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7話 採点出来ないようにしてやればいい

 実技試験の会場に入ってまず驚いたのはその広さだ。

 まさかの巨大な円形コロシアムである。ドラゴンが三頭大暴れしてもまだ余裕がありそうだ。


 こんな闘技場は世界中を探してもそう無いぞ……。


 さすがは数々の英雄を排出してきたノーベンブルク王国。力の入れ方が違う。


 「しっかし、人多いなぁ」


 俺が来た時に集まっていた受験者は五百人ほど。俺の後からもやって来ているところを見るとまだまだ増えそうだ。今のうちに王女様をマークしておきたかったが人混みで見つからない。


 「配られた番号札と同じ番号の人を見つけてペアを作ってくださーい! 入学試験でのパーティになりまーす」


 ある程度の人数が集まると、セクシーなお姉さんが数人がかりで受験者達を案内する。

 冒険者学園だけあって教員は実際にギルドに勤めているベテラン冒険者達らしい。そういう理由で案内はギルドの受付嬢さんがやっているのだろう。

 本職も忙しいだろうにご苦労様だ。


 「23だ! 23番のやつ! 来てくれぇ!」

 「ん? お前115番か。宜しくな!」

 「あのー、番号札を無くしちゃったんですが……」


 受付嬢の言葉で会場が大騒ぎになる。こう全員が全員騒いでいたら中々ペアに会えない。人数が減るまではジッとしておこう。


 ちなみに番号札を無くしたやつは失格らしい。何でも冒険者が依頼品を無くしては話にならないからだとか。

 ……俺もうっかりしてる所はあるから気をつけよう。


 ◇◆◇


 相方を見つけては組んでいく受験者達を見ているうちに俺はある法則が見えてきた。

 つまりはスキルのバランスだ。例えば近接での戦闘を主とする《剣士》と《槍術士》のような同タイプのスキル持ち同士は組まないように設定されている訳だ。


 で、悩むのが《木魔法使い》ってどっちだ? 一応自分の中では遠近両方こなせる超万能スキルなのだが……。


 「あ、もしかして(280)番の方ですか?」


 考えているうちに背中から声を掛けられた。どうやら相方から見つけてくれたらしい。

 礼を言おうと振り返るが、そこで俺は今日一番の衝撃を受けることになる。


 そこに居た少女は黒いショートカットが似合う、村娘のような素朴な可愛さを持つ少女で……。


 「ロット・ユーディーです! スキルは《治癒魔法使い》、あの、一緒に頑張りましょう!」

 「お、おう……。よろしくな」


 ――俺が先日『ファントムサーカス』の任務で助けた少女だったのだから。


 ◇◆◇


 結論から言うと、心配は不要だった。軽い挨拶を交わしてみたが睡眠薬はしっかり効いていたようでロットは俺の顔を全く覚えていなかった。だがあくまで忘れているだけ。ちょっとしたきっかけで思い出す可能性はある。


 (……まずいな)


 これでは迂闊に木魔法が使えないじゃないか。特にボートのようなものを作るのは控えた方がいいかもしれない。


 まぁ作るにしても学園では木刀だけにしよう……。


 細かい話もしておきたかったがタイミング悪く試験会場に大声が響き渡る。どうやら全員ペアを組めたようだ。


 「よし! ではこれより入学試験を始める! 聞いているだろうが試験は実技だ! おそらく怪我をするであろう事は頭に置いておいてくれ!」


 闘技場の観客席の方を見上げると眼帯をつけた大柄な男がこちらに向かって叫んでいた。凄い大声だ。


 「おい、あれ、カレストロ・キングオウガじゃないか?」

 「本当だ! 《最強の大英雄》カレストロだ! 何であの人がここに……!?」


 その男を見て辺りが歓声に包まれる。

 カレストロ・キングオウガ。最強のギルド、『偉大なる聖剣(グランドセイバー)』のギルドマスターにして全世界の冒険者憧れの男だ。


 俺も子供の頃にルミアとカレストロごっこをしてたっけな。


 「あの、そんなにすごい人なんですか? あの方」


 なんとロットは彼を知らないらしい。冒険者になろうと言うのなら一度くらいは彼の伝説を聞くはずだが……。

 ファンとして熱弁しようとしたがそれは不要と言わんばかりにカレストロが続ける。


 「俺はカレストロ・キングオウガ。知っての通り『偉大なる聖剣(グランドセイバー)』のギルドマスターだが、同時にこのノーベンブルク冒険者学園の学園長を務めさせてもらう事になった。よろしくな!」


 「「「うおおおおおおおおっっ!!」」」


 歓声で耳が痛む。

 おぉ、マジか。《最強の大英雄》が学園長なのか。


 「さて、早速俺から試験の内容を説明させてもらうぞ! ルールは簡単、お前らには二対一で試験官と戦ってもらう! 別に勝つ必要はない、点数が高い者から上位三百人が入学だ!」


 三百か。この場にいるのがおよそ千五百人と考えればとんでもない倍率だな。


 ◇◆◇


 試験はとても長い時間をかけて行われた。一応試験官も十人以上いるとは言え、受験者全てと戦うのは大変そうに見えた。


 俺達の順番はまだだが、闘技場の観客席から近くで行われている試験の様子は見る事ができた。


 「大したことないナリね。0点ナリ。田舎に帰るナリよ」

 「「そ、そんなぁ〜」」


 で、あの凄まじい口調のお姉さん試験官が多分俺達の相手になる。武器はトンファー。ここまで何人も相手にしているが全く疲れる様子を見せない。


 というか厳しすぎないか? ここまで五点以上取った受験者が出てないぞ? 百点満点のはずだが……。


 ……まぁそれは置いといてそれ以上の問題が俺達の間で発生していた。


 「あの、ごめんなさい……。私のせいで負けちゃったらごめんなさい……!」

 「大丈夫だって! ほら、周りが見てるからやめてくれ……」


 ロットが正座してさっきから俺に謝ってくる。

 何でも彼女、自分の魔法の使い方すら分からないらしい。この学園に来た理由も基礎を教えてくれる場所と勘違いしたとか。


 つまりロットは戦力として期待出来ないどころか、おそらく受験者の中でも最弱という位置にいるのである。


 仕方ない。


 「ロット、これを使え」

 「……これは?」

 「俺の木刀だ。一本やるから頑張ろうぜ」


 覚悟を決めたのだろう。木刀をぎゅっと握りしめてロットは深く頷いた。


 「はーい! 次は(280)のペアです! トルチェ教官のところへどうぞ!」


 俺達の番が回ってくる。相手はやはりあの独特な口調のトンファー使い、トルチェ教官だ。


 「よし、行くか!」


 俺とロットが立ち上がると、


 「オイオイ、木刀ペアの番が来たぞ!」

 「マジか! しかも相方は魔法が使えないんだろ? ボッコボコ決定だな!」

 「何秒持つか賭けようぜ! はっはっはっ!」


 既に他の試験官によって試験を終えた受験者達が一斉に煽ってくる。確か彼らは五十点くらいは貰ってたっけか。


 「あの、シュウロさんのことは馬鹿にしないでください……。悪いのは私で……」


 おどおどと喋るロットの頭をぺしっと軽く叩く。


 「言い訳はもうちょっと後にしようぜ」

 「は、はい……」


 そう、ここは冒険者学園。馬鹿にされたなら力で示すのが冒険者のルールだ。なら、見返してやればいいのだ。


 狙うは合格。だが、ベルの手紙には一番を取れと書いてあった。

 トルチェ教官は厳しすぎる。たとえ倒しても百点満点はくれないだろう。


 ――ならば、教官を採点できない状態に持っていくまでだ。俺の頭にはもうハッキリと勝利のビジョンが完成していた。

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