ACT.24 気難しき銀光(Ⅲ)
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その場から急いで逃げ出したカイトとレナだが、すぐにある異変に気が付く。
「あれ、距離どんどん縮んでない!?」
「――あの野郎、わざとAGI高いの選んで連れてきやがったな!」
だんだんと距離が詰められているこの状況で焦るレナ。
近づいてくる妖魔の数はざっと二十匹。
今の二人でも相手取るのは、流石に辛い。
しかしながら、このままだと戦闘になるのは必須。
ならば、とカイトが途中で踵を返す。
「こっちから先に仕掛けるぞ!」
「え、嘘!?」
「レナは来なくていい、その場で術を構築! 俺が先行して仕掛けて時間を稼ぐ!!」
そう言って片手で簡単な印を作ってカイトが唱える。
「【木遁:韋駄天】!」
今カイトが唱えた【木遁:韋駄天】は、一時的に自身のAGIを飛躍的に上昇させる忍術。
その効果で得た、爆発的な加速をもってカイトが妖魔たちに向かって駆け出す。
そして走っている間にもう一つ両手で印を作り、忍術を行使する。
「【火遁:多重分身】」
その瞬間、カイトの姿は十二人に分かれた。
そして分身したカイトたちは左右上下にさまざまに別れて、別々の角度から両手に大量のクナイを構えて妖魔たちを狙い、投擲する。
技の名前は【暗器術:秋時雨】――複数の投擲物を同時投擲する技である。
この【火遁:多重分身】で作った分身はいわば虚像――その攻撃にも実体はない。
だが、その攻撃には、たとえ十二分の一であろうと本物が混じっている。
それはつまり、相手から回避という選択肢を奪う攻撃であった。
文字通り雨のような量のクナイが妖魔たちに降り注ぐ。
その鉄の雨の中で三匹の妖魔――この中でもAGIが高い白餓狼という種が力尽きた。
「ちっ、流石に三匹が限度か」
雨のようなクナイの中に三本だけ、別々な妖魔の眉間を狙ったものがあったのだ。
無論それはカイトが狙ったモノなのだが、現状のカイトの腕では、三匹同時までが限界であった。
そしてその攻撃の混乱が冷めないうちに、生き残った最後の白餓狼に接敵し、クナイを振り上げ頸椎に振り下ろそうとする。
しかし、それを黙ってみているほど、相手は愚かでも鈍間でもなかった。
いち早く接近するカイトの存在に気が付いた白餓狼は、素早く横に身を逸らして避け、代わりにカイトめがけて飛び掛かった。
カイトは、咄嗟に左腕を前に出したがその腕に白餓狼は容赦なく噛みついた。
――いや、噛み千切ったのである。
「ぐっ、あの狐! レベルの高さも厳選しやがったな!?」
咄嗟に距離を取ろうと右足を動かそうとして、その足が動かないことに気が付いた。
「なっ」
その足には、緑色のツタのようなものが、三本別々の方向から、巻き付いていた。
『KIKIKIKKIKI!!』
その先にいたのは、植物に寄生された猿のような見た目の妖魔・緑黄猿だ。
そいつらが腕からツタを出して、カイトの足を拘束していたのだ。
「犬と猿のくせに協力しやがって!」
その拘束を振りほどきたくても、今のカイトにはその時間がない。
踵を返した白餓狼が、再度カイトを襲う。
「【土遁:空蝉】!」
襲ってきた白餓狼の咢が当たる瞬間に、カイトは【土遁:空蝉】を唱える。
これは【土遁:代わり身】と同型の忍術で、転移できる範囲がか代わり身より広い。
これによって白餓狼の攻撃の回避と、緑黄猿の拘束を同時に解決させたカイトは、同時に白餓狼の背後に現れ、背中にクナイを突きさす。
『GYAIN!?』
そういって悲鳴を上げる白餓狼だが、まだHPは多く残っている。
カイトとしては、背中から心臓を狙ったつもりだったが、それは外れた様だった。
その間に、今度は、右腕と両足にそれぞれツタが絡みつく。
「くっそ、ここまで――か?」
そうカイトが覚悟したその時だった。
「カイト! 準備できた!!」
そんなレナの声がカイトのもとに届いた。
「よし、俺ごと薙ぎ払え!!」
「ら、ラジャー! 【火遁:業魔・火生三昧】MP全部のせ!!」
「【奥義:黄泉ノ凱旋者】!!」
そして、HPをフル回復させたカイトは、そのままレナの業火に飲み込まれた。
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一面焼け野原となった草原から、むくりと起き上がる影が一つ。
「あー、死ぬかと思った」
ソレは辛うじて生き残っていたカイトだった。
カイトが生き残っている理由は、彼の職業の【生存者】のパッシブスキル【生存権】のおかげである。
このスキルは、対象者のHPがフルの時にのみ、どんな攻撃を受けてもHP10%で耐えるというものであった。
つまり、直前でHPを奥義にてフル回復させたのは、この為だったのだ。
そして、起き上がったカイトは、離れたところでこちらを見つめるギンコの存在に気付く。
「――へっ、てめぇの思う通りには行かねぇって話だクソ狐!」
カイトのその言葉を聞いたギンコは、ふぅっとため息のようなものを漏らすと、淡い光に包まれて消えた。
どうやら、口寄せの制限時間らしい。
「――いや、結局なんだったんだ?」
最後には、結局あの性悪狐は何がしたかったんだ?っという思いがカイトの中に残っただけであった。
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