ACT.16 戦の幕開け、十五の爪牙(Ⅳ)
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「カイト殿!」
天守閣に向けて回廊をひた走るカイトに、後ろのクロスが異変に気が付き声をかける。
「上の階の討伐組のアイコンが全て、全て消失しましたぞ!?」
「――そうか、これで残り参加者の行動はおおよそ2パターンになるな」
一つは、まだスズハヤ打倒を目指す向上心溢れる奴ら。
もう一つは、スズハヤ打倒を諦めて2~3位を狙う奴ら。
スズハヤと自分たち除いて、残りの参加者は4名。
そして、その4名は、はた迷惑なことにこの上の階で盛大にドンパチやっていた。
つまり、そいつらはお互い協力し合うという意思がないことから後者――2~3位狙いの可能性が高かった。
さらに言うなら、スズハヤのもとに向かうなら、そいつらの目の前を通る必要がある。
――ただで通れせてくれるはずがないので、十中八九戦闘は必須だ。
「クソ、三すくみとかめんどくせぇ!」
そういって走り続け、階段を上り件の階に入った瞬間だった。
ドンと大きな音を立てて、その階層が揺れ、4つのアイコンの内2つが消えた。
つまり、向こうの戦いに終止符が打たれたのだ。
――そしてこれは、カイトたちにとって絶好の好機であった。
勝利の直後は気が緩むし、態勢の立て直しもきかない。
今この時を叩くのが、最速でスズハヤのもとに進むための最適解であった。
「拙僧さん! 最速で敵を叩く!!」
「了解しましたぞ!!」
そういって更に速度をあげて走るカイト。
そしてアイコンが示す、残り2人のいる部屋に、襖を蹴破って突入した。
「なに!?」
油断していたところに突如現れたカイトの姿に動揺した片方の男は、飲もうとしていた霊薬の小瓶を落とす。
その隙をついて疾風のごとき速さで複数のクナイを投擲する。
クナイはなすすべのないその男に刺さはずであったが、間一髪、隣にいたプレイヤ―が動いた。
その男の前に出て、自前の武器である鉄傘を開いて防御した。
「ちぃ、奇襲は失敗か」
奇襲失敗にカイトは舌打ちをする。
そんなカイトを見て、奇襲された方の男は抗議の声をあげる。
「い、いきなり遅いかかるなんて卑怯じゃないか!」
「いや、これそういうゲームですよ先輩」
その男のセリフを鉄傘の方のプレイヤー――よく見ると女子だった、が否定する。
こういう突発的な事態にも冷静に対応出来ているその少女は、実にこのゲーム向きの性格と言えた。
「本当は、このタイミングで1人減らし二対一で戦いを進めたかったんだけど、仕方ないな」
カイトがそう言ったタイミングで、遅れてクロスが到着した。
到着したクロスを見て、少女が言う。
「じゃあ、これで二対二。正々堂々正面から殺し合いましょうか」
そう言って少女が構える。
「――瞬殺されても、恨むなよ!」
そこにカイトが走り出す。
――かくして、この大会の実質的な準決勝戦は幕を開けた。
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少女は、鉄傘を開いた状態で床に置きそこから半身を出して、カイトに向かって腕を突き出す。
するとその腕は、ガコンという音と共に変形、機関砲になった。
「――は?」
次の瞬間、ドガガガガとその砲身が火を噴く。
「絡繰義手か!?」
その予想外の攻撃に急いで身を翻して逃げるカイト。
カイトが逃げ込んだ先は、クロスの背後だ。
「頼んだ!」
「了解です! 金遁:金剛体!」
すかさず印を結んだクロスは、自身が動けなくなる代わりにEDNを飛躍的に上昇させる術である金遁:金剛体を発動させた。
立派な壁と化したクロスの後ろで、カイトは霊薬の瓶を取り出し、それを飲み干す。
「少し当たりましたか?」
「あぁ、結構威力高いぞアレ」
「でしょうなぁ、金剛体の上からでも徐々にHPが削られていますから」
「――マジか」
こんな会話をしている間もクロスは銃撃を受けつづけており、そのHPは緩やかに減少していっていた。
「――俺としては、残弾が尽きた頃に攻撃に移る気だったんだが、持ちそうに無いか」
「無いですな」
「じゃあ、速攻で片付ける――隠遁:影分身!」
そしてカイトは影分身を二体生成。
生成された二体の分身は、壁役であるクロスを持ち上げ、そのまま少女に向かって走り出した。
「――え!?」
ソレに驚いたのは少女の方だ。
しかし、そこは先ほど冷静な反応をした少女。
すぐさま別な方の腕を前に出し変形させる。
それは、大口径の大砲の姿になった。
「あ、まずい」
クロスがそう言った瞬間、その砲身から高火力の砲弾が飛び出した。
大質量の攻撃を受けて土煙とともに吹き飛ぶクロスと消滅する分身。
そしてその衝撃で発生した土煙が晴れたその時――そこにはダメージを受けたクロスの姿しかなかった。
「もう一人は!?」
「――ここだよ」
突如背後から現れたカイトは、その少女の頚に容赦なくクナイを突き立てた。
そう、カイトは実はクロスが動き出したその時、すでにその背後にはいなかった。
こっそり背後を抜け出した彼は、そのまま死角を移動し、彼女の背後に接敵していた。
つまり、クロスをおとりにしたのだ。
頚をやられた少女は崩れ落ち、光になって消えていく。
その最後の時に彼女はこういった。
「あとは頼みましたよ、先輩」
その言葉に、カイトははたと気づく。
あの、先輩と呼ばれていた男がいないことに。
「な、どこに――」
「――ここだよ」
すると、消えゆく彼女の影からその男がぬるりと現れ、その瞬間に持っていた大鎌でカイトを斬りつけた――。
感想評価等されると作者は板野サーカスばりのアクロバティックな執筆ができるので、やってもいーよって方はお願いします。
あと、感想は最新話のだけじゃなくてもいいです。
作中の疑問質問などがあれば答えますので、よろしくお願いします!




