閑話休題その3 レナのお見舞い(後編)
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整った顔立ちに切れ長の瞳、夜のような黒く長い髪、ビジネススーツを着こなしたすらっとした体形の美女がそこにはいた。
瞬間、玲奈の表情と身体は硬直する。
無論、予想外の衝撃に思考だって止まっている。
そんな玲奈を不審に思った美女が、麗奈に問いかける。
「もしかして、しーくんのお友達?」
「――しーくん!?」
ここでまた、かわいらしい名前が出た。
文脈からして、この女性のいう“しーくん”とやらは慎二のことを指すようだ。
え、この二人どういう関係?っといった特大の疑問符が玲奈の頭に浮かぶ。
ここは、探りを入れねば、と玲奈は一歩前に出る。
「わ、わたしは凧谷君の友達の天神玲奈です、貴方は――」
「え、貴女が天神さん!?」
玲奈のその言葉は、女性の驚いた言葉に遮られた。
言葉のニュアンスは、何故か喜んでいる風だった。
「あ、もしかしてお見舞いに来てくれたの? ありがとう、荷物は私が持つからさぁ、あがってあがって!」
「え、あ、その!?」
突然の良反応に困惑する玲奈。
その玲奈の反応に何かを察したらしい女性は、慌ててこう自己紹介した。
「私は凧谷一姫、慎二の姉よ。彼女とかじゃないから安心しなさい」
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そうやって案内された室内は、あまり物のない部屋で会った。
肝心の慎二は、奥の寝室で寝ているらしい。
「ソファーにでも座ってて、今お茶出すから!」
「あ、はい」
そういって一姫はパタパタと台所へ向かう。
彼女のそんな後ろ姿を見て、玲奈は小さく嘆息する。
「まぁ、普通に考えればそうだよね」
そう、一人暮らしの慎二が風邪を引けば家族がお見舞いに来るのは必然。
つまるところ、玲奈の野望は最初から成立していなかったのだ。
「いやー、わざわざありがとうね」
「あ、いえいえ」
そうやって二人分のお茶を運んできた一姫は、ソファーの前のテーブルにソレを置き、自分は椅子を向かい側にもってきて座った。
「まさか、しーくんがいつだったか話してくれた天神さんとやらが、こんなかわいい女の子だったとは――」
「え、私のことなんか言ってたんですか!?」
「うん、ほぼ悪態だったけど」
そのことを聞いた玲奈はがっくりと肩を落とした。
「でも、しーくんって普段自分や周りのことを話さない子だから、それってすごいことだよ」
「そう、なんですか?」
「うん、多分口には出さないだけで、天神さんのこと大事に思ってるよ」
その言葉を聞いた玲奈は、危うくにやけそうになる口元を必死でこらえた。
多分、帰り道はスキップして帰るのだろう、そのくらい内心でうれしがった。
「それじゃ、あとは天神さんに任せて私は帰るね?」
「――え!?」
「仕事抜け出してきたから、どちらにしろ、そろそろ戻らなきゃって思ってたし。それに――」
そういって一姫は、意味深な笑顔を浮かべる。
「そっちのほうが、お互いのためかなって」
「え、いやそれってどういう!?」
「まぁまぁ、それじゃね!」
言うが早いと言わんばかりにさっさと帰り支度を済ませた一姫は、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
「どうしよう」
その場に残された玲奈は、しばらくの間立ち尽くした。
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しかし、その後の玲奈は欲望に身を任せるようなことは当然せず、まじめに慎二の看病をした。
何故なら、所詮は玲奈。
いたずらするような度胸なんてはじめからなかったのである。
起きたら食べられるようにおかゆを作り、枕元にスポーツドリンクを置き、額の濡れタオルを交換したり。
「――一通りは終わったかな?」
そういって、眠る慎二の額に手を置く。
そこから伝わる体温は、いくらか下がってきているように思えた。
「これなら大丈夫かな」
慎二の体調の回復を感じ取った玲奈は、そそくさと帰りじたくを始める。
「流石にいつまでもいたら迷惑だよね」
そんなことをいって、最後に一目、眠る慎二を見つめる玲奈。
眠る慎二の頭を優しくなでる。
「じゃあね、早く元気になりなさい」
そういって、今度こそ玲奈はこの部屋を去っていった。
「――別に、いてくれてもよかったのにな」
そして、明かりのない部屋にこんな声が響いたことは、誰も知らない。
次回より、コラボ番外編が始まります!
コラボ先は、俊郎先生の『ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で自由に楽しく生きていく!スローライフ風味のまったりのんびりハチャメチャライフ!?~』です‼︎
コロウのキャラクターたちもあちらの世界にお邪魔していますので、是非ご覧ください!
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