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CO-ROU・THE・CHRONICLE〜虎狼忍術史伝〜  作者: 宇奈木 ユラ
第一章”虎狼”の世界
24/81

エピローグ ―日常―

今さらながら、レナが以前言った

「――私に、殺されなくなる! ドヤ!!」

……っていうのは、あたらずとも遠からずだった(小並感)


□■□


「――」


 GWの中日。

 多くの学生が連続で休みたいがゆえにサボり率の高いその日の午後、慎二カイトは大学のカフェスペースで、少しぼぅっと空を眺めていた


「ほっ!」


「冷たっ!」


 そんな無防備な慎二の頬に、突如よく冷えた缶が当てられる。

 突然の刺激に驚いて飛び上がる慎二を、その犯人――自販機で買ったジュースを2本持った玲奈レナがケラケラと笑う。


「ふひひひひ、ごめんね。あんまり無防備だったからついつい。はい、オレンジジュースあげる」


「――おう」


 そういってむすっとした、少し不機嫌そうな顔で受け取るカイト。

 その表情を見て、また玲奈は少し笑う。


「なんだよ」


「んー? なんか今日はいつもより素直でかわいーなーっと思って」


「ちょ――んな、別にそんなんじゃない」


 そんなことをいって拗ねたように顔を逸らす慎二を見て、玲奈はまたニヤニヤと笑う。


「それじゃあ、プチ祝賀会としましょう! ジライヤ杯、優勝おめでとう!」


 そういって玲奈は、缶ジュースを掲げて音頭をとる。

 それに合わせて、慎二も缶ジュースを持ち上げ、こつんとぶつけた。


「――そっか、勝ったんだよな」


 ――今日は、あのジライヤ杯の翌日。

 玲奈のテンションが高いのも、慎二がいつもより機嫌が良さそうなのも、原因はソレである。

 あの後、表彰式があったのだが、それはなかなか酷いものだった。

 なんといってもオッズ一位、期待値ナンバーワンのスズハヤが、無名も無名なオッズ最下位のカイトに敗れたのだ。

 スズハヤに賭けた奴らの嘆き様は凄まじかった。

 最早怨嗟の念が溢れ出していたといってもいい。

 しかしながら、そんなムードでありながら、壇上にカイトが立った時は拍手で迎えられた。

 それはひとえに、最後の戦いが中継されていたことに尽きるだろう。

 レナは言う。


「あの戦いを見て、文句が言えるような奴はシノビじゃない」


 それをあとで聞いて、カイトは民度が高いなと思った。

 そしてまぁ、そのあともインタビューや、あの世界ゲーム内で発行しているという芸能誌の取材やらで天手古舞だったカイトは、日付の変わった深夜にようやく解放されたのだ。

 てんやわんやで、勝利の余韻なんてものに浸る余裕がなかった慎二は、此処に来て、ようやく勝利の実感を得たのであった。


「そういえば、スズハヤ君とは結局あの後あったの?」


「いや、会ってないな」


「ありゃー、漫画だと激闘の後は熱い友情が生まれるもんなんだけどなぁ」


「リアルとフィクションを混同してんじゃねーよ。――でもまぁ」


 そこで慎二は一旦言葉を区切る。

 思い出すのは昨日交わした最後の言葉――“次は、僕が勝つ”。


「アイツとは、この先も何度も会いそうだ」


「おー、少年漫画っぽい!」


「だから混同するなって――あ、そうだ」


 そこで慎二はふと思い出したように話題を変える。


「この後暇?」


「え、うん。次の時間の先生が、人集まんないから休講にするっていってたから」


「そうか、じゃあ――」


 そして慎二は傍らに置いていたパックから、あるモノを取り出す。


「これは?」


「見てわからないか?」


「――水族館のペアチケットにしか見えないんだけど?」


「いや、それであってるよ」

 それは、このGWにリニューアルオープンした水族館のペアチケットであった。

 だが、そのペアチケットを今出した慎二の意図が、いまいち玲奈にはわからない。


「お前、まさか約束忘れたのか?」


「え、約束?」


「デート権」


「――え?」


 そっぽを向きながら、何故かもごもごとした言い方で慎二は続ける。


「――優勝したら、なんだろ?」


 そのセリフに、ようやく玲奈の思考が言っている意味を理解する。

 瞬間、玲奈は絶句する。


「あ、いや、わた、私か――」


 “私から誘うのならともかく、まさか君から!?”と言おうとするが、あまりの驚きに呂律が回らない。

 そんな玲奈に対して、あらぬ方向を見ながら早口でまくしたてる慎二。


「家族から貰ったペアチケットだから無駄にしたくないしかといって俺1人で行くのもなんだしなら友人といくのが自然であって別に他意は全くこれっぽっちも微塵も無くどうせなら権利も使ってしまおうかと思って――」


「それでも!!」


 理論武装をする慎二の言葉を、玲奈のセリフが両断する。


「それでも、うれしい」


 感極まったような、泣泣き笑いのような表情を浮かべる玲奈に、慎二は何も言えなくなった。


「そ、それじゃすぐ行こう! 今すぐ行こう!!」


「え、いやちょっと待てまだとちゅ――」


 そういって腕を引っ張られ、強引に連れていかれる慎二。

 その表情は、驚き半分困惑半分――そこに少しだけ別の感情が混じっているような気がした。




 後には、飲みかけの缶ジュースが、寄り添うように残っていた。







――to be continued



今回をもちまして、第1章は完結になります!

約一カ月間お付き合いしていただき、ありがとうございました!

明日は更新を一旦お休みして、明後日から第2章が開幕するのでお楽しみに‼︎

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