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2話 魔王のシュウロ

 「はぁ……、寒いなぁ」


 辺りはもうすっかり暗くなっていた。

 あの後うまく神官達を撒いたシュウロは自分がギリギリ入れるくらいの小さな洞窟を見つけ、そこに身を隠した。

 入口には木の枝や葉で作ったバリケード。よっぽどの事がない限り見つかる事は無い。と、信じたかった。


 「父さんとルミア……、何してるかな……。怒ってるだろうなぁ」


 ひとまず休める場所を見つけたシュウロの頭にあったのは家族への心配だった。帰ったら怒られるだろうなぁ……。


 「……“ウッドクリエイト”! ……ダメか」


 父の真似をして魔法を唱えてみるが何も起こらない。手元に剣も無いしシュウロはどんなスキルを授かったのかも確認出来ずにいた。


 「せめてスキルが分かれば状況も打開できそうなのになぁ」


 もちろん魔王の冤罪は晴らせない。だがしばらく身を隠すには力が必要だ。今のままでは食事もままならないし、最悪魔物に襲われておしまいだ。


 ……そもそもいつまで身を隠せばいいのかも分からない。魔王の冤罪が晴れるまで? それっていつだ?

 考えれば考えるほど、狭い洞窟にいるシュウロの頭は絶望に塗り替えられていった。


 「……ったく、魔王だっていうなら魔王の力の少しでも見せてくれよ……」


 魔王の刻印を岩に叩きつけて八つ当たりをするが自分の手が痛いだけだ。

 とにかく今日はここで夜を明かそう。これからの事は明るくなってから考える。そう判断し、シュウロは狭い空間で無理やり横になって目を閉じた。


 ガサ、ガサ……。


 その時、洞窟の外から物音が聞こえてきた。

 それは何かが草木をかき分ける音。そして、魔物特有の息遣いは聞こえない。つまり、人間だ。

 しかも足音は真っ直ぐにシュウロの方へと近づいてくる。


 (うそだろ? 見つかった!?)


 ここは森の奥。こんな夜遅くに歩いている人間などいるはずもない。いるとすれば、それはシュウロを探す者だ。


 「う、うおおおっ!!」


 バリケードを突き破り、洞窟から飛び出す。相手がこっちに気づいているのなら洞窟に隠れるのは不利だと判断したからだ。だが、


 ドンッ。


 「痛っ!」


 運が無かった。何かにぶつかりシュウロの逃走は阻まれる。そして、その何か(、、)が口を開く。


 「お前かい。「魔王の刻印」を持つガキってのは」


 発されたのはしわがれた声。

 月明かりに照らされ、シュウロはその正体に気づく。

 老婆だ。アロハシャツを身に纏い、腰には刀を差し、身長が高く姿勢がいいのでパッと見老婆には見えない。が、その顔と声は紛れもないお婆さんだ。


 例えるなら魔女。物語に出てくる悪い魔女のような雰囲気をシュウロは感じ取った。


 「あ、あの……」

 「質問に答えな! あんたが転生した魔王かって聞いてんだよ!!」


 老婆はものすごい剣幕でシュウロを怒鳴り散らす。あまりの恐怖にシュウロは泣きそうになるがぐっと堪えて反論する。


 「ち、違います! 僕は魔王なんかじゃありません……!」

 「刻印があるね。これは魔王の証なんじゃないのかい?」

 「勝手に出てきたんですよ! 僕は魔王じゃないです!」


 ――老婆が黙り、辺りが静かになる。

 まずい事を言ったか? せめて黙らないで何か言ってくれ!


 「……そうかい。じゃあもう一つ質問だよ。お前、死にたいかい? それとも、生きたいかい?」

 「え、そんなの――


 生きたいに決まっている。

 だが、そう答えるのを遮るように老婆は続ける。


 「――先に言っとくが、アタシは死ぬ事をおすすめするよ。お前の刻印(ソレ)は死ぬまで消えない。隠して生きていくのはさぞ辛いだろうしねぇ」


 刻印は消えない。

 シュウロは何度目か分からない絶望に叩き落とされるが、これはチャンスでもある。

 多分、この老婆は何かを知っている。そして何より死にたくはなかった。


 「何を言われても僕の意見は一緒だ。僕は生きた「そうかい」


 頭に鈍い衝撃が走り、シュウロは地に倒れる。見上げると老婆は刀を抜いて立っていた。どうやらその峰で彼の頭を叩いたのだろう。シュウロの意識が急速に失われていく。


 超スピードの居合峰打ちで気絶って、どんな婆さんだ……。


 それが彼が最後に思考できた唯一の事だった。



 ◇◆◇



 ――ひどい頭痛によってシュウロは目を覚ました。ルミアに毎朝たたき起こされていた彼にとっては新鮮な寝起きだ。


 「ここは……?」


 ふかふかのベッドから体を起こし、辺りを見回すとどうやら二階建ての小屋であることが分かった。

 窓から見える外は吹雪。ミルズ村は年中温暖な気候だ。

 ――どうやらとても遠いところに連れてこられたらしい。


 「ん、起きたかい。糞ガキ」


 しわがれた声と共に、例の老婆が階段を登ってくる。その手には二つのコップ。


 「ま、聞きたいことは色々あるだろうがまずは飲んで体を温めな」


 老婆がコップを一つ手渡してくる。中身は赤い液体、野菜か何かのスープだろうか。


 「まずは自己紹介だ。アタシはベルナデット。気軽にベルと呼んどくれ」


 ベルナデットが椅子にどかっと座り、コップの中身を飲み干して言った。


 「……シュウロ。シュウロ・アルバレア」

 「普通の名前さねぇ。で、シュウロ。何で飲まないんだい? わざわざお前のために暖めたのに冷めちまうよ」

 「あ、ごめんなさい。いただきます」


 毒……じゃないだろうし、折角のご厚意を踏みにじるのも良くない。シュウロはぐいっとスープを飲み込む。だが、


 「うっ……、お酒じゃないか……」

 「ひっひっひっひっ、弱った体にはこれが一番さね。妙に畏まる必要はないよ。ガキなんだから楽に話しな」


 シュウロの火照った顔を見てベルナデットかけらけらと笑う。


 だが、悪戯っぽく笑うベルナデットを見て、シュウロの緊張は少しほぐれたのだった。

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