巣から逃げたウァンパイア!?
俺の名前は奏井 まさと。高校二年生になったばかりだ。
母親の海花はウァンパイアの研究家、父親の隼人はその手伝いとファミレスの店員をしている。
俺はウァンパイアなんているわけないと思っている。少なくとも、俺が生まれたときには存在していなかった。
父さんたちはウァンパイアを何度も見たと言うけれど、本当かどうか・・・
まぁ、本当にいたとしても研究なんてする必要ない。
もう人間は殺されてなどいないのだから────・・・
ある日の学校帰り。俺は少し遠回りをして帰っていた。
帰り道の途中、俺と同い年くらいの少女がボロボロになって倒れていた。
俺はその少女に駆け寄り
「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」
と、声をかけた。
すると、少女は目を覚まして
「だ、大丈夫です。それより助けてください!私、このままじゃ・・・」
と、怯えた声で俺に訴えてきた。
俺は何があったのかよくわからないので、とりあえず落ち着いてもらった。
「何があったんだ?」
落ち着いたところで俺が訊くと、少女はこう答えた。
「私、逃げてきたんです。ウァンパイアの巣から」
俺たちは近くのベンチに座って話をすることにした。
「・・・で?ウァンパイアの巣から逃げてきたって?」
俺が首をかしげて訊くと、少女は
「はい。信じてもらえないと思いますけど、私、ウァンパイアなんです。それで、ちょっとしたことから他のウァンパイアたちに命を狙われていて・・・それで逃げてきたんです」
と、答えた。
俺は混乱して
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ウァンパイアって本当にいるのか?」
と訊くと、少女は小さく頷いた。
「じゃあ、他のウァンパイアたちはこれからお前を・・・?」
俺がまた訊くと
「えぇ。きっと私を殺すまで狙ってくると思います」
と、少女は答えた。
「じゃあ、これからどうするんだ?」
また俺が訊くと、少女は困ったように
「どこか、隠れられるところがあればいいんですけど・・・」
と言うので、俺は思いきって
「じゃあ、うちに来ないか?」
と、言ってみた。
少女は驚いたように目を丸くし
「で、でも・・・迷惑じゃないですか?それに、あなたまで危険な目に遭ってしまうかも・・・」
と、言った。
「それなら大丈夫だ。実は俺の両親・・・特に母親がウァンパイアの研究をしているんだ。だから、他のところより安全だと思う」
俺はこう言って、迷惑でもなんでもないと伝えた。
そして、ウァンパイアだということは伏せて命を狙われていると言えば、協力してくれるだろうと言った。
それなら・・・と、少女は俺の家に来ることを決めたみたいだった。
「じゃあしばらくよろしくな。俺は奏井 まさとだ。お前は・・・っていうか、ウァンパイアに名前ってあるのか?」
俺は自分の名前を告げてから、少女に訊いた。
少女は首を横に振って
「いいえ。ウァンパイアにはアルファベットでしか・・・私はYと名付けられていました」
と、答えた。
「そうか、じゃあ・・・由美。小野寺 由美にしよう」
俺がそう言うと、少女はコクリと頷いた。
“小野寺”も“由美”もクラスメイトにいる名前を付けただけだ。
「じゃあよろしくな、由美。あ、あと、敬語はいいから」
俺は改めてよろしくと言った。
由美も笑って
「うん。これからよろしくね、まさとくん」
と、言った。
やっと見つけた。M・・・いや、奏井 海花の血を引く者を────・・・
あの、人間になったウァンパイアの息子なんて、生きていていいわけがない。
一家まとめて殺してしまおう。
まぁ、しばらくはこの一家の世話になろう。
そして演じるのだ。ウァンパイアたちに襲われているということを・・・
奏井 まさとには何の恨みもないが、死んでもらう。
恨むのなら、母親を恨むのだな。
ウァンパイアでありながら人間に恋をし、あろうことか人間などになった母親を。
あんな、人間になったウァンパイアなどいらないのだ。
私のように“氷の心”を持っていれば、人間なんて弱い者に恋をすることなどないのだ。
少なくとも、私はしない。
私は“氷の女王”と呼ばれているのだから・・・
まぁ、とりあえずしばらくは『小野寺 由美』として過ごそうじゃないか。
そうしていれば奏井 まさとに、奏井 海花に、奏井一家に深く関わることができる。
それに奏井 まさとに関わっていれば、人間やこの世界のことも詳しく知ることができるだろう。
現女王として、人間を殺す計画も立てなければならないしな。
まぁ、まずは奏井一家を殺すことに力を入れよう。
人間を殺す計画はそれからだ。