6 新風
件の事件の後、アンを助けた俺は村民全員から感謝されることとなった。
因みに彼らには本当のことを話していない。
本当のことを話すことは自分の能力についても話すことになる。
自分の能力について他人に話すのは俺の望むところではない。
何が起きるかわからないのだから。
よって俺は例の如く適当な話をでっち上げることにしたのだった。
◆
「2人共聞いて!」
夕食の時にラティが唐突にそんなことを言い出した。
どうしたのだろうと俺はラティの方を見ながら冷たいお茶をすすった。
「明日王都に行くわよ!」
そういうことはもっと前に教えて欲しいものだ。
二重の意味で唐突過ぎるラティの言葉に俺はギャグ漫画の様に口の中のお茶を吹いた。
事の発端は昨日の夜である。
「来週の月曜日王都に行くわよ!」
来週の月曜といえば5日後だ。
そしてその次の日は……
「とうとう入学試験だね!」
アンが無邪気な笑みを見せながら元気よく言った。
そう、来週の火曜日は待ちに待った魔術学院の入学試験なのだ。
それに備えて前日に王都に行くことになったのだが……
「王都で働いている父さんが明日から長期休みに入るらしくて、それで久しぶりに家族揃って過ごしたいから明日来いって。折角だしいきましょう!ね?」
ラティの言葉には有無を言わせない響きがあったが、まあ悪くないだろう。
明日王都に行って入学試験が始まるまで探検するのもいいかもしれない。
「分かった!トウヤも異論は無いわよね?」
「もちろん」
王都か、どんな所なのだろう。
やっぱりド〇クエにあるような城下町みたいな感じなのだろうか、それとも意外と近未来な街だったりするのだろうか。
俺は明日の王都出発に少し心を踊らせながらシチューを口に含んだ。
……何か異物感を感じる。
なんだろうと思いながら出してみると、それは……
「なんでキャップが入ってるのよ!」
アンが驚きながら言った。
調味料のフタらしきものが入っていた。
「そこにあったのね!無くなってたから探してたのよ〜」
とラティが言った。
勘弁してくださいよ。
◆
「♪♪♪~〜~」
俺は鼻歌を歌いながらいつもお世話になっている宿屋に帰っていた。
そう、明日は久しぶりの家族との再会なのだ。
無理を言って入学試験の前日にくる予定を明日に変更してもらった。
しかしこれはしょうがない事なのだ。
上司が、
「おし!明日から1週間の長期休みに入る!みんな体を休めてくれ!じゃあな!」
などと急に言うから急いでラティに予定を変更して明日来て欲しい主旨を手紙で伝えたのだ。
前々から聞いていたが、トウヤという記憶喪失者を新しい家族として迎い入れたのだという。
他人を放っておけない性格の持ち主であるラティなら全然おかしい話ではないし、俺としても全く構わないと思っている。
しかも彼は誘拐犯に誘拐されたアンを助け出したのだという。
しかも1人で。
……彼に会ったら礼を言わなければならない。
俺はそんなことを考えながら明日彼等をもてなすためのケーキを買いに商店街のケーキ屋に立ち寄ることにした。
◆
いつも通り俺は頭のおかしい(この世界では正常だが)ニワトリの所為により目覚めの朝を迎える。
実のところこの村に来てから1ヶ月弱で彼らの鳴き声に慣れてしまったのだった。
俺は窓から空を飛ぶニワトリを生ぬるい目で見つめながら部屋を出た、もといリビングに向かった。
そこには意外にも髪を整えているアンが隣の洗面所にいた。
いつも起床が俺より1時間弱遅い眠り姫ことアンは今日は早く起きていた。
やはり王都が楽しみなのだろうか、いつもより念入りに髪を整えていた。俺の予想だが。
アンも女の子なんだなと非常に失礼なことを考えながら温かい目で見守っていた俺は朝食が出来上がるまでの暇つぶしに彼女にちょっかいを出すことにした。
「おはよ」
「あ、おはようトウヤ!今日は楽しみだね!」
「同感だな」
そんなことを言いながら俺は今さっき台所からくすねてきた氷を何食わぬ顔でアンの耳に当ててみる。
「……何をするかトウヤー!」
俺のちょっかいの犠牲となった哀れな被害者ことアンは笑いながら俺の腕を掴んできた。
「痛い!マジで痛いですアン様離してください!」
「フッ、これ位で音をあげるとは情けないのうトウヤよ」
アンが冗談じみた口調でそんなことを言った。
因みに言っておくと、別に俺は大袈裟な反応をしていたわけではない。
普通に痛かった。
単刀直入に言うと、彼女は力が強い。
それこそ地球人と比べるのもおこがましいくらいには強いのだ。
別に某巨人アニメのヒロインみたいにムキムキなワケでも無いのに、だ。
これは彼女に限ったことでない。
この村の住人全員が地球人的にみて超人的な筋力を持っている。
もしやこの世界の筋力係数は地球よりも高かったりするのだろうか、と思ったこともあったが、これはこの村に住んでる人の種族的潜在能力によるものであることが判明した、もといアンから教えてもらった。
その時は神様の人に対するパラメータ配分のあまりの適当さにかなり驚いたものだ。
俺がアンから掴み攻撃を喰らった腕をさすっていると、台所から俺たちを呼ぶ声がした。
「トウヤー、アンー、ご飯作るの手伝ってー!」
◆
私は少し準備があるから先に外に出てて、とラティに言われた俺は荷物をまとめたバッグを肩にかけ外に出た。
涼やかな風に当たりながら俺は大きく息を吸いこんだ。
辺りを見渡せばそこには草原が広がっている。
自然に囲まれた生活、それは日本にいる時ずっと都会暮しだった俺にとっては体験したことのない生活だった。
なんというか、縁がなかったのだ。
親戚や従兄弟が田舎に住んでいるとかもなかったし、親はロクに旅行に連れていってくれなかったから長期的に自然と触れ合うことはなかったのだ。
ところがどっこい、異世界に放り込まれた俺を待ち受けていたのは自然豊かな土地での生活だった、てわけだ。
しかし今まで都会ぐらしをしていた俺はすぐに慣れることが出来た。
意外と心地良いのだ、別に自然と縁がない生活が嫌いだった訳では無いが。
こういう生活の方が俺の適性は高かったりするのだろうか。
と、この村に来てから時々考えることがある。
そう考えるとやはり思い出すのは両親の顔だ。
父母共に働き詰めだった彼らは小さい頃からあまり俺には構ってくれなかった。
それでも彼らは俺を一生懸命に育て上げてくれた親だし、感謝している。
だからこそ時々両親を思い出し、今はどうしているのだろうと思うわけである。
俺は大きく息を吐いた。
まあ結局元の世界には戻れそうにもないし、この世界を満喫するのも良いかなと最近は考えているわけだが。
薄情なやつだと思うかもしれないが、今更向こうの世界のことを考えても仕方がないだろう。
俺はもう決めたのだ。
「トウヤー、もう出発するわよー!」
振り返ってみると、そこには荷造りを終えたラティが家の前にいた。
「今行く」
俺は胸に抱くある思いを心の中で呟きながら二人が待っている所に歩を進めた。
この世界で前向きに生きていく、と。
◆
馬車で移動すること約1時間。
前方に町が見えてきた。
「……でか」
俺は口をポカンと開けたまま馬車の窓から首を出し、その巨大な町を見ていた。
自分の住んでいた村がいかに田舎だったかがよく分かる。
町の中央にある洋風の巨大な城を囲むように建ち並んでいる無数の建物は……レンガ造りだろうか、中世ヨーロッパの町並みを彷彿とさせるような造りになっていた。
……実は俺自身中世ヨーロッパをあまり理解してないのだが(殴
まあ端的に言うとドラ〇エでありそうな町並みをしていた。
これがいわゆる城下町というやつだろうか。
とにかく広い!
東京ドーム100個分位はあるのではないだろうか(適当
「入学試験、通るといいわね」
ラティがそんなことを言いながら王都を懐かしいものを見るかのような目で眺めていた。
その通り、ここで新たな新生活が待ち受けていると思いきやそうはいかない。
必ず通るとは限らないのだ。
結果的に観光しに来ただけになってしまうかもしれない。
だが俺は確信していた。
俺は通るだろうと。
流石に異属性魔法を使えるのだから魔力効率もあって然るべきだろう。
だが問題は……
俺の目先にいる人物は顔を固くしていた。
「アン?もしかして緊張してる?」
「!?そそ、そんな事ないよ!ちょっと王都を見て凄いなーって思ってただけだよ?」
嘘つけ。
俺の問にやや上擦った声で返答するアンは顔を少し青ざめさせていた。
無論緊張するのは分かる。
もし俺も例のノートの言う例外ではなかったらアンと同じくさぞ緊張していたことだろう。
「きっと受かるよ。アンも俺も」
「……うん」
自分の考えていることを見透かされていることに気づいたのか、アンは顔を赤くして俯いた。
「着きましたぜ御三方」
王都の門前に止まった馬車から降りた俺は門の上にある看板に目を付けた。
『王都エブロビットへようこそ』
というわけで王都エブロビットに到着した。
王都の入口から見てもどれだけこの王都が大きいかがよく分かる。
王都に入った俺達は真っ先にペルダムが住んでいる宿に直行した。
「いい匂いがする〜」
アンが腑抜けた顔でそんなことを言った。
いま俺達は多くの屋台が並んでいる大通りを通っていた。
何だか不思議な形をした食べ物が売られていたり、ヤバそうな色をしている肉を鉄板で焼いていたりしているが、どこか日本の祭りと似たような雰囲気を感じた。
やはり王都というだけあって、食品に限らず様々な商品がここに集まっているのだろう。
その後は暫く住宅街を通り、そして目的地であるペルダムがいる宿に着いた。
「すみません。ペルダムという人に会いに来たのですが」
「ええ、話は伺ってるわ。2階の5号室の部屋にいるからお行きなさい」
歳60位の太っているおばさんが柔らかく微笑みながら部屋の番号を伝えてくれた。
いよいよご対面である。
ラティがペルダムの部屋をノックした。
「ラティです」
「ああ、来たか。ドアのロックは外してるから入ってきておくれ」
そう言われ、ラティが何となく慎重にドアの部屋を開けると……
「久しぶりー!」
パーマをガチガチにかけた男性がテーブルの上に乗っているケーキを前にハイテンションでそんな言葉をかけてきた。
「君がトウヤだね?俺は父のペルダムだ。よろしく!」
そう言って握手を求めてきた。
「どうも、オークルクス家に世話になっていますトウヤと申します」
俺はそう返し、握手をした。
「ハッハッハ、そんなに畏まるな。トウヤはもう俺らの家族なんだろう?俺のことも父さんと呼んでくれ」
そう言って彼はラティとアンの方に向かった。
「ラティ、アン!ほんとに久しぶりだな!元気にしてたか?」
「ええ、私もアンも元気に過ごしていましたよ」
「父さんも相変わらずだね!ところでそのケーキはどうしたの?」
そう言ってアンがテーブルに置かれている大きめのサイズのワンホールケーキに視線を移した。
「勿論お前達を歓迎するためだぞ!」
「でもアナタ、今はお昼の12時ですよ?食べるのはもう少し後にしましょうよ」
「む、それもそうだな。一旦昼食を食べるか」
そう言って彼はケーキを冷蔵庫の中に戻した。
意外と抜けているところがあるのかもしれない。
「昼食を持ってきたからみんなで食べましょう。折角ですしここで食べましょうか」
そう言ってラティはバックからいくつかの包を出した。
部屋に人数分の椅子は無かったためらみんなで仲良く床で食べることになった。
「入学試験は4日後だったよな?それまでこの近くにある宿を取っといたからそこを使ってくれ。この宿には俺のような出稼ぎに来てる奴しかいないから空きはないからな」
ペルダムがおにぎりを頬張りながらそう言った。
「父さんにしては随分用意周到だね」
「早めに来いって言ったのは俺だからな」
そう言って彼は苦笑した。
そう言えば仕事が今日から長期休業とかで休みになったんだっけか。
だから折角だから少し予定を早めて王都に来てくれって言ったわけか。
「昼食を食べ終えたらお前達の宿を案内する。その後は入学試験まで家族みんなで王都を観光しようじゃないか」
「楽しみだなぁ」
アンが笑みを浮かべながらそんなことを言った。
俺としても王都を観光するのはとても楽しみだ。
「じゃ、今日は王都博物館にいくか!」
そんなことをペルダムは言った。




