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CO-ROU・THE・CHRONICLE〜虎狼忍術史伝〜  作者: 宇奈木 ユラ
第一章”虎狼”の世界
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ACT.8 呪縛館の傀儡子(Ⅲ)


▽▲▽


 ――ゲートを潜った先に現れたのは、大きな和風建築の屋敷だった。

 大きな構えの門、広大な庭、そして立派な母屋。

 しかし、今それらを語るなら、全ての言葉のはじめに“かつては”と終わりに“だったのだろう”とつくのだろう。

 門は錆びつき、庭は荒れ放題。おまけに母屋からは、目視で分かってしまえるほどの異様な気配。


「――なんか、想像を超えてやばそうな気配なんだが」


「そーかな?私はこのくらいの方が雰囲気あって好きだけど」


 ――『呪縛館の傀儡子』、そのクエストエリアにカイトとレナは、とうとうやってきた。


「あれ?もしかしてカイト、もしかしてオバケとか無理なタイプ?」


「む、むりじゃねーし!所詮ゲームだとわかっていれば平気だし!?」


 含み笑いの混じったレナの言葉に、少し過剰反応するカイト。

 ――つまりは、そういうことである。

 彼からしてみたら、まさかここまで雰囲気があるイベントだとは思っていなかったのである。


「ふーん、じゃあ夏場がたのしみだね。アレはこの比じゃないよー」


「――まて、アレ?アレってなんだよ?」


「ふひひひひ」


「ちょ、おま、答えろよ!?」


 レナの意味深な笑いに、カイトが焦る。

 レナは、この後黙秘権を行使したので、カイトはレナの笑いの理由はわからなかった。

 ――まぁ、これより4カ月後に嫌でも知ることになるので、それまで無知でいることはある意味カイトにとってよかったのだろう。


「じゃあ、怖がりなカイト君のためにさっさと始めちゃいますか!」


「別に怖がってない!」


「またまた~」


 そういって、玄関の扉をあけ中に侵入するレナ。


「あと、このクエストは一日一回一時間しか受けられないから、簡単に失敗しないよう、に゛!?」


 彼女がそう言って玄関に一歩入った瞬間、姿が消えた。


「――レナ!?」


 驚いたカイトが急いで駆け寄ると、入り口一歩目の地面には大きな穴が開いていた。


「もしかして、落とし穴?」


 もしかしなくとも、落とし穴である。

 その穴のはるか下で、パチュンと青い閃光が走ったのが見えた――プレイヤーが消滅するときのエフェクトである。

 ――レナ、脱落。


「まじか」


 補足するなら、現実にあった忍者屋敷では侵入者対策にほぼ必ず玄関入って一歩目に落とし穴が仕込まれている。

 ゆえに忍者の屋敷に入るときは、一歩目は飛び越えて入らねばならなかったそうな。


「――ありがとう、レナ。君の犠牲は無駄にしない」


 カイトは落とし穴の前でわざとらしく手を合わせる。


「つまり一歩目に落とし穴ってことは、この部分を飛び越えてしまえばOKってことだろ?」


 そう言ったカイトは、その落とし穴を助走をつけて飛び越え、向こう側に着地する。


「ほら簡た、ん゛!?」


 着地した瞬間、ガコンという不吉な音と、共に彼に突如襲い掛かる浮遊感。

 ――もしかしなくとも、落とし穴である。


「うっそだぁぁああああああ――!?」


 先ほど補足したが、忍者屋敷の一歩目に落とし穴があるのは定石。――ゆえにそれを知っている人向けに二段階目トラップがあったとしても、不思議ではない。



 こうしカイトとレナの“第一次”攻略戦は、秒殺で終わった。



▽▲▽


「――つまり、俺たちはシノビだ。だからこそ、正攻法に玄関から入ること自体がそもそも間違いだったんだ!」


「な、なんだって!?」


 そんなこんなで翌日同時刻。

 二人は、さっそくリベンジに来ていた。


「ようは、この屋敷の外側のどこかに中へ続く抜け道があるはず!」


「わかった!それを探せばいいんだね!」


「いや、多分探さなくても結構。もう目星はつけてある」


 そう言ったカイトがレナを連れてきたのは、屋敷の庭の隅にある崩れかけた土蔵だ。


「土蔵は作りが頑丈だから、いざという時に脱出する為の抜け道があったっておかしくはない」


 そういうわけで、さっそく中に入った二人は、荒れ果てた土蔵内部を慎重に探索する。

 すると割と簡単に、地面の下へ続く通路を発見することができた。


「――まぁ、推奨レベルの低いクエストだからこの辺の難易度は下がっているんだろ」


「確かに、そもそも中にすら入れないんじゃお話にならないいよね」


 そんなことを話しながら、暗い通路を進む昨日お話にならなかった二人。

 やがて二人は、通路の突き当りにたどり着く。


「あれ、行き止まりだよ?一本道だったよね?」


 壁の前で不思議そうに首をかしげるレナ。


「アホ、ここは忍者屋敷だぞ?つまりは――」


 そう言ってカイトはその突き当りの壁に背中をくっつける。

 そして、そのまま片側を勢いよく押す。

 すると壁はそのままぐるりと回転し、カイトを向こう側へ連れていく。


「あ、なるほど。どんでん返しか」


 レナもカイトも見習ってどんでん返しを使って、屋敷内に侵入する。

 その屋敷の中は、ありていに言って異様だった。

 最初に侵入したその部屋は、どうやら書斎のようで、あちこちに書物が乱雑に置かれ、壁には掛け軸、部屋は壁とふすまに仕切られていた。

 見た目は、一見すると普通だったが、よく考えるとソレは異常である。

 まず部屋が綺麗すぎるということ。

 外からみた屋敷の外観や、庭は荒れに荒れており、人が管理しなくなって久しいことを連想させた。

 しかし、屋敷の中は違う。乱雑に積みあがった本や、綺麗にならされた畳等、明らかに人が住んでいる――管理している部屋であった。

 知らず知らずに、カイトの背筋に冷や汗が伝う。

 このクエストのクリア条件は、隠されたボス部屋を発見しそこのボスを撃破するというもの。

 だが、昨日のようにこの屋敷の中はトラップまみれ、慎重な行動が必要だ。


「レナ、ここは慎重に行動するんだ。TRPG的勘に言わせてもらうと、天井からぶら下がってる謎の縄とか絶対に引っ張るなよ」


「へ?」


 そう言って振り向いたカイトが見たのは、天井から垂れ下がった謎の縄を引っ張ったレナの姿だった。

 つまり、警告は手遅れであった。

 

 ――そのあと何が起こったのか、カイトもレナもよく覚えていない。

 レナの一手をきっかけにしてあちこちで多種多様なトラップが連続起動。

 もう本人たちが何が何だかわからぬ内にデスペナを喰らい、“第二次”攻略戦は終了した。


▽▲▽


 続く“第三次”攻略戦は、トラップこそ回避できたものの、慎重になりすぎたがゆえに成果をあげられずタイムアップ。

 “第四次”攻略戦は、あと一歩まで近づいた感じはしたが、最終的には呪いの人形の皆さんとランデブーするというSAN値直葬で終わった。



――事件が起こったのは、その翌日であった。




▽▲▽



「よし、今日こそ!今日こそイケる!!」


「えー?」


「俺を信じ――ん?」


 いつも通りログインし、クエストカウンターへ向かう二人。

 しかし、今日はいつもとやや様子が異なる。


「せ、拙僧をクエストに行かせないとはどういうことでありますか!?」


「――だから、何度も言わせんなよ。テメェが行くと邪魔になんだよ!」


「弱い人が、スズハヤ様の邪魔をするとか、超罪なんですけど?」


 カウンターの前で、橙と緑の衣装の2人の女性プレイヤーが、一人の男性プレイヤーと口論になっていた。


「なんだろ、なんかヤな感じだね」


 女性側2人は、装備品から見ておそらく中級者。それが、初心者らしい男性プレイヤーに絡んでいるらしい。


 そして、その男性プレイヤーには、カイトは見覚えがあった。


「――悪い、知り合いだ。ちょっと行ってくる」


「え?ちょ、カイト!?」


 少し怖い表情をして、カイトは3人の間に割って入った。


「おい、あんたら。中級者が寄ってたかって初心者に絡むとか、見てて不愉快なんだが?」


 突如乱入してきたカイトの存在に、女性プレイヤー二人は不快感を隠さない。


「は?なんなんだよ、アンタ?すっこんでろよ?」


「見るからに始めたての雑魚が、うちらに絡むとかマジ白けるんですけど?」


 そんな二人の言葉には一切怯まず、今度は男性プレイヤーの方に話しかけるカイト。


「大丈夫か?」


「き、貴殿は先日の――」


 その男性プレイヤーとは、先日カイトと張り紙の前で話した僧侶のプレイヤーだった。


「どういう状況か説明してくれるか?」


「拙僧が、今『呪縛館の傀儡子』というクエストに行こうとしたら、そこの2人に呼び止められて、突如辞めろ行くな行かせないと脅されまして」


「はぁ?なにそのうちらが悪者みたいな言い方?」


「そうか、じゃあアンタらの言い分は違うんだな?」


 そういって今度は女性プレイヤーたちに向き直るカイト。

 話というのは、双方から聞かないと本質はわからない。

 ゆえにまずは、きちんと話を聞こうと思っての問いかけだったのだが――


「まぁ、間違ってはいないけどな?」


 相手はあっさりと男性プレイヤーの言い分が正しいことを認めた。


「だってさ、限定クエストってのは一つのエリアに複数のパーティーが入ってやって、最終的にクリアできるのはひとりだけっしょ?」


「――でぇ、今うちらのスズハヤ様がクリアしようと単独で潜ってんのよ。でさ、どーせスズハヤ様がクリアすんのは確定でも、邪魔しようとする奴がエリアに入ったらスズハヤ様超迷惑じゃん?だからアタシらが差し止めてんの」


「ねー?」


「ねー?」


 そんな自分勝手な理屈をさも当然のように語る2人。

 それはもう、擁護しようがないほど悪辣な理由だった。


「なるほど、最悪だな――お前らも、スズハヤとかいう奴も」


 ――そして、カイトも切れた。


「は?お前みたいな雑魚がスズハヤ様侮辱するとか、まじ身の程を知れ」


 そんなカイトの暴言に、相手も切れて突っかかる。


「そもそも、こんな推奨レベル低いクエスト受ける奴が強いわけないだろ?そいつも所詮――」


「――一緒にすんなし!」


「スズハヤ様は、初めて数日にも関わらす、あたしら含めた上級者をばたばた倒すまじの強者だし!」


「いや、雑魚だ」


 2人の稚拙な理屈を、一言でばっさりと切り捨てる。


「そいつは雑魚で、お前らはそんな雑魚にも劣るナメクジだったってだけだ」


「「--」」


 お返しとばかりのカイトの暴言に、怒りで言葉を失う2人。


 そしてここで――カイトは2人にある提案をする。


「どうだ、俺たちと勝負しないか?」


 いまだに怒りで言葉が出ない2人に向かって更に続ける。


「俺たちとアンタらで同時に『呪縛館の傀儡子』を受ける。そしてアンタらは、そのスズハヤとかいう奴をサポートして、俺らより早くクリアさせろ。できたなら、お前らの言うことなんでも聞いてやる。ただし負けたら――」


「負けたらなんだったんだよ?」


「コイツにあやまれ」


 そういって親指で僧侶を指す。

 そしてこうまでおちょくられては、向こうは絶対に引かない。


「――ハッ、やってやんよ今更後悔しても遅いからな!」


「負けたら奴隷としてこき使ってやんよ!」




 こうして、カイトたちのだ“第五次”――否、“最終”攻略戦は波乱の幕開けとなった。














「――あれ、私なんか置いてけぼりになっちゃったんだけど?」

 一人状況に置いていかれたレナのつぶやきは、哀れ誰の耳にも届かなかった。





ここから先は怒涛の展開(予定)です。


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