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ウァンパイア物語2  作者: 衣月美優
3/8

心配いらない


「こんなもんでいいか」

 俺は由美の服などを買った袋を地面に置きながら言った。

「うん、ありがとう」

 由美は礼を言って、近くのベンチで休もうと言った。

 俺たちはベンチに座り、少し話をした。

「私がウァンパイアの巣から逃げた理由は、人間を襲うのが嫌だったから。それでこっそり出ていったんだけど・・・すぐにバレてしまったの。まさとくんにあそこで偶然出会えて、しかも助けてもらえてよかった。本当にありがとう」

 由美は笑顔でそう言った。

 感謝されることに慣れていない俺は、何だか照れ臭かった。

「いや、別に偶然だし。それよりさ、何でウァンパイアは人間を襲うわけ?」

 俺は由美に訊いてみた。

 由美に出会うまではウァンパイアが人間の血しか飲めないからだろうと思っていた。

 でも、由美は普通に人間の食べ物を食べていた。ということは、他のウァンパイアたちも同じだろう。

 だったらなぜ、ウァンパイアは人間を襲うのか。俺にはよくわからなかった。

「私たちウァンパイアは、人間の食べ物を食べることもできるわ。だけど、人間の血はウァンパイアにとって高価なもので、ごちそうなの。それに、ウァンパイアにとって人間は自分たちより下の存在。屈服させようとしているの。だからウァンパイアたちは人間を襲うのよ」

 由美は冷静に、そして申し訳なさそうに言った。

 別に俺はウァンパイアたちが人間をどう思っていようがどうでもいいのだが。

「でも、少なくとも俺が生まれた頃にはウァンパイアは人間を襲っていなかった。だから、俺もウァンパイアのことを信じていなかった。今はウァンパイアは人間を襲っていないのに、何で逃げる必要があったんだ?」

 俺はさらに訊いた。

「それは・・・実は、近々ウァンパイアたちが人間を襲う計画を立てていたの。だから、それに参加させられるのが嫌で・・・」

 と、由美は答えた。

 なるほどね、と俺は呟き頷いた。

 しかし、ウァンパイアの中にも人間のような心を持つ者がいるのか、と俺は思った。由美こそがそれを証明している。

 由美は人間を襲いたくない、殺したくないと思っている。それは、ウァンパイアにも心があるということの証明だ。

 ウァンパイアも人間と大差ないのかもしれない。人間にだって、人を殺してしまう人がいる。それは、ウァンパイアが人間を殺すことと何も変わらない。

 ウァンパイアと違うところがあるとすれば、ウァンパイアは血を求め、人間を屈服させようとしているところくらいだろう。


「人間がウァンパイアに勝つ方法はないのか・・・?」


 俺は独り言のように呟いた。

 その独り言のような問いに、由美は眉間にしわを寄せて答えた。

「それは、ほとんど不可能だと思うわ。ウァンパイアの一匹や二匹なら可能かもしれないけど、ウァンパイアは束になってやってくるはずだから・・・人間に勝ち目はないわ」

 ウァンパイアである由美がそう言うんだ。その通りなのだろう。

 由美が言わなくても俺だって頭ではわかっている。ウァンパイアに勝てるわけがないということは・・・

 だけど・・・

 それでも・・・

 何とかして勝ちたい。ウァンパイアなんかに負けたくない。ウァンパイアに餌としてしか見られないのは悔しい。

 ウァンパイアが人間を屈服させようとしているのなら、こっちが屈服させてやる。

 気がついたら、そんな想いが沸き上がってきた。




 奏井 まさとは完全に私の手の中。

 もともと母親の奏井 海花とはあまり関係がよくなかった。そんな人間、簡単に丸め込める。

 奏井 まさとは私を信じきっている。

 ウァンパイアの巣から逃げたという私を────・・・




「でも、いつまでもここにいるわけにはいかないわよね」

 俺は突然そう呟いた由美の顔を見た。

 淋しげな笑顔を浮かべた由美は続けて言った。

「だって、ウァンパイアは人間を襲う計画を立てているんだもの。そう遠くないうちにウァンパイアたちはやって来るわ。そしたら、私は裏切り者として殺されてしまうでしょうね」

「大丈夫だって」

 俺は笑顔で答えた。

 由美はきょとんとした様子でこっちを見た。

「ウァンパイア研究者の母さんがついてるんだ。ウァンパイアにそう簡単に襲われたりしないよ。それに、お前も殺させたりしない。俺が守ってやるから心配すんな」

 俺は自信に満ちた笑顔で言った。

 そんな俺に対し、由美は顔を歪めて

「何・・・言ってるの?そんなのできるわけないじゃない!さっきも言ったでしょ?人間はウァンパイアに勝てないって・・・!」

 と、声を荒げて言った。

 初めて由美の取り乱したところを見て少し驚いたが、それでも俺の気持ちは変わらなかった。

「そんなのやってみないとわからないだろ?大丈夫、何とかなるって!」

 これが俺の決意だ。

 由美は信じられないという風に俺をしばらく見ていた。だが、すぐにいつもの顔になり言った。

「・・・ごめんなさい。あまりにも現実味がなくて困惑してしまったみたい。でも、やっぱり無理よ。人間がウァンパイアに勝つ方法なんて、あるわけないもの」

「でも、もしかしたらあるかもしれないだろ?ほんの少しでも勝てる可能性がある方法が」

 俺はやっぱり言い放った。

 由美の言っていることもわかるが、やっぱりこの気持ちは変わらない。ウァンパイアを倒したい、その気持ちは。




 このままだと、本当にウァンパイアを倒すための計画を立て始めかねない。

 だが、私たちウァンパイアはそんなに簡単にやられるやつじゃない。そんなものを立てたところで、できやしない。

 だから、そんなことを心配する必要もない。

 奏井 まさと・・・お前は死ぬのだ。そんなことを考える必要はない。お前は私を信じていればいいのだ。それ以外、何もする必要はない。


 ────俺が守ってやるから心配すんな


 それでいい。お前はただ、私を守っていればいい。

 ウァンパイアに襲われそうな私を────・・・


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