7 才を持つ者
王都に来てから4日間、俺達4人は王都を心ゆくまで観光した。
このような観光などとても久しぶりだったためにまさに浮き足立つが如く王都を探検し回っていた俺は、この世界も中々良いなと思いつつ観光を楽しんでいた。
そしていよいよ魔術学院の入学試験の時がきたのだった。
今日がその日。
この世界では4月15日に該当する。
この日俺とアンが入学試験を受けに行くのに対し、ラティとペルダムは家で待機となった。
その理由は……
「この人混みの中じゃ流石に面倒だからな」
ペルダムが窓から外を見ながら言った。
無論それが今日が入学試験だからなのだが、実はこの宿は魔術学院のすぐ近くにある。
それが相まってここから見える道にはかなりの人がいたのだ。
俺は窓を開けて学院で放送されている番号を耳に通しながら街を眺めていた。
一体どれだけの人数が王都やその周辺の村や町からこの魔術学院に集まっているのだろうと頭の中で想像しながら俺は右手に持っている紙切れを見た。
『整理番号653』
実はこの学院では受験者に予め予約を取ってもらい、整理券を渡して学院側が当日呼び出すシステムを採用している。
受験者数もそれなりなので予約制にでもしなければ混乱が起きるのだろう。
なので地の利を生かして宿でのんびりと待っていた訳だが、そろそろ行かなければならない。
「多分後十数分で呼び出しがかかる。そろそろ行かないと」
「……ん、そうだね。じゃ、行こっか!」
◆
玄関から出る前、ラティとペルダムから激励の言葉と共に言われたことがある。
もし受かったら、これから3年間は会えないだろうと。
学院に入学した場合、在学中は基本的に学院外への外出は出来ないからだ。
これがいわゆる全寮制というやつか、いやしかし王都内での活動くらい許して欲しいものだ。
そんなことを考えながら広大な敷地面積を持つ魔術学院を眺めていると、さっさと来いと言わんばかりの女性の声で自分の番号がコールされた。
「653番、4番受付までお越しください」
入学試験は外で行われる。
当たり前といえば当たり前なのだが、これだけの受験者を学院に収容する訳にもいかないのだろう。
俺は人混みをかき分けながら前に進み出た。
受付カウンターは計10個。
それぞれの受付にこの学校の教授らしき人物が座っている。
そして俺が行った4番カウンターには洋風な服を着た若い女性が座っていた。
「653番、あなたがトウヤ・オークルクスで間違いないわね?」
「はい」
「私はセブンス・オルタ。知っていると思うけど、ここであなたの魔法効率を測って入学資格があるか否かを判別するわ。簡単な試験だからすぐ終わるわ」
「分かっています」
まあ特異属性魔法が使えるくらいだから流石に魔法効率もあるとは思ってはいるが、残念ながら確証はない。
「……ならばよし、じゃあ水晶に30秒程手を乗せて置いて頂戴」
そう言って彼女は俺の前に水晶を差し出した。
全ての受付カウンターならぬ試験カウンターに置いてある水晶はおそらく魔法効率を測る代物だろう。
俺は内心ドキドキしながらも、しかしそれを表情には出さないように水晶に手を触れた。
それにしても30秒で終わるとは早いものだ。
たったそれだけの時間で自分の命運が簡単に決まってしまうのだから。
しかし何も起こらず試験は終了……というわけにはいかなかった。
水晶に手を触れてすぐにそれは起こった。
……バキィィィィィン!!
水晶にヒビが入ったかと思うと、次の瞬間耳をつんざくような音を立てて粉々になったのだ。
「……!?」
見ればセブンスさんは目を大きく開きながら粉々になった水晶を見ていた。
気づけば周りには何が起こったか分からない者や、セブンス同様、唖然とした顔をしている者もいた。
因みに他の試験カウンターにいる試験監督官は全員顔に驚愕の色を浮かべていた。
「……少し待っていて頂戴」
そう言ってセブンスは奥へ行き、もう2つの水晶を持ってきた。
そして彼女は水晶を再度俺の目の前に差し出した。
「もう1回触れて頂戴。でも今度は手のひらじゃなくて指先だけでお願い」
わかったと言わんばかりに頷いた俺は人差し指の先っぽだけを水晶に当てた。
そして数秒後、粉々にはならなかったが大きめのヒビが水晶に入った。
いつの間にか冷静さを取り戻していたセブンスは破損した水晶をひとしきり見たあと、俺に言った。
「合格おめでとうトウヤ・オークルクス。あなたはAクラスよ」
そう言って彼女は学院が発行したであろう特殊な紙切れに俺の名前とクラス番号、そして彼女自身の名前を書いて俺に手渡してきた。
「これは合格書よ。もし入学する意志があるのなら18時に行われる入学式に来なさい。その時にこれを持参するのを忘れずにね」
そして少しじっとしていて、と言われたかと思うと、彼女はカメラで俺の顔を撮った。
おそらくこの合格書を紛失してしまった時の保険だろう。
しかし俺には彼女に聞くことがあった。
「セブンスさん、何故僕が触れた水晶が壊れたんですか?」
セブンスは俺の疑問は尤もだという風に頷き、ヒビの入った水晶を持ちながら言った。
「魔力効率は知っているわよね?この水晶は一種の魔道具で、手を触れた人間の潜在的に扱える魔力分の魔力を自動的に操作し、この水晶にその魔力を集めて魔力効率を測る目的で作られた道具なのよ。この水晶の破壊する方法は2つ。1つは、魔力操作を出来る魔術師が意図的にこの水晶に多くの魔力を送り込み、それに耐えきれずに破壊してしまうこと。そしてもう一つは、高すぎる魔力効率を持つ人がこの水晶に触れた時、自動的に多くの魔力がこの水晶に流れ込み、耐えきれずに壊れてしまうこと」
彼女は一息ついてから、こう続けた。
「私はあなたの目の前で水晶に手を触れているところを見たけど、意図的な魔力操作は感じなかった。感じたのは水晶が破壊された時に感じた膨大な魔力だけ。これはつまり、あなたが後者であることを意味するの。……すごい才能だわ。これは私の個人的な意見だけど、是非あなたは学院に入って魔法を学ぶべきだと思うわ」
彼女はもう一つの新しい水晶を置いた。
「さ、次の人の試験を始めないといけないからここであなたの試験は終わり。折角だから色々喋ってしまったけど、どう?入学する気になった?」
「言われずとも入学しますよ。その為にここに来たんですから。わざわざ説明ありがとうございます」
「そう、それは良かったわ」
そう言って彼女は次のコールをした。
「654番、4番受付までお越しください」
めでたく合格書を手にした俺は、荷造りをするべく宿に帰ることにした。
「あ、トウヤ!水晶がなんか壊れてたけど大丈夫?」
近くにいたアンが俺に駆け寄りながら聞いてきた。
彼女は俺と一緒に試験の予約をとったため、彼女の番号は俺の次の654番である。
なので今まで一緒に行動してたのである。
俺の水晶破壊の光景も見てたのだろう。
「ああ、問題ない。合格も出来たしな」
俺は合格書をヒラヒラさせながら言った。
「流石トウヤだね!私も合格出来るといいなぁ」
「アンならいけるよきっと。それより早く行ってこい」
「そうだね。私が終わるまで待っててくれる?一緒に帰ろ!」
そしてアンは俺の返答を待たずに行ってしまった。
ここから宿までそんなに離れてないだろうに、と思いつつ頼まれてしまった俺はアンの合否の結果も気になったのでその場に残ることにした。
合格率は2~3割程度、受からなくても仕方ないなと思いながら待っていた俺はアンがカメラで写真撮影をされた光景を見てホッと胸を撫で下ろした。
どうやら無事に合格したらしい。
ラティとペルダムに良い報告ができるなと考えながら戻ってきたアンに祝いの言葉を述べた。
宿に戻ってきた俺とアンはただいまーと言いながら玄関の扉を開けた。
「お疲れ様!どうだった?」
ラティとペルダムが飛ぶようにこちらに来て、開口一番にそんなことを聞いてきた。
「受かったよ。二人仲良く、ね」
「うん!」
それを聞いたラティとペルダムはお互いビックリしたような顔をした。
まあ当たり前だろう。
合格率は大体2~3割程度、高く見積もっても合格率3割の試験で2人が合格する確率は単純計算でたったの9%なのだ。
「入学式は18時から行なわれるってさ。楽しみだなぁ」
「そ、そうか。となるとそれまでが家族みんなで過ごせる最後の時間となるわけか」
「大袈裟だな〜父さんは。卒業したらまた会えるじゃない」
アンはこう言っているが、魔術学院は3年制なので最低でも3年は待たないといけない。
俺には、3年間自分の子供に会えない親の気持ちがなんとなく分かる気がした。
「ま、入学したら長期的に会えなくなるわけだし、入学式まで家族一緒に過ごそうぜ?」
17時30分、俺、アン、ラティ、ペルダムは四人揃って魔術学院の前にいた。
正式な名をエブロビット高度魔術師育成学院。
魔術師の素質を持つ者が魔法を学び、卒業後はエリート魔術師として世に出ることになる。
「じゃあ、アンもトウヤ達者でな」
「2人とも気をつけるのよ」
「うん、父さんと母さんも元気でな」
俺はそう言い、アンの方を見た。
彼女は何かを決意したような目でラティとペルダムを見ている。
彼女が何を言うのか、何となく分かる気がしたが、未来予知で答え合わせをするほど俺は無粋ではなかった。
「私、一流の魔術師になってみせるから、それまで待っててね!母さん!父さん!」
そう言って彼女は小走りで魔術学院の方へ向かった。
俺もじゃあ、と言って魔術学院の方へ歩を進めていく。
もしかしたら泣きそうになったからああいうサッパリした別れ方をしたのかもしれない。
今まで表情には見せなかったが、やはり親との長期的な別れは何か心にくるものがあるのだろう。
無論俺としても彼らと別れるのは悲しい。
だが彼らと血が繋がっている訳ではない俺はアン程悲しむことはできなかった。
そんな自分に少し虚しさを感じながら周りを見てみる。
やはり前もって来ている人は多く、少なくない人数が周りにはいた。
彼らは皆少なからず新しく始まる生活に心を躍らせていることだろう。
勿論俺も例外ではない。
また新たな生活が、ここから始まる。
次から学園生活が始まります。




