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ウァンパイア物語2  作者: 衣月美優
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エピローグ~生まれてきた理由~


 気がついたら俺は母さんの研究所にいた。

 そばには母さんの姿があった。俺のことを心配していた様子だ。

 だが、すぐに暗い表情になり、目を覚ましたばかりで朦朧としていた俺に言った。

「Y・・・由美ちゃん、まさとだけこっちに戻してウァンパイアの巣に戻ったの。・・・ごめんね、止められなくて」

 俺はその言葉で目が覚めた。

 いつもなら母さんを責め立てるところだが、何も言えなかった。こんな母さんを見たことがなかったし、俺も由美を止められなかったから、責める気にもならなかった。

 ただ俺は母さんの言葉を呆然と聞いていた。


 俺は研究所を出て走った。

 全力で走り、そして海のそばまで来て叫んだ。

「うわあぁぁぁぁああ!!」

 力一杯叫んだ。

 己の無力さが情けなく感じて。怒りや悲しみなど、様々な感情が押し寄せてきた。

 何と言ったらいいのかわからない感情を吐き出すようにも叫んだ。




 頭を冷やし、俺は家に帰った。

 母さんは先に帰ってきていて、夕飯の準備をしていた。

 夕食を食べたあと、俺は母さんに由美のことをすべて訊いた。

 俺から話しかけるのは久しぶりで、母さんは驚いた顔をしていた。

 でも、すぐにいつもの顔に戻り、向き合って座った。

 母さんは由美がウァンパイアだということを知っていて、自分も元ウァンパイアで次期女王候補だったということを話してくれた。

 だから、由美はここに来たのだと。俺たちを殺すために・・・

 話している途中で父さんが帰ってきて、父さんも交えて話をした。

 いろいろ話をしたが、とにかく由美はウァンパイアの女王なので、そんな由美が人間を殺せないどころかかばってしまったので、それなりの処罰があるだろうと母さんは話した。最悪、殺されてしまうだろうとも。

 母さん自身も、殺されそうになったと言っていた。次期女王候補が殺されそうになったのなら、現女王が殺されてもおかしくないということだろう。

 しかし、そんな状況に由美が置かれているかもしれないとわかっていても、俺にはどうすることもできない。ウァンパイアの巣へ行くことができないのだから。

 母さんも、ウァンパイアの巣に通じる道は毎日変わっているから行くことはできないと言っていた。

 俺にできるのはただ、由美が無事であることを祈るだけだ。




 あれから六年。

 俺は大学を出て、高校の数学教師をしながら母さんの助手としてウァンパイアの研究をしている。

 この六年間、由美の情報はまったく入ってこなかった。

 もしかしたら、もう由美は────・・・

 そう思って、俺は由美のことを諦めかけていた。

 こんなことになるなら、由美に殺されていたほうがよかったし、いっそのこと出会わなければよかったとさえ思っていた。俺が母さんの息子じゃなかったら、出会うことはなかったのだ。そうしたら、こんな思いをしなくてすんだのに。

 それでも、由美と過ごした場所を時々巡ってみてしまうのだ。もしかしたら、由美にもう一度会えるかもしれないと思って・・・

 俺は由美に言いたいことがあるのだ。言うことができなかった由美への気持ち。

 俺はどうして言わなかったんだという気持ちと、こうして会えなくなるのなら言わなくて正解だったのではという気持ちとで、未だにモヤモヤしている。

 そんな気持ちのまま、今日も由美と初めて出会った場所へと行ってみる。

 そこへ行ってみると、うずくまっている人を見つけた。

 俺は急いでその人のもとへ駆け寄り、声をかけた。

「大丈夫ですか!?」

 すると、その人はその体勢のままこう答えた。

「だ、大丈夫です。それより、助けてください!」

 あれ?これって前にも聞いたような・・・

 まさか・・・

「会いたかった人にやっと会えて、涙が出そうなんです」

 その人は顔をあげ、いたずらっぽい笑顔で言った。

「ゆ、由美・・・か?」

 俺は信じられず、確認する。

「あたりまえでしょう?また会えて嬉しいわ、まさとくん」

 その人は・・・由美は、笑って言う。

 由美は続けて、六年前と同じように再会したらドラマチックかなと思って・・・、と付け加えた。

 俺は何が何だかわからなかった。

 そんな俺に、由美はさらに言う。

「女王は辞退して、ウァンパイアとの縁は切ったわ。だからといって、ウァンパイアたちが私を狙ってこないとは限らないけれど。でも、六年の間に圧をかけてきたから大丈夫だと思うわ。でも、あなたの母親のようにウァンパイアの力を失っていないから、私は人間ではなくウァンパイアのままなの。でも、あなたの母親がきっとなんとかしてくれるわ」

 混乱している俺にわかったのは、由美はまだウァンパイアのままだと言うこと。でも、母さんがなんとかしてウァンパイアの力を封じることができるだろうた考えていること。この二つが、はっきりわかったことだ。

 でも、ウァンパイアと縁を切ったという言葉に、俺は不安になって訊いてみた。

「ウァンパイアと縁を切ったって・・・それは大丈夫なのか?お前が言っていたように、ウァンパイアがお前を狙わないとも限らない。もし、狙われて捕まえられたらどうするんだ?今度捕まったら、もう二度と会えなくなるかもしれないんだぞ」

 すると、由美は俺の目をしっかり見て

「大丈夫。だって、今度はあなたたちに協力してもらうことができるもの。そう簡単に捕まったりしないわ」

 と、言った。

 俺はその言葉と目を信じて頷き、言った。

「俺は、お前を助けに行くことができなくて後悔したんだ。でも、もう後悔しない。今度何かあったら必ず助けに行く。だから────・・・」

 俺は伝える。言うことができなかった気持ちを。

「これから先、俺と一緒にいてくれないか?大切にするし、必ず幸せにする。俺は由美のことが好きなんだ」

 すると、由美は微笑み

「私ね、まさとくんと離れていた間、思っていたことがあるの。それはね、私が生まれてきた理由。私はきっと、まさとくんに出会うために生まれてきたんだと思う。だから答えはもちろん、はい、よ」

 と、答えた。

 それから俺たちは、母さんや父さんに由美が帰ってきたことを伝えに行った。

 母さんたちは由美が帰ってきたことにここらからホッとし、喜んでいた。

 そして、その日は一人暮らしを始めていた俺も実家に帰り、四人で夕食を食べた。由美が無事に帰ってきたお祝いだ。

 その後、由美は母さんと共にウァンパイアの研究所で働き始め、俺と同居生活を始めた。


 一年後。

 俺たちはめでたく結婚した。

 由美と出会い、そして由美がウァンパイアであることを知り、由美がウァンパイアたちに捕まり会えなくなり、そして再会を果たした。

 由美との時間は短かったと思うが、たくさんの出来事があったように思う。そして、それはこれからもずっとそんなんだろう。

 再会し、俺が想いを告げたあとに由美が言った言葉。

 あの言葉を聞いてから、俺も思った。


 俺が生まれてきた理由も、由美と出会うためだったのだと────・・・


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