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ウァンパイア物語2  作者: 衣月美優
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嘘か真か



 ────私は、あなたたち家族を殺しに来たの


「は・・・?急に、何、言ってんだ、由美?」

 俺はひきつった笑みを浮かべてそう言った。

 由美は表情を変えずに言う。

「そのままの意味よ。まさとくん、私はね、ウァンパイアの巣から逃げてなんかいないの。あれは全部、あなたを油断させるための演技。嘘なのよ?」

 俺は何が何だかわからなかった。

 演技?

 嘘?

 あれは全部、俺を油断させるためのものだった・・・?

 俺は騙されてたってこと、か?

「い、いやいや・・・そんなわけ────・・・」

「私が言ったことをすべて信じてくれるんじゃなかったの?」

 由美は俺の言葉を遮ってそう言ってきた。不思議そうに、また、愉しそうに。

「た、確かにそう言ったけど、けど・・・急にこんなこと言われて、信じられるかよ・・・」

 俺は力なく、そう言った。

 クスッと笑った由美は訊いてきた。

「そうね。じゃあ、どうやったら信じてくれるかしら?誰か殺して見せたら信じるのかしら?」

 俺はゾッとした。由美の表情は笑っていて冗談めいて聞こえるが、本気でやってしまいそうな感じもしたから。

 俺が顔を強ばらせていると、由美は俺に近づいてきて

「冗談よ。まぁ、別に殺してもいいのだけど・・・他の人間はおまけ。私が殺したいのはあなたたち家族だけだから。」

 と、耳元で言った。

「何で、俺たち家族を・・・?」

 俺は絞り出すように訊いた。

 所詮、由美はウァンパイア。あれが全部嘘でも、多少は納得できる。

 でも、狙いが俺たち家族だっていうことは納得できない。少しでも納得できるような答えがほしい。


「それ、知る必要ある?」


 だけど、そんな俺の気持ちなんてそっちのけで、由美は冷ややかに告げた。

「だって、あなたは私に殺されるの。殺される人間がそんなことを知って、何になるの?」

 俺は絶句した。

 これは本当に由美だろうか?

 本当はこれは全部夢なんじゃないだろうか?

 絶句すると同時に、そんな思いが込み上げてきた。

 由美はフッと笑って言った。

「まぁでも、少しなら教えてあげてもいいわ。正直、あなたやあなたの父親はどうでもいいの。私が本当に憎み、殺したいのは母親のほう。あなたたちは、母親の道連れになるの。だから────・・・」

 一呼吸おいて、由美は続けて言う。

「だから、恨むなら母親を恨みなさい」




 私は、今日を待ち望んでいた。奏井一家を・・・Mを簡単に殺せてしまうこの日を。

 もちろん、Mを簡単に殺すつもりはないが。それでも、今日ならいろんなやり方で殺せる。

 辛く、苦しく、残酷なやり方で────・・・

 誰も、私を止められない。

 Mだって、抗うことはできない。たとえウァンパイアの力を持っていたとしても、私に抗うことなんてできないわ。

 私はウァンパイアの現女王。人間になっていようがなってなかろうが、私には勝てないわ。

 元次期女王候補でもね────・・・

 候補は候補なのだから。女王にならなかった半端者に、現女王の私が殺られるわけがない。

 Mにはたくさん後悔させなければ────・・・

 人間に恋したこと、女王にならなかったこと、人間になったこと・・・何もかもを後悔させてやる。絶対に────・・・

 だからね、ある意味あなたたちもおまけなのよ。奏井 まさとくん(・・)

 ただ、他の人間と違って、簡単には殺してあげられないけれど。Mの子供だと言う、ただそれだけの理由で────・・・

 はやく見たいわ。

 あなたたちが苦しむ姿を・・・

 あなたたちが血に染まる姿を・・・

 すべての血が抜かれて干からびる姿を────・・・


 あぁ、でも、もっと苦しませる方法を思いついたわ。その方法だとMを今日殺すことはできないけど・・・

 でも、今日これから殺すより苦しんでくれるなら、それも悪くないわね。

 まぁ、どちらにせよ今からMに会いに行かなくては────・・・




「恨むなら母さんを恨めって・・・どういう意味────・・・」

「そのままの意味よ。まぁ、詳しく教えるつもりはないけれど・・・」

 由美は俺の言葉を遮って言った。

 おそらくこれ以上は何も教えてくれないだろう。そんな雰囲気が感じられる。

「・・・要するに、俺は母さんの子供だからお前に殺されるってことか?」

 俺が訊くと、そうよ、と当然のように由美は答えた。

 もう何も教えてくれないとわかってはいるが、俺の頭は疑問でいっぱいで、吐き出さなければおかしくなりそうだった。

 だから、疑問をたくさんぶつけた。

「わけわかんねぇよ、何なんだよ・・・!全部演技だったとか、俺たちを殺しに来たとか、特に母さんに何か恨みがあって殺したいとか!そんなこと急に言われて、納得とかできないだろ!?だいたい、何で今日そんなことを言ったんだよ!?どうせ殺すんだったら何もかも話してくれたっていいだろ!」

 由美は煩わしそうに大きなため息をついて

「悪いけど、そんなことをいちいち話している時間はないの」

 と言い、みぞおちめがけて蹴りを入れられて気を失った。

 由美が俺の体を支え、言った。

「今日にした理由はね、今日が赤い月の日だからよ」

 それを俺は気を失う直前に微かに聞いた。


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