ACT.34 ”青冠”は嗤う(Ⅱ)
「わ、わたしには、無理です――」
そういってナギは、急に頭をかかえてその場にうずくまる。
その突然のナギの行動に驚愕するカイトだが、現状が驚いていられる状況ではないので即座に頭を切り替える。
「レナ! 撤退するから少しだけ頼む!」
「わ、わかった! でもあんまり保たないから、手早くお願い!」
「了解!」
そしてそのままカイトは【“青冠”の嶺兎】の手を離し、即座に印を組む。
「【木遁:韋駄天】!!」
即座に【木遁:韋駄天】を発動させ、速度を上昇させて戦線を離脱する。
途中にうずくまるナギを回収しつつ、安全な場所まで非難した彼は、急いでメニュー画面を開く。
そこのクエストの項目から、撤退を選択。
すると瞬く間に周囲の景色が漂白されてゆき、気が付くとカイトたち三人は、ミナトのクエストカウンター前にたたずんでいた。
「――なんとか、全員欠けずに戻れたな」
「私はちょっと危なかったけどね」
レナはそういって肩をすくめるが、どこか精神的には余裕そうだ。
だが、問題はナギだ。
彼女は、未だ膝を抱えて震えていた。
そんなナギに、レナがやさしく語り掛ける。
「――どうしたの、ナギちゃん? わたしたち、なんかしちゃった?」
「ち、ちがっ!? そうじゃなくて――!」
「事情を話してくれないか?」
カイトのその問いかけに、びくりと肩を震わせるナギ。
「――大丈夫、怒ったりしないから」
そうやってカイトは優しげに声をかける。
普段のカイトとは違う優しげなその声に、少し安心したのか、ナギが少しづつ話し始めた。
「――実は、怖いんです」
「怖い?」
「はい、みんなで遊ぶことが、わたしは怖いんです」
▽▲▽
わたしは、以前始めたばかりのころは普通に仲間がいました。
五人でパーティーを組んで、いろんなクエストで遊んでいたのです。
ある時、突如現れたという二つ名の討伐に向かったんです。
その戦いは、苦戦を強いられました。
みんな必死で戦って食らいついていきました。
でも、そんな中でようやく勝機がおとずれたのです。
ここで、わたしが一撃を当てれば、勝てる――そんなときでした。
緊張したわたしは、あろうことかここで、仲間に向かって誤射してしまったのです。
その誤射が決定打となって、わたしたちは敗北しました。
戻ってきた後、わたしは誤射してしまった彼からすごく責められました。
「ふざけるな」
「お前の所為だ」
「お前さえいなければ勝てた」
「足手まといだった」
「疫病神」
そんな私をかばってくれるメンバーもいたのですが、結局それをきっかけにパーティーは崩壊してしまって。
それ以来、わたしはパーティーで攻撃技を打てなくなってしまいました。
打とうとしても、怖くて足がすくんで、手が震えてしまうんです。
だから、ずっと一人で遊んできました。
――けど、あの時見てしまったんです。
楽しそうに遊んでいるレナさんとカイトさんの姿を、見てしまったんです!
そうしたら、また、また誰かと一緒に居たくなってしまって――気が付けば、声をかけていました。
でも、お二人は、快く受け入れてくださって、嬉しくて、嬉しくて!
ここでなら、わたしは変われるかもしれない、前みたいに遊べるかもしれない。
――そう思っていたんです。
▽▲▽
「――それなのに、わたしはまた皆さんの足を引っ張ってしまって」
「ナギちゃん」
ナギの話した過去に、重苦しい空気が立ち込める。
「十五回」
「え?」
そんな空気を打ち壊すように、カイトは一言謎の数字をいった。
「この数字が、何の数字かわかるか?」
「い、いえ」
「この数字はな――」
そういってカイトは一旦言葉をためて、こう言い放った。
「俺がレナに後ろから殺された回数だ!!」
「ちょ!?」
その言葉に一気に焦るレナ。
誤爆を恐れるナギに向かって、「あんたの目の前にいるのは、誤爆魔ですよ」といったようなものなのだから。
「い、いや、流石にそんなには――」
「やってる」
「う、うぅ」
「しかも、誤爆しといて後から『死に芸』呼ばわりもしてきたからな、悪びれる様子無く」
「いやそれ今言わなくても!?」
「――それでだ」
そこでカイトは言葉を区切る。
「そんな俺たちが、ナギの目には『楽しそうに』見えたんだろ?」
「――あ」
「なら、それはその通りなんだろう。自分の目に自信を持て」
「か、カイトさん」
ナギが泣きそうな顔でカイトの名前を呼ぶ。
その声に、カイトは腕を組んで答える。
「苦手なことがあるのは、当たり前だ。だから次は、それも込みで作戦立てるさ」
「――ってことは?」
「また明日、奴を叩く」
カイトが鼻を鳴らして、そう宣言する。
時間が明日なのは、作戦を考える時間が必要なのと、クエストリタイアのペナルティが『二十四時間の再受注不可』だからだ。
「そうだね、ナギちゃんがようやく胸の内を教えてくれたんだもの、新パーティー発足記念にすごいことしちゃおう!!」
「レナ、お前よくそんなはっずいこと大声でいえるな?」
忘れているかもしれないが、此処はクエストカウンター前。
――多くのひとが、今も行き交っている。
顔をあげたナギの代わりに、今度はレナが膝を抱えたのであった。
感想もらえると、作者は嬉しいでーす。




