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8話 こんなはずじゃないナリィ!

 《木魔法使い》スキルで習得できる魔法は二種類だ。


 一つは《ウッドクリエイト》。

 名前の通り手元で木材を生成する魔法だ。

 もちろん無限には生成できず限度がある。例えるなら自分の心の奥にある一本の木。それから少しずつ切り取って使う感じだ。


 そしてもう一つが《ウッドメイク》。

 生成した木の形、性質を自由に変える魔法だ。

 チートじみてるように思うだろうが即座に生成したものはとても脆く、壊れやすいという特徴がある。俺の父、ラトフはこの魔法が得意で家具店を経営していた。


 あと、《魔王の刻印》の力なのか、俺の生成する木は緑ではなく、全て黒に染まっていた。まぁ特異体質という事で誤魔化しているのだが。


 これらの魔法を操って『ファントムサーカス』で活動する俺を、人々はこう呼ぶようになった。


 《千刃烏(せんじんガラス)》、と。


 ◇◆◇

 

 闘技場に入るまでの間、俺とロットは簡単な作戦会議を開いていた。

 まぁロットは戦闘経験が無いので俺から一方的な作戦を伝える形にはなるが。


 「――で、その後ロットは木刀でトルチェ教官の頭をひたすら叩けばいい。殺すつもりでガツンっとな」

 「殺すつもりで!? 分かりましたが……、シュウロ君はどうするんですか?」

 「基本的にはロットのサポートに回る」

 「分かりました……! 頑張ります!」

 「あと、基本的には速攻だ。長続きすればこちらが不利だからな」

 「りょ、了解です!」


 不利というのはもちろん嘘だ。

 長期戦になろうと俺には負けない自信がある。だが、ペアとなると話は別だ。これはパーティ試験。チームワークも考慮される可能性がある以上はロットも立てる必要がある。


 で、あれば不意打ちでの速攻が一番上手くいく可能性が高い。


 ロットと(つたな)いハイタッチを交わし、舞台に上がる。向かいにはここまで数多の受験者を倒してきたトルチェ教官。


 「シュウロ・アルバレアとロット・ユーディーナリね? ワタシはトルチェ。今回の試験官ナリよ」


 と、金髪巨乳メガネ試験官が言う。好きな人には堪らないだろうなぁ。


 「悪いけど思ったより受験者がいて時間が無いナリ。早速始めても言いナリか?」

 「いいナリよ。あ、いいですよ!」


 ロットが震え声で答える。感染(うつ)ってるぞ。

 俺もそれに倣ってトルチェ教官に合意を伝える。


 『では、始めぃ!』


 審判の若い男が試合開始のサインを伝える。やはり急いでいるのだろう、開始が唐突だ。


 「行くナリよ!」


 始まるなりトルチェ教官がトンファーを構えて突撃してきた。当然俺もそれを迎え撃つために駆け出す。


 そして教官とぶつかるその直前に左手をかざし、


 「《ウッドクリエイト》!」


 ――誰よりも早く魔法を唱える。

 同時に彼我の間にとても薄い木の板が出現する。

 これで向こうからは俺とロットの姿が見えないだろう。


 「こんなもの目くらましにしかならないナリよ!」


 当然のようにトンファーで割られる板。が、その隙に俺は教官の後ろに回り込んでいた。


 「貰ったぁ!」

 「甘いナリィっ!」


 ――やはり読まれていたか。教官が振り返り、その勢いでトンファーパンチを繰り出してくる。


 ボキィッ!


 「くくっ、木刀なんかで来るからナリよぉ!」


 それを受け止めた俺の木刀が真っ二つに折れる。が、


 「なっ、……どういう事ナリか? 確かにワタシはお前の木刀を折ったはず……」


 次の瞬間には俺の手には元通りの木刀が握られていた。足元には真っ二つに折れた黒い木刀。


 ――これが俺の自慢、無詠唱で二つの魔法を同時に発動する奥の手、《デュアル》だ。

 代償として性能は最低のものになってしまうが《木魔法使い》をここまで極めた人間はいないだろうしこれを見た者はまず驚く。


 で、驚くのはいいがスキだらけだぞ。


 「なっ、しまったナリ……!」

 「せいやぁあああっっ!!」


 ガンッ!


 ロット渾身の一撃が教官の後頭部に直撃する。が、まだ浅い。

 教官がバランスを崩した所に追撃を加える。


 「ていっ」


 俺は《デュアル》で生成した黒い木槌(きづち)を投擲した。


 「あうっ……、ナリ……」


 見事ヘッドショット。

 もしこれでまだ動けたなら俺とロットで動けない教官をボコボコにする手はずである。


 が、教官はもう動かない。どうやら気絶したようだ。


 「試合終了! えーと……。点数は後々伝えますね」


 審判の青年が困惑した表情で笛を吹き、トルチェ教官は白目を剥いて担架で運ばれていった。


 残されたのは俺とロット。

 トルチェ教官がいなくなった事で俺達の次に戦う予定だった受験者が胸を撫で下ろしている。


 「勝てた、勝てましたよ……!」

 「だな。お疲れさん」


 教官には受験者と連戦しての疲れ、

 相手は《木魔法使い》と《治癒魔法使い》という油断、

 ここまで受験者相手に圧勝し続けての驕りがあった。


 そういうスキを突きまくって不意打ちで倒すつもりだったがこんなに簡単にいくとは思わなかった。


 振り返って観客席を見上げれば先ほどロットをバカにしていた男達は全員黙り込んでいた。


 ……どうやら俺達が勝つ方に賭けてくれてた奴はいなかったようだ。


 「よし、戻るか」

 「は、はい」


 これでとりあえず不合格は無いだろう。

 ロットも合格してしまったのは任務上まずいが、ペアになってしまった以上は仕方ない。


 まぁ、自分に制限を付けて戦うのは楽しかった。


 ――もし本気でやっていたなら、国を覆うほどの大樹で一気にコロシアムごと潰してただろうからな。

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