ACT.15 戦の幕開け、十五の爪牙(Ⅲ)
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「――あの馬鹿が! 急ぐぞ拙僧さん!」
天守閣を半壊させたスズハヤの行動を見たカイトは、急いで城内に向かう。
「いかがされましたか、カイト殿――あと拙僧の名前は拙僧ではなくクロスです!」
それに追随しながらクロスが問う。
「アイツは今、オッズ一位! 言ってしまえば、他参加者から最も警戒されているといっても過言じゃない」
天守閣へ向かうであろう階段を駆け上がりながら話を続ける。
「そんな奴が、あんな派手で力を誇示するような真似をしたら――案の定だ。上を見ろ」
カイトにそう言われて上の階の方を見てみると、そこには複数の――6~7個のアイコンが集まっていた。
「――ん、様子がおかしいですな。あれだけの人数が集まっているのに戦っているような動きが見られないですぞ?」
そのクロスの言葉に、やっぱりと呟くカイト。
「アイツらは多分、スズハヤ攻略のために急遽手を組もうとしている奴らだ。つまるところ、袋叩きにする気満々なんだよ!」
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一方のスズハヤも、その異変に気が付いていた。
「ん、下の階に何人か集まって――そうか、結託しようとしているのか」
自分で導き出した答えに、うんうんとうなずくスズハヤ。
しかし、ここで彼は考える。
下の階にて結託しようとしているのは今の時点で7人。
単純に考えてこの大会参加者の半数である。
この人数を相手にしても勝てるという自信はスズハヤにはあったが、奥義という何が飛び出すかわからない不確定要素がある。
そんなのが一気に七つも飛んで来たら、流石に何かの間違いが起きて負けてしまう可能性があった。
――そう、正面から戦った場合は。
「うん、彼と当たる前に僕が殺されてしまったら彼には申し訳ないし、相手も複数で襲い掛かる気なんだから、ちょっとダーティな手を使っても許されるよね」
そう言ってスズハヤは背中に背負っているもう一枚の巨大手裏剣【魔剣:喰鉄 複製品】を手に取る。
「行ってくれ、【奥義:鋼ノ猟犬命ヲ喰ラエ】」
そして奥義を込めて、城外の空へ投擲した。
投擲された【魔剣:喰鉄 複製品】は、本来描くべき軌道とは似ても似つかぬ奇妙な動きで、天守閣の上の空を旋回するように飛行を続ける。
そこに、先ほど投擲され天守閣を半壊させたまま、空に向かっていったっきりだった【魔剣:喰鉄】が大きな弧を描きながらスズハヤのもとへ戻ってきた。
しかし、【魔剣:喰鉄】はスズハヤの手元には戻らず、【魔剣:喰鉄 複製品】と同じように上空をぐるぐると旋回し続ける。
その二枚の手裏剣は、投擲物にあるまじき自由な動きと安定した飛行を続ける――そう続けているのだ。
本来、投擲したモノは投擲の瞬間に与えられたエネルギーを消費して飛び、消費しきって墜落するのが常だ。
――だが、スズハヤが投げたモノは違う。
まるでドローンのような安定性で飛行を延々と続けているのだ。
「――じゃあ、やっちゃおうか」
そうスズハヤが呟いた瞬間、二枚の手裏剣はその軌道を一変させ、一気に加速して――下の階に突っ込んだ。
――そしてその瞬間、7個あったアイコンの内2個が消失した。
更にスズハヤは、手裏剣を操作する――そう、操作だ。
スズハヤの“奥義:鋼ノ猟犬命ヲ喰ラエ”の効果は、投擲を強化するだなんて生易しいものではない。
その真の効果は――投擲物の自由な操作。
自分が投擲したモノの、軌道・運動エネルギー・回転数など全てを自由自在に操ることができる――それを一度に二つまで。
――つまりスズハヤは、この世界で唯一疑似的なオールレンジ攻撃ができるシノビであった。
そうしている間にも、スズハヤは的確な操作で次々と敵対者の命を刈っていく。
何故スズハヤは、離れた目に見えない場所にいる相手に確実な攻撃ができるのか?
その理由は単純――スズハヤには、相手の居場所が見えているのだ。
それは、アイコン。
元々は、サバイバル形式のこの大会において隠れてやり過ごそうとするプレイヤーなどの行動による遅延をなくす為に導入されたシステムだったが、彼はこれを完全に悪用した。
離れた相手に、遮蔽物をすり抜けて攻撃ができるスズハヤにとって隠れている相手の位置を完全に把握させるこのシステムは、相性が良すぎた。
だからこそスズハヤはさっき言ったのだ、“ちょっとダーティな手を使っても許されるよね”と。
そしてこの攻撃を止めるにはスズハヤ自身を叩くしか術はない。
だが、この一撃必殺級の威力をもつ手裏剣とのチェイスをしつつ、スズハヤのいる天守閣を目指すのは、初めて間もない初心者たちには不可能に近かった。
「――じゃあ、これで終わりっと」
そう言ってスズハヤは、最後に残ったアイコンを易々と消し去る。
「まぁ、アレだね。やっぱり、僕の強さはゆるぎない」
――こうしてスズハヤは、大会開始30分で参加者のおよそ三分の二をたった一人で殲滅して見せたのだった。
そしてその頃、もう一方であるカイトたちもまた、戦いに身を投じていた。
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