ACT.45 ファースト・コンタクト(Ⅲ)
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その後、クロスの案内でカイトたちは、【暗夜公忍軍】の拠点へとやってきた。
忍軍を立ち上げると、その活躍に応じて得られるGptを消費して、拠点の購入ができ、そこには忍軍メンバーと代表が許可した人物だけが入れる。
拠店の規模や大きさというのは、ある種その忍軍の実力を示すステータスでもある。
その点で言えば、【暗夜公忍軍】の拠点は、その威を示すのには、十分と言えた。
「――でかっ!」
レナが思わすそう漏らすのも無理はない。
その拠点は、巨大な武家屋敷であった。
門だけで数mありそうなその屋敷の前に立って、クロスは声をあげる。
「たのもー! 件のカイト殿たちを連れて参った! ライガ殿に面会願いたい!」
クロスがそう叫ぶと、ギギギギと言う音を立てながら門が開かれる。
すると中から一人の女性が現れた。
年齢は二十代中ごろ、肩で切り揃えた短い髪に眼鏡をかけた清潔感のある女性だ。
「当忍軍の拠点までいらしていただき、ありがとうございます。あなたがカイト様ですね」
そう問われて、カイトは頷く。
「わたくしは、当忍軍の副代表をつとめさせていただいています、カゲツと申します。以後お見知りおきを」
そういって女性――カゲツは会釈する。
その姿に慌ててカイトも頭を下げた。
「――しからば、案内はしたので、拙僧はこれで」
「えぇ、ありがとうございました」
そう言ってクロスは、踵を返して来た道を戻っていった。
あとに残されたのは、カイトたち三人と、カゲツのみ。
「それでは、代表が中でお待ちですのので、おはいりください」
カゲツにそう促され、カイトたちは屋敷内に足を踏み入れた。
▽▲▽
広いその屋敷の外廊下を歩くと、その豪華さは目を見張るものがあった。
床板は奇麗に磨かれ、ほのかに落ち着く木の香りがする。
廊下から見える庭園には、鯉の跳ねる大きな池と満開の桜という美しい光景が広がっていた。
豪華と言えど、悪趣味な絢爛さはなく、不思議と心を落ち着かせつつも高揚させるような不思議な趣があった。
「すごく綺麗な屋敷ですね」
「あぁ、そうだな」
その光景に感嘆するナギに、カイトが同意する。
「お褒めにあずかり恐縮です」
その会話を聞いて、カゲツがほほ笑む。
「そういえばカイト様たちは、まだ忍軍には所属してないのでしたね。良かったら、当忍軍に所属して見ませんか?」
「え?」
何気なく拠点の雰囲気を褒めたら、まさかの勧誘が来たことにカイトは驚く。
「いや、俺たちじゃ力不足ですよ」
そう言ったカイトの言葉に、カゲツは静かに首を振る。
カイトの言葉を謙遜と受け取った彼女は、こう言葉を続ける。
「お三方だけで“予兆”の二つ名を討伐できる実力があるなら、何の問題もありませんよ?」
「それでも反対意見って出ないんですか? こう、『ビギナーズラックの新参者ふぜいがー』みたいなの」
「そんな者、握り潰します」
何気なくレナが言った言葉に、そう笑顔で返すカゲツ。
その笑顔には、謎のすごみがあった。
今の言葉で、カイトたち一行は「あ、この人怖い人だ」と直感した。
しかし、その言葉の中にふと不自然な点があることにカイトは気が付いた。
「あの、何故俺たちが“予兆”の二つ名を倒したことを知っているんですか?」
確か後日確認した時、ナギは「CO-ROU・THE・CHRONICLE」の攻略サイトや掲示板で【“青冠”の嶺兎】の件を書き込んで、情報を伝達させたと言っていた。
何かトラブルが起きないように、カイトたち個人の情報は出していない筈である。
ソレに対して、カゲツは意味深に笑う。
「ふふっ、当忍軍は構成員五十を越える大所帯。情報網を甘く見てはいけませんよ」
「怖っ! ネット社会怖っ!!」
レナがそう叫んだところで、一行はある部屋の前に到着する。
「この書斎に、当忍軍の代表ライガがいます。わたくしは、ここで待機しているのでお帰りの際はお声がけください」
「わかりました」
そう返事したカイトは、その部屋の襖の取っ手に手をかける。
そしてレナとナギに目配せをして、声を出して襖を開けた。
「失礼します!」
その部屋は、言葉を選ばない表現をするならかなり汚かった。
汚かったというか、すごく散らかって居た。
本棚に収まりきらなかった書籍はあちらこちらに乱雑に積まれ、床に乱雑に散らかり、書斎の机の上には書類らしき紙束が、今にも崩れ落ちそうなバベルの如く積まれていた。
「――。」
あまりの散らかりっぷりに、カイトは思わず絶句した。
「あ、ごめん! ちょっと待ってて!」
すると、机の上の紙束がしゃべった――否、紙束の後ろで声がした。
そしてその紙束の後ろから、散らばった書籍を崩しながら、ある男が現れた。
肩よりも少し長いくらいの長さの白髪に、深緑の羽織と藍色の着物をきっちり着こなした、少し気弱そうな優し気な風貌の男だ。
この書斎の雰囲気もあって、シノビというより、どことなく頼りない文官といった印象をカイトは持った。
そんな彼は、少し困ったような、申し訳なさそうな顔をしてこう言った。
「初めまして、ボクはが【暗夜公忍軍】代表のライガです。あ、あははは、散らかっててごめんね!」
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