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5 悲観

 オークルクス家に居候して2ヶ月が経った。

 月日が流れるのは早いものである。すっかりこの村での生活にも慣れていた。


 今日はアマラの収穫日だ。

 俺は身支度をするべくベッドから這いずり出てきた。


 ガチャリ……

 ドアの開く音がした。俺の部屋のドアではない。

 アンが隣の部屋のドアを開けた音だろう。

 …予知発動…5秒後にアンが俺の部屋をバンと開けて驚かそうとしている。

 逆に驚かせてやろうと考えた俺はすぐさまドアの隣に移動した。スタンバーイ


 ◆

「もう!何で驚かせようとしてることが分かったのよ!」


「何となくだ」


 すました顔をしながらアマラを収穫している俺をアンはふくれっ面をしながら睨んでいた。

 俺に予想外の反撃を喰らったことにお怒りのようだ。


 はいはい可愛い可愛いと適当に宥める俺はあの日の出来事を思い出していた。

 あの自分の能力に気づいた夜の日のことだ。


 あの日以来、色々試し、俺は自分の頭に魔力を集める感覚を徐々に身につけていった。意外と難しくはなかった。

 その時に脳裏に映る光景、それは10秒以内の未来の出来事を予知したものであった。


 具体的に説明すると、頭に魔力を集めてから10秒以内の俺に密接に関わる出来事を予知する能力である。


 特異属性の魔法。その現象はそれで間違いなさそうだ。


 10秒以内に自分に密接に関わる出来事がなければ、何も映らなかった。

 ということはだ、俺はアンに深く感謝しなければならない。

 何故なら、あの夜アンが俺の部屋に遊びに来てくれなければ、俺の脳裏に例の光景が映ることなく自分の能力に気づかないままであったからだ。


 で、最近になって脳裏に映る光景が何秒後に起こるかを解することが出来るようになった。

 特に意識はしてないが何故かわかるのだ。自然的に。


 そして今に至るわけである。

 10秒以内の未来を予知する特異属性の魔法を習得した俺は世界を征服する…わけはなくただ平凡に生きていた。


 というかこの能力何に使えば良いんだよ。

 今のところ日常生活で有効に活用できる術は見つかっていない。

 誰か使い道がわかる方が居れば俺にご連絡をください。


 溜息を吐きながら俺は地中からアマラを取り出した。

 このアマラというものは地中に赤い実がなる植物である。

 いかんせんこの実は球状をしているため、地面から生えてる茎を普通に引っ張っても取り出すことは出来ない。

 だから1回茎周りの土をある程度掘ってから取り出さなければならないのである。



「さ、一通り収穫し終わったし、そろそろ帰ろうか」


 アンがそんなことを言ってきた。

 俺は収穫した実を数えてみた。

 23個。まあまあ上出来ではないだろうか。

 見れば他の村人も既に引き上げていた。


 この村では一つの巨大な畑を村人全員で利用している。

 家族毎に収穫する量が決まっており、余った作物は全て村長が売り、得た金を平等に村人全員に配ることになっているらしい。


 俺とアンで収穫した約50個のアマラを木製の荷台に乗せた俺達は家に持って帰ることにした。



「お疲れ様!もう少しで昼ご飯が出来るからちょっと待っててね」


 家に帰った俺達はリビングのテーブルに座った。

 いや疲れた。マジで。

 日本にいる時は学校の体育ぐらいでしか体を動かさなかったからな……

 その割には運動神経はいいと言われていたが。


 台所の方を見るとラティが鼻歌を歌いながら昼食を作っていた。

 いい匂いがする。

 何を作ってくれるのか楽しみにしながら昼食を待つことにした。


 ◆

「あそこなんだな?」


「ああ。場所は分かっているから問題ない。無論コトを起こすのは夜になってからだ。終わったらまたここで待機して、朝出発だ。」


「へっへっへ!楽しみだなぁ!早く夜にならねえかなぁ!!」


「……頼むから変な気は起こさないでくれよ?」


「へっ!分かってらぁンな事」


(……本当に大丈夫だろうか)


 ある二人の男が何かを企てていることは他の誰も知らない。

 しかしその時の彼らにもまた知らないことがあった。


 規格外(バケモノ)がいるということを。


 ◆

 その日の夜、俺は本棚にある小説を読んでいた。

『シェルマーの日記』という本だ。


 この物語の主人公であるシェルマーは、貴族令嬢であるマルシェに片思いをしていた。

 しかし身分の違いというのは残酷なもので、庶民である彼は簡単にはマルシェに会うことが出来なかった。

 ああ、どれだけ悲しいことか!金も力も無かったシェルマーはどうすることも出来ず、マルシェへの想いを抱き続けていた。


 そんな彼に転機が訪れる。

 黒魔術師マーサルがシェルマーを見て手助けしたいと言ってきたのだ。

 マーサルは言った。


「汝に力を授けよう。愛する者に会うための力を」


 しかしこれには条件があった。その代償として、願いがかなった後には命を戴く、と。


「汝は愛する者に会うために命を捨てることが出来るか?無論無理強いはしない。汝が拒否すればこの話はここまでだ」


 シェルマーは他に頼れる者がいなかった。

 そんな彼の選んだ道とは……!


 ワクワクしながら次の頁を捲ろうとした瞬間、ラティがノックせずにいきなり俺の部屋に入ってきた。

 ……こんなに慌てているラティは初めて見る。

 大事なものでも無くしてしまったのだろうか。


「ねえアンを知らない?!こんな夜遅くに出歩くはずがないのに!!」


 おお、大体合ってた。俺の推理力も捨てたもんじゃない。


 ……て、ええ!?アンがいないだと!?

 なんせここは人里離れた村だ。

 村の周りは当然暗く、月明かりに照らされているといっても人1人で出歩けるような時間帯ではない。

 となると他の家にいる可能性が高いのだが……


「靴はあるのよ!それに窓が空いてたの!あの子先天性白皮症(アルビノ)だからもしかしたら……」


 彼女の目には涙が溜まっていた。


 靴がある、窓が空いてる、アンがいない、よりにもよって先天性白皮症(アルビノ)の彼女が。


 俺は全てを悟った上で歯ぎしりをした。

「誘拐」だろう。馬鹿でも分かる。

 この世界の殆どの国が人身売買を禁止しているが、裏の世界では密かに人身売買が行われていると聞いた。

 おそらくそれに精通している輩であろう。

 人口の少ないこの村にいるアンは格好の標的というわけか。


「取り敢えず他の人達にも伝えてくる!トウヤはここで待ってなさい!」


 そう言ってラティは走り去った。

 本の続きを読む気は失せていた。



 その後、村の大人達による捜索が開始された。

 子供たちはそれぞれの家に隠れるように指示され、数人の大人を残して彼らは出発した。

 俺も行こうと思ったが、


「危険だからダメよ!お願いだから此処で待ってて」


 と言われた。

 俺はそれでも参加しようとしたが、止めておいた。

 これ以上彼女を心配させるのは良くないと思ったからだ。


 捜索人数約30人。

 この村の周りには草原が広がっており、さらにその先に地形が形成されている。

 北西には山があり、東には森が広がっている。

 捜索隊は全員北西の山の方に向かっていた。

 山の麓やその周りには木々が生い茂っており、洞窟も多いとのことでそこに行ったのだろう。

 何より東の森と比べて距離が非常に短いことが理由として挙げられる。


 山までは約徒歩10分、それに比べて東の森は徒歩30分か40分かかる。

 犯人が誘拐が早々にバレてしまう可能性を考えているならば、当然身を隠すのは東の森ではなく、北西の山の麓にある森になるだろうとなったのだろう。


 運ぶ途中で見つかる可能性はどちらが高いかを考えれば普通そうなる。


 東の森の可能性も無い訳では無い。

 しかし小人数では危険と考え、そちらに賭けたのであろう。

 それが吉と出るか、凶と出るかは俺には分からない。


 俺は昔の出来事を思い出していていた。



 小学五年生の頃、とても仲の良い春山咲という女の子がいた。

 よく人気のない公園で遊んでいたことを覚えている。


 ある日、いつも通りその公園に集合した時、俺はその日遊ぶ予定だった缶蹴り用の缶を家に忘れてきてしまったことに気がついた。

 家に戻るのは面倒くさかったから、少し離れたところにある自販機まで行って缶ジュースを買いに行く事にした。

 その時に咲を一人にしてしまった事が後に俺を後悔させることも知らずに。


 缶を手に公園まで戻ってきた時、咲がどこにもいない事に気がついた。

 急用を思い出したのだろうか、と考えた俺は残念に思いながら家に帰ることにした。


 その日の夜、母が青い顔をしながら俺の部屋に入ってきた。


「トウヤ、今日咲ちゃんと遊んでたわよね?」


 どうしたのだろう、と思いながら俺は公園での出来事を母に教えた。


「そ、そう。分かったわ」


 と言って戻ってしまった。

 すぐ母のところにいくと誰かと電話していた。

 今思えば、その時の電話相手は咲の親だったのだろう。


 次の日から、咲は学校に来なくなった。

 休むなんて珍しいな、なんて思っていたら先生から衝撃の事実を伝えられた。

 春山さんは転校しました、と。


 俺はただただ驚愕していた。

 咲が俺に何も言わずに転校するなんてありえないと思う気持ちと、その事実に対しての悲しみが交錯していた。


 咲が誘拐された挙句殺されたということを知ったのはそれから一ヶ月後であった。

 学校からの帰り道、オバさん達の会話を偶然耳にした。


「ねえねえ知ってる?行方不明になってたあそこのお宅の娘さんの咲って子が死体で見つかったんだって。何でも誘拐されて強姦されたんだとか」


「いやねぇ。やっぱり世の中変な人がいるものよねぇ。ま、私たちには関係の無いことだけど」


「違いないわね」


 俺は無言で家まで走って帰っていった。

 母さんにその真偽を確かめようと思ったのだ。

 何故そうしようかと思ったかは分からない。

 だが母は本当の事を知っているはずだ、と半ば確信に近い気持ちを抱いていた。



「ねえお母さん、咲は殺されたの?」


「…何をバカなことを言ってるの!咲ちゃんは転校したじゃない!」


 と言っていた母の目からは涙が溢れていた。


 俺は母の反応で全てを察した。

 咲は殺されたのだと。



 俺が中学生になった頃、母は咲のことを話してくれた。


 遊んでいたあの日咲は誘拐され、殺されたこと。

 先生や母の言ってた転校したということはまるっきりの嘘であったということを。



 俺は溜息を吐いた。

 またあの気持ちを味わわないといけないのか、無力で何も出来ない自分をまた責めることになるのか。


 だが今の俺に何が出来るだろう?

 いや何も出来はしないだろう。無力な俺には。


 2ヶ月だ。2ヶ月アンと過ごしてきた。

 至って平和な日常だ。

 どこからともなくモンスターが湧き出てくるわけでもなく、ましてや大事件に見舞われたこともない。

 そんな平穏な日常は楽しかっただろうか。


 楽しかったに決まってる。確認するまでもない。

 絶対にアンを助けたい、助けなければならない。

 そうしなければ俺の日常は日常じゃなくなる。


 そう思い、立ち上がった瞬間何かを感じた。


 未来予知をする時と同じ感覚だ。

 だが俺は未来予知をしようとはしていない。


 だが次の瞬間、ある映像が脳に浮かんだ。

 それも一瞬ではなく数秒も。


 俺の脳裏に映ったのは木々が生い茂る場所だった。

 その木々は全て黒っぽい色をしている。


 ……間違いない、あの木の色は東の森のやつだ。

 そしてそこには焚き火と数人の人影があった。


 ……一体今のは何だ?

 だがいつもの未来予知と同じ感覚がした。

 こんな夜中にあの暗い森で過ごそうなんて者は普通(・・)はいないハズだ。

 もし、今の光景を信じるならば……


 アンは東の森にいる?


 そう考えた時には既に外出の準備を始めていた。


 ◆

「あー疲れたぜ全く!……おいソーキス!身を隠すなら北西の山の麓でも良かったんじゃねえのか?」


「村から近い北西の山は十中八九捜索されるだろう。見つからないとは限らない。」


「全くよぉ… 運ぶの随分辛かったんだぜ?」


「そのくらい我慢してくれコルディス。俺の光の屈折魔法で運ぶ途中で見つかることは万が一にもないし、問題ないだろう?俺としては北西の森に隠れて村人に見つかる方が大変だと思うがな」


「へいへい」


 コルディスは大きな欠伸をしながら横になった。


「で、コイツはいつ売るんだ?」


 ソーキスは焚き火の近くで横になっている少女をみた。

 プラチナブロンドの髪に透き通るような白い肌、顔も整っている少女はさぞ高く売れることだろう。


「明日、ラテスコ町に行き、例のあのデブに売る。というか依頼人(クライアント)もそいつだ」


 デブ、というのは裏の世界で言われているあだ名で、奴隷を多く集めていることで有名な金持ちだ。


「へっ、あのブタ野郎か。人の良さそうな顔してえげつないことをするもんだよ…… アイツどのくらい奴隷所有してたっけ?」


「詳しいことは知らない。だが噂によればもうそろそろ3桁いってもおかしくないそうだ」


「げ、マジかよ…… 人は見かけによらねえな」


 全くその通りだ。

 だがそれほど裏の世界で取引しても国にバレないのは、デブが相当頭が回るキレ者だからなのだろう。


 本当に人は見かけによらないものだ、とソーキスは思った。


 ◆

 実は全く根拠が無いわけでもなかった。

 俺の能力、10秒以内の未来を予知するこの能力は最初にはなかった「何秒後にその事態が発生するか」を解する能力が後に付与された。


 何が言いたいかというと、この能力、特異属性魔法には進化の可能性を秘めているのではないかという事だ。

 あの脳裏に映った光景も進化の片鱗ではないだろうか、と考えたわけである。

 無論確証はない。

 だが少しでも可能性があるなら賭けてみたい、それだけの理由だった。


 着いた。

 東の森、通称暗闇の森。

 全体を厚い林冠で覆われているこの森は夜は月の光を殆ど通さず中は暗くなっている。

 ランタンを持ってきといて正解だった。

 無ければ難儀していただろう。


 さあこれからどうするか。

 この森は相当広いため普通に探しても見つからないだろう。

 この森には俺の目の前にある道を含めて複数の道が通っている。


 俺は脳裏に映ったあの光景を思いだした。

 あの時確認できたのは複数の人物、この森の木、焚き火だ。

 この森は道以外草木が満遍なく生い茂っているため普通は焚き火は出来ない。

 道で焚き火を起こして待機していると思ったがそれもないだろう。

 赤の他人が通るのかもしれないのだ。

 そんなリスキーな行動はしないと思う。


 となると答えは一つ。

 ギャップの所にいるのだろう。

 その場所なら比較的広いスペースを確保できるはずだり

 比較的広いところにいたし、周りが木で囲まれていた気もする。


 まだ焚き火を消していなければいいが、と思いながら道を進み始めた。



 歩いて数分後、意外にも簡単に見つかった。


「……!あそこだな」


 あまり近い所ではなかったためギャップがあるのかどうかは分からなかったが、木々が光に照らされていた。

 何故か確信していた。

 アンはあそこにいると。

 幸運(ラッキー)だな、と思いながら道を外れてそこへ向かった。


 予想通り、光の方に向かっていくと大きめのギャップがあり、そこには……やはり予想通り、アンがいた。

 他にも二人の男がいる。

 アイツらが誘拐犯なのだろう。

 俺はギャップのすぐ近くの木に隠れて様子を伺った。


 焚き火の近くでアンが寝ていた。

 殺されてはいないようだ。

 眠らされたのだろうか、気持ちよさそうに寝ていた。人の気も知らない奴め。


 そして2人の男……大柄な男と髪の長い男が倒木に座りながら話していた。

 幸い彼らは俺に背を向けているので俺は木の影から様子を伺えることが出来た。


 どうやら大柄の方がコルディスといい、もう一方の方はソーキスと言うらしい。

 彼らがこのまま寝てくれればいいが。

 もうすぐしたら出発するかもしれないし、交代で見張りを継続させるかもしれない。

 いずれにせよ不意をついて肉弾戦に持ち込むしかないのだろうかと思った瞬間、転機が訪れた。


「!誰だお前は!」


 いやいやいやいや、何故そうなるし。

 そう、コルディスと呼ばれる男が急に後ろを振り返り、バレてしまったのだ。

 俺は懐からナイフを取り出しながら飛び出した。


「そいつを返してもらおうか」


 この時既に未来予知を開始していた。


「へっ!ナイフ1本で勝てると思ってんのか?舐めんじゃねえよ!」


 そう言ったコルディスはその大柄な体に似合わない速さで俺との距離を一気に詰め、剣を横に振るった。

 俺は間一髪で体を低くして避けた。


 ……速い!

 予知が無ければ一瞬で殺られていただろう。


「ほう、ガキの割には中々いい動きをするじゃねえか!楽しくなってきたなこりゃあ!」


「無駄口を叩いてないでさっさとやれ」


 そう言ったソーキスの手が光ったかと思うと、次の瞬間白い雷撃が飛んできた。

 これも予知していた俺は難なく避け、体勢を元に戻した。


「「!?」」


 ……まあ驚くのも無理はないだろう。

 今のを見てから避けられるやつは多くないだろう。

 いくらこの世界の住人の身体能力が高かったとしても、だ。

 実はこの世界の住人の身体能力は地球人よりもかなり高かったりする。


「……今の魔法を躱すとは……お前は一体何者だ?」


「ただの平凡な村人ですよ」


「ハッ!パチこいてんじゃねえよ!」


 そう言いながらコルディスは再度俺との距離を詰め、剣で突いてきた。

 先程よりも速いが未来予知をした俺に当たるはずもなく。

 俺は突きをギリギリで避けながら彼の手首辺りををナイフで切った。


「ギャア!クソ!」


 無論切断とまではいかなかったが、それなりに傷を負わすことができたようだ。


「このガキィ……!」


「止めろ!ここは引くぞ」


 ソーキスが攻撃しようとしていたコルディスを手で制した。


「な、何故だ!」


「危険だからに決まっている。俺の魔法も避けられる、お前の攻撃も掠りもしない、挙句の果てに反撃まで喰らった。アイツが戦い慣れしているのか何かカラクリがあるのかは知らんが、アイツは俺たちよりも強い。このままやり合うのは危険すぎる」


「……チッ!」


 コルディスも渋々ながら彼の言葉に頷いた。


「という事だ少年よ。そのアルビノ娘を持って帰るがいい」


 俺はコルディスの手を見た。

 彼は自分の手で未だ出血している手首を抑えていた。


「……そのケガ、どうすんだ?」


「……?お前には関係の無いことだろう」


 俺は溜息を吐きながら彼にあるものを投げた。

 彼は少し驚いたような顔をしながらもそれを受け取った。


「包帯だ。それを使って止血しろ」


 コルディスとソーキスは目を丸くして俺のことを見た。

 状況を把握していないようだ。

 だが次の瞬間コルディスが笑いながら言った。


「ハッハッハ!変なガキがいたもんだ!敵に優しくするやつなんて初めて見たぞ!」


「変なガキとは失礼な」


「心遣い感謝するぞ少年よ。貴様は将来良い大人になれるぞ」


 誘拐犯に言われてもねぇ。


 ◆

「お前らは何故アンを誘拐した?」


 まあ理由は知っていたが一応聞いておくことにした。

 ソーキスとコルディスは互いに顔を見合わせたあと、いいだろうと頷いた。


依頼人(クライアント)に頼まれてね。先天性白皮症(アルビノ)の人間が欲しいのだと。それも若い人間のな」


「へぇ、依頼人なんているのか。ただ適当に拉致って適当に売り飛ばすのかと思っていたが」


「それはないな。もし適当に拉致ったとしても買い手がいなければ意味がない。例え先天性白皮症のような希少で買い手が多い人間でも一回依頼人を通した方が前金の分があるから儲かる」


「お前らが精通している裏の世界では奴隷の売買は珍しくないのか?」


「珍しくはないな。だが無論国にバレないようにしなければならないから危険な事でもある」


「それでもお前らがこういう仕事をするのは何故?」


「1つは儲かるから。金持ちの依頼人が奴隷を高額で買い取ってくれるからな。2つ目は快感(スリル)だ。これは説明の仕様がないな」


 完全に2つ目の理由が元の世界(こっち)の万引きのそれだが、それはさておき。


「お前らは腕が立つだろう。他に仕事はしてないのか?」


「ああ、してるさ。国公認の迷宮(ダンジョン)調査をな。人身売買は副業みたいなもんだ」


 いや副業なんかい。

 まあそれはいい。


「最後に1つ。お前らの依頼人は誰だ」


 ソーキスは薄気味悪く笑いながら言った。


「残念ながら、依頼人の名を出すのは禁止されているんだ。前金をもらっている以上、これは教えることが出来ない」


 ま、そうだわな。


「ソーキス、腕の応急処置は終わったぞ。これからどうするんだ」


「ここで寝てから明日の朝出発しよう。任務の失敗を伝えなければならない」


「任務失敗か……ま、たまにはいいか!おいガキ、名前はなんだ」


「……トウヤだ」


「そうかトウヤというのか。ならトウヤ、お前にはいつか包帯の借り を返してやる。それまでに俺のことを忘れんじゃねえぞ!」


「そりゃどうも」


 まあ、多分これから会うことはないだろう。

 俺はアンを背中に背負い、村に帰ることにした。


 森に入る前、後ろを振り向いたらソーキスとコルディスが俺に手を振っていた。

 意外とフレンドリーな奴らなのかもしれない。

 俺も彼らに手を振り返し、森の道へ戻ってきた。


 森を出る際、もう1度振り返った。

 勿論彼らの姿は見えない。

 アンを誘拐した奴らなのに、何故か別れるのが惜しい気がした。


 そんな俺の変な気持ちを自分で苦笑しながら、村へ向かって歩き出した。



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