闇への一歩
ウァンパイアとはどういう生き物なのか、ということを知るために俺は図書館で資料探しをした。が、やはりウァンパイアについて詳しく書かれているものはなく、どの資料にも「ウァンパイアは依然、謎に包まれた生き物である」というようなことが書かれていた。
ウァンパイアの研究をしている母さんに訊く、という案ももちろん思いついたのだが、それはできなかった。
────まさとはあまり関わらないでちょうだい
母さんはそう言った。
だから、俺がウァンパイアのことを知ろうとしたらきっと止めるだろう。
あなたは知らなくていいのよ、と。
関わらないでと言ったでしょ、と。
母さんに訊いても、教えてはくれないだろう。知っていても、知らなくても。
それに、母さんには頼りたくない。
俺一人で何とかしたい。
俺がウァンパイアを倒したい。
由美のためにも。
でも、やはりそのためにはウァンパイアに対しての知識がいる。また、倒せるだけの力もいる。
そもそも、ウァンパイアは一体どれほどの力を持っているのだろうか?
そして、そのウァンパイアは何体いるのか?
わからないことだらけだ。
この際、由美に訊いてみるという案もあるのだが・・・由美も知らなくていいと言いそうだ。
人間がウァンパイアに勝てるはずがない。
由美はそう言った。それが答えなのだろう。
俺にはウァンパイアを倒せるだけの力がない。人間が束になってもウァンパイアには勝てない。
それは、由美に言われなくてもわかっている。当然のことだ。ウァンパイアと人間は違う生き物だ。力に差があるのは当たり前のことだ。
図書館で見た資料にも書いてある。人間ではウァンパイアに太刀打ちができないと。
でも、俺はウァンパイアを倒さなくちゃならない。
────近々ウァンパイアが人間を襲う計画を立てていたの
由美は言った。
それを俺は止めたい。
ウァンパイアに人間を殺させたりしない。
人間はウァンパイアの家畜なんかじゃない。
ウァンパイアの餌なんかになってたまるか。
俺は絶対に、ウァンパイアの計画を阻止してやる。
「まさとくん」
図書館から出た俺は、背後からの声に驚いた。
「わっ!ビックリした・・・!」
声をかけてきたのは由美だった。
俺の反応に少し笑っていた由美はすぐに申し訳なさそうな、控えめな笑みを浮かべて
「ごめんね、驚かせちゃった?」
と、言ってきた。
俺は、ハハッ、と笑って誤魔化し訊いた。
「それより、どうしたんだ?家にいたはずだろ?」
「うん。でも、まさとくんがどこに行ったのか気になって、つけてきちゃった」
いたずらっぽく笑って由美はそう答えた。
「それで、何してたの?」
由美は訊いてきた。
俺は答えるのに少し迷って、頭をかいた。が、別に隠すことでもないと思って答えた。
「ウァンパイアについて調べてたんだ」
俺の答えに由美は少し真剣な顔をした。
「どうして?」
「ウァンパイアを倒したいから」
由美はハァッとため息をついて言った。
「言ったでしょ?人間はウァンパイアを倒せないって。力の差がありすぎるもの」
でも、と俺は反論した。
「やらなくちゃいけないんだ。ウァンパイアに人間が殺されるなんて許せないから」
由美は真剣な表情で聞き、俺を見つめる。
俺も真剣な表情で見つめ返す。
「無理でもなんでも、やらなくちゃいけないだろ?お前は何のために逃げてきたんだ?ウァンパイアが人間を襲う計画を立てていたからだろ?それじゃ、それを止めなくちゃならない。知ってしまったなら、阻止するしかないんだよ」
それが、俺の考えだ。人間を襲うのが嫌で逃げてきた由美を守るためにも。
由美と俺が今こうしているのは、ウァンパイアから人間を守るためだ。少なくとも、俺はそう信じたい。
「・・・まさとくんは、私が言ったことをすべて信じてくれる?」
不意に、由美がそう言った。うつむいた由美の表情は暗くてよく見えない。
俺は急な質問に困惑した。
なぜ今、そんなことを訊くのだろう?
今そんな話は全然していない。その質問に、何の意味があるのかはわからない。
だけど俺は、普通に答えた。
「あぁ、もちろん。俺は由美を信じるよ」
その答えに、由美は妖しい笑みを浮かべ、俺の顔を見た。
瞳が真っ赤に染まった顔で────・・・
「私は、あなたたち家族を殺しに来たの」