の正体は、舌。
セイリュウは、カメレオンの様に長い舌を弾丸の如き速度で発射して攻撃仕掛けたのだ。
ジライヤが唖然とするのも束の間、瞬時に舌は巻き戻り、セイリュウの口内に収まったところで再度発射される。
「(攻撃間隔はそう狭くないが、射程と威力が馬鹿にならない! こちらは隙が生じる大技か、額のコアを攻撃しなきゃ有効打にならないのに、向こうは全部一撃必殺!)」
容易に近づけない、有効打を与えられず、舌弾を回避し続けるジライヤ。
ーーしかし、それでも彼の眼には絶望の色は無い。
その様子に痺れを切らしたセイリュウは、舌弾の発射間隔を早める。
「ーーくっそ!」
段々と高速化していく攻撃に、ジライヤの回避が間に合わなくなっていく。
それに味を占めたセイリュウは、内心ほくそ笑みながら更に速度を上げていく。
ーーそして遂に。
ガゴンッ!!
轟音を立てて、舌弾はジライヤに命中した。
周囲にやたら滅多に舌弾を撃ち込んだ為、土煙が酷く狩った獲物の姿は確認出来なかったが、セイリュウの舌は確実にジライヤを仕留めた感触を伝えていた。
内心でニンマリ嗤ったセイリュウは、舌を戻す。
『これで邪魔者は消えた、後は羽虫を潰すだけ』だと更に首を持ち上げようとした。
ーーその瞬間、額に激痛が走った。
『GyaUNUuu!?』
その尋常ならざる痛みに、セイリュウは悲鳴をあげる。
何が起こったかわからないセイリュウに対して、痛みの原因がこう話しかける。
「ここまで連れてきて、ありがとな!」
セイリュウの頭に乗り、額のコアにクナイを突き刺しながらジライヤは答えた。
自分が倒した筈のジライヤの声に、セイリュウは混乱する。
ーー馬鹿な、確かに倒した筈だと。
「あの時、土遁:代わり身を使ってやられたフリをしたんだよ。ーーそして、巻き戻る舌に乗ってここまで来させてもらった!!」
そう、舞っていた土煙の所為でセイリュウは、ジライヤの代わり身に気が付けず、そして舌裏に張り付いた彼の存在にも気が付けなかったのだ。
こうしてネックだった距離を縮め、到達した頭部でジライヤは思いっきりコアを攻撃する。
再び襲ってきた激痛に、振り解こうとするが首が動かない。
それは首に括りつけられた縄を引き固定しようとするシノビたちの力、そして初めにジライヤが牽制に放った油が固まって動きを阻害していた。
『GurrrrruGaaaAAAaa!?』
セイリュウは絶叫する。
どうしようもなく詰みな状況。
ーー自身が見下し、踏み潰してきたゴミ屑どもに、命を握られる恐怖。
絶対強者として生まれ、感じることのなかった恐れに、無縁としていた恐怖に。
『(ーーた、助けっ)』
ここで何故か、ジライヤはセイリュウの懇願を聞いた気がした。
その声に、ジライヤは二マリと笑い、答える。
「ーー嫌なこった!!」
ジライヤはそう言い、コアに突き刺したままにしていたクナイに勢いよく肘打ちを喰らわせる。
『ーー!!』
瞬間、一際大きなセイリュウの絶叫と共に、額のコアが砕け散った。
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