頑張れ!
コシヒカリは動揺した。コシヒカリにはプライドがある。コシヒカリは圧倒的な香りと旨みでこの地位を築いてきた。しかし、近年力をつけてきた、「ゆめぴりか」というものが冷めても美味しいと評判なのだ。さらには某航空会社の国際線ファーストクラスの機内食として採用されたというではないか......。
北の大地は願い続けていた。否、夢を見ていた。日本一、「王」となる米を作り上げるその日を。そしてついにその日が来た。”ゆめ”に、美しさをつけて『ゆめぴりか』と名付けた。そして必ず、かの邪智暴虐の王であるコシヒカリを除かねばならぬと決意した。様々な品種と淫らに混ざって「あきたこまち」、「はえぬき」、「ひとめぼれ」と手下を増やしている辺り邪智暴虐であろう。とはいえ、コシヒカリの香りはなんとも食欲をそそるではないか......。
昨今、米界が割れている。米の作付面積の3分の1を占める「王」である、『コシヒカリ』。現代米の母にして頂点の米に対し新進気鋭の特A米である「反逆者」の『ゆめぴりか』。天下を取るのはどの品種なのか。
劇場版、『米戦争』近日公開!!
「ってのを考えたんだけど」
ここはお米の中。米五がそんなたわいのないことを言い出した。
「米騒動の上位互換みたいなタイトルだな」
「でしょー!えへへ」
「いや、褒めてないけど」
米五にツッコんだのは米三だ。そんな会話をしているとどんどん部屋が温まっていくのを感じた。
それを感じてか他の兄弟たちがちゃぶ台に集まってきたのだった。
なぜ暖かくなったかって?それは......。
ここは加藤家から車で5分の位置にあるホームセンター。
とても大きい建物ということもあるが外観は黒を基調としていて、とても目立つ。
そんなホームセンターの入口を進んでいく影が2つ。
佳代子と義雄だ。
義雄はなにやら茶色い大きな袋を抱えている。
2人は迷いのない足取りで、入ってすぐ右に曲がり風除室の一角に出来ていた行列に並んだ。
行列といっても3人の短いものだ。しかしその行列はなかなか進まない。10分してようやく一人分進むといったところだ。
2人とも黙って並んでいたが、義雄が口を開いた。
「まさか並んでいるとはな。」
「今まで何度も来ているけど初めてだもんね」
そんな会話しながら待つこと20分。ようやく順番がやってきた。
行列の先にあったのは大きな機械だった。その機械は右側に何やら蓋があり、左には何かを出す噴出口がある。
まず義雄は手に持っている茶色い大きな袋を機会の隣に置いてある計りに乗せた。
針が大きく動き、指したのは11キロ。
今度はそれを見て佳代子が機械に100円硬貨を2枚投入した。
機械に貼り付けられている紙に10キロ200円と書かれているためだろう。
その後、義雄が機械に着いている蓋を開け、そこに袋の中身を流し込む。
中身のものは基本的に淡褐色で、中には緑色も混ざっている。
これは、玄米だ。
加藤家は農家から直接お米を買っているので、玄米の形で家に届く。そのため、こうして”精米”するためにこのホームセンターにやってくるのだ。
中身を入れ終わると蓋を閉じ、先程玄米が入っていた袋を噴出口の下にセット。
そして、中央にある精米開始ボタンを押した。
ガーガー
という大きな音が近くに響く。
そして、義雄は足元にあるペダルを踏んだ。
すると噴出口から、綺麗に糠がとれた白く綺麗なお米が勢いよく飛び出してくる。
5、6分経ち、ようやく精米が終わった。
辺りには糠の独特のにおいが広がっている。
義雄は袋の口を閉じ、
「よっこいしょ」
そういって袋を再度抱えた。
精米機の中を通った米はほんのりと温かかった。
こうして、精米を終えた2人は買い物を済ませた後、帰路についたのだった。
戻ってここは米の中。
今日も今日とて米の中に住んでいる。
「いやー、温いな。」
そう言ったのは胡座をかいている米二だ。
「そうだねぇ」
米五がゆるい声で反応した。
なんだかコタツにでも入っているのかと思ってしまう会話だが、精米機によって温められているだけである。
「そういえば結局コシヒカリとゆめぴりかはどっちが上なんだろうね?」
そう、米三が切り出した。
「そりゃあ某航空会社の機内食にもなった事だしゆめぴりかなんじゃないか?」
「米二にぃ、仮にもコシヒカリの神様がそんなこと言っちゃダメでしょ」
「じゃあなんで聞いたんだよ」
「うっ、た、たしかに、ごめん」
「まぁ、美味しく食べられれば我々米神は幸せだがな。はっはっは」
米二達のためにも美味しく、お米を食べましょう。
それでは米神様たちの日常を覗き見するのはこの辺にしましょう。ほら、昨今プライベートの侵害だのなんだのうるさい世間になってますから。
え?米七はどうしたって?
米七は貴方の今日のお米の中にいるかもしれません.....なんてね。
Fin
自分が楽しく書けない小説は人が読んでも楽しくない。そんなある小説の後書きが胸に刺さりました。そのため、楽しくかけてなかった部分を削除、修正して最終話とさせていただきました。この作品を好きだと言ってくれた人のことは忘れません。本当にありがとうございました!