決意
「女王様、どこへ行かれるのです?その人間、始末するのではなかったのですか?それに、これから人間を襲うのではなかったのですか?女王様が命令してくださらないと、私たち下の者は何もできないのですが」
俺と由美がウァンパイアの巣を出るために走っていると、目の前にウァンパイアが現れた。
そのウァンパイアは由美に詰め寄る。
「人間は襲わない。彼も殺すつもりはない」
由美はきっぱりと言い放った。
「女王様、まさかとは思いますが・・・我々を裏切るおつもりですか?」
ウァンパイアは由美を睨みつけて言う。
「あんなにMのことを目の敵にしていたのに、ご自分も同じことをなさるこですか?いや、女王様の場合、M以上の罪になりますよ、立場上」
「F、私はどんな罰でもうける。だから、今はここを通して」
Fと呼ばれたウァンパイアは大きく息を吐き出し、言った。
「そういうわけにはいきません。それに、たとえ私が通しても、ここにいる他の者たちが通しませんよ」
その言葉通り、ウァンパイアたちが次々に姿を現した。
俺たちはすっかりウァンパイアに囲まれてしまった。
由美は小さく舌打ちをして俺に言った。
「一気に抜けるよ。私がウァンパイアたちを引き付けるから」
そして、俺と由美は駆け出した。
「その道、まっすぐ。次の角を右に曲がって」
俺はうしろでウァンパイアの相手をしながら俺のあとを追い、指示する。
「その先まっすぐ行ったら人間界への出口よ」
俺は言われた通りに進んでいく。
出口に近づいた頃、目の前にウァンパイアが現れ、俺の首筋に噛みついた。
「うわっ!?」
俺の悲鳴に由美は急いでおれのそばにやって来た。
「まさとくん!」
由美は俺に噛みついてきたウァンパイアを突き飛ばし、倒れた俺を受け止めた。
俺は一気に血を大量に吸われたせいで貧血を起こしたようで、気を失ってしまった。
「まさとくん!しっかりして!まさとくん!」
由美の声は俺には届かなかった。
私は研究所でまさとたちが帰ってくるのを待っていた。
すると、突如まさとを抱えたYが現れて言った。
「彼、血を吸われて気を失ったの。休ませてあげて。私は巣に戻る」
私はYの姿を見て、彼女を止めた。
「ちょっと待って!あなた、傷だらけじゃない・・・!何も巣に戻らなくったって────・・・」
「戻らなくちゃ、ウァンパイアたちがすぐにここにやって来る。あなたたちに迷惑はかけられないわ」
Yは躊躇いもなく言った。
「まさとくんには、悪いことをしたわ・・・あなたにも。これは、あなたの胸の中だけに留めておいてほしいのだけど・・・いつか必ず、私はここに戻ってくるわ。あとは頼んだわよ、M」
そうYは言うと、消え去ってしまった。ウァンパイアの巣へと消えていったのだろう。
「Y・・・絶対に、戻ってきてよ」
私は祈りを込めて、呟いた。






