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3 闇雲

ここからはしばらく新たな家族との物語になります。

 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた気がする。

 母が俺を起こしに来たのだろうか。

 まだ眠いからあと少しだけ寝させてくれ……


 ……いや待てそんなのんびり寝ている場合ではない。

 目を開けた時には昨日(?)の出来事を全て思い出していた。


「大丈夫?」


 ……誰だろうこの人は。

 歳17~18位であろうか、美しいプラチナブロンドの髪をしたその女性は、身に付けているつばの広い帽子を押さえながら俺の顔を覗き込んでいた。


 俺は出会ったこともないこの人を見たことがあると直感的に感じていた。それも最近に。

 いや違う、正確にはどこかで出会った様な気がしたのだ。


 ...まあただの既視感(デジャブ)だろう。

 俺の知り合いに白髪碧眼の人はいないし、そういう人を見たことがあるのは2次元の世界だけだ。


「中々起きなかったから心配したのよ?」


 彼女は柔らかく微笑みながらそんなことを言った。


 

俺は今の状況を確認してみた。

 辺りを見回してみると、そこには大草原が広がっていた。

 少し遠くに村らしきものも見える。

 当然俺はこの地を知らない。

 どうやらあの時の出来事は夢ではなかったようだ。


 ……本当に異世界に来てしまったんだなと感慨に耽っていると、その女性が声をかけてきた。


「私はアン・オークルクス。ここで花を採取してる時に寝ている貴方を見つけたのだけれど、一体何があったの?」


 オークルクス?随分憶えにくい名前が飛んできたもんだ。

 というか俺の隣に座って呑気にフルネームで自己紹介している辺り俺に対しての敵対心はほぼゼロであるようだ。

 それほど平和な世界なのか、それとも彼女がゲームでありがちな純粋無垢な少女であるのか、はたまた彼女が単なる馬鹿であるのかを確認する術は無かった。


 しかしまあその質問はもっともだろう。

 もう一つの世界(あちら)の学生服を着た人間が手ぶらで何も無いところに横たわっていたのだから。


 さて、どう返すべきか。

 異世界(あちら)から転移してきたんだから当然この世界については何も知らない。

 まさか異世界からやってきましたなんていうことの出来ない俺は、適当な話をでっち上げることにした。



「そっか、そんな事があったんだね....でも良かったね!名前は覚えてて」


 取り敢えず無難なのは記憶喪失を装う事だろうと思い、アンにはそう伝えておいた。

 因みに自分は今、今までの出来事やこの世界の常識を部分的に忘れてしまってはいるが、名前とかそこら辺の非常にどうでもいい事をことはちゃっかり記憶している哀れな記憶喪失者、という設定になっている。

 いくら記憶喪失になっても流石に常識までは忘れないだろ……と思われそうだったが幸いにもアンからはなんの疑問もなく俺の話に頷いていた。


 というか話を聞き終わったアンの俺に向ける視線には若干の同情の色が含まれているが正直やめて欲しい。色んな意味で心が痛むので。


「そういう事だから今俺には行くアテも無ければ帰る場所もない。もし良ければ、あそこの君が住んでいるあの村を案内してもらえるかな。」


 案内、と言っても目と鼻の先にあるのだからそこに行くだけなら別に独りでも問題ないのだが、生憎この世界に疎い俺が1人で出来ることなんてたかが知れている。


 まずは情報収集だ、そのためには哀れな子羊(オレ)に対して常識を教えてくれる案内者(パートナー)をもつのが1番確実なのだが。

 彼女がその案内者(パートナー)になるかどうかは別として、あの村のことも知れば自ずとこの世界についての理解も少し進むだろう。


 とまあこんな風に考えた上での発言であった。

 他に行くアテのない俺としては最低限の情報収集はしたかった。


「いいよ!貴方もこれから色々大変そうだし、この世界についてのことも教えてあげる。...えっと、その... 代わりというのもなんだけど、教える代わりに私と...友達になってくれないかな?」


 おっとこれは意外だ。

 どうやら俺の身を案じて村の案内だけでなくこの世界の情報も教えてくれるらしい。

 しかし友達になってくれというのはどういう事なのだろうか。

 初対面の人に対していきなり友達になれと言えるその感覚が羨ましくありつつもその彼女の言葉にもう少し耳を傾けることにした。


「あ、えっとね、私が住んでる村ってとても小さくて50人程度しか村人がいないの。それで運の悪いことに私と同年代の人が誰もいなくて、貴方のような歳の近い人と話すことは滅多にないの。だから....」


「君は今いくつ?俺はいま16だが」


「本当!?私は今17だから殆ど変わらないね!」


 ……可愛い。

 答える時に見せたその笑顔はなんて愛らしいのだろうと思った。

 と同時に俺は心の中でなんて不運なのだろうと苦笑していた。

 俺も人のことを言えた立場ではないが。


 なるほど、彼女の言いたいことは大体分かった。

 それにしても中々おいしい話だ。

 俺はこの世界についての情報をこの世界の住人(アン)から聞くことが出来るし、友達もできる。

 交友関係は持っていて損は無いだろう。

 行く行くは信頼に足る親友になれるかもしれない。

 この話に乗らない手はなかった。


「分かった。じゃあ、これから宜しくな!アン」


 友達になってくれたのが嬉しかったのか、彼女は年相応の満面の笑みを浮かべた。




「じゃあ、そろそろ行こっか」


 黄色い花で一杯になった木製の籠をヒョイと拾い上げながらアンは言った。


「ああ、そうだな」


 俺はそう返事をし、額に付着している汗を服の袖で拭きながら立ち上がった。


 そう、俺は彼女の当初の目的であった花の採取を手伝っていたのだった。

 採取した花はドルセという黄色い花で、加工することによって甘いソースになるという。飲んでみたい。


「わざわざ手伝ってくれてありがとね」


「いいよこのくらい、友達なんだからさ」


 そんな臭いセリフを吐きながら何となくアンの方を見た。


 つばの広い帽子に白いワンピースを着ている彼女は髪だけでなく肌も透き通るくらい白い。

 先天性白皮症(アルビノ)なのか、それともそういう人種なのかは今の俺には判断しかねたが、もし前者なら日に当たる場所でワンピースを着ているのは良くないのではないだろうか。

 後で彼女に確認しておこう。

 

 暫くしてから(約5分)村に到着した。

 パッと見る限り、ログハウスに似た家が十数軒建っている。どの家も作りは同じらしい。


 外にいる数人の村人は皆幸せそうな顔をしていた。

 そんな人々が俺を見た瞬間口をあんぐりと開けるのも仕方の無いこと.....だな。


 異様なものをみるような視線を浴び続けながらも、アンの家に到着した。

 特に家は他のそれとは変わらず、こじんまりとしたいい家だったが家の傍にある小さな花壇には見たこともない植物が並んでいた。

 この花は何というのだろう。

 花壇にあったその花は俺の知的好奇心をくすぐらせるのに十分な異様さを有していた。



 特にやることも無く花を観察すること約3分、既に家に入っていたアンがドアを開け、外にいる俺に手招きをした。

 入ってこいの合図だろう、どうやら家の者との話がついたらしい。

 そう、俺はこの家の家主ことアンの両親にある話をするためにアンの家に上がらせてもらうのだ。

 しかし、両親がよそ者を良く思わない人間であることも十分に考えられる。

 リスクは付きまとう。だがやるしかない。


 低いリスク(ローリスク)では何も得られない(ノーリターン)のだから。


「ようこそ!アンのお友達さん。……どうしたの?そんな所に突っ立ってないで早く上がってきなさいよ」


 ……杞憂だったか?いや違うだろう、まだ警戒しているはずだ。

 アンの母であろうか、活気溢れる彼女は表面上では思いの外すんなりと俺を受け入れてくれた。

 どうやら話は聞いてくれるらしい。


「粗茶ですが」


「あ、どうも」


 テーブルに誘導された俺はアンの母らしき人からお茶を頂いていた。

 ていうかこの世界にも茶はあるのか。

 ……毒なんて入ってないだろうな?


「さて、アンから少し話を聞いたけど... 貴方が何者なのかを教えて頂戴。」


 口調こそ優しかったが、目は少し鋭く自分のことを見ているように思えた。

 まあ当たり前か、アンには悪いがいきなりひょっこりと現れたよそ者を簡単に信じる方が馬鹿げている。


 俺はこの世界で目を覚ましたところからここに辿り着くまでの経緯を彼女に話した(本当の事を話すとは言ってない)。



「なるほどねぇ。見かけない服装に黒目黒髪のあなたは一体どこの国の者で何故こんな村に来たのかと思ったら、そんな事があったのね……」


 そんな事とはおそらく記憶喪失の事だろう。聞いた時には彼女は驚いてはいたが初めてそれを聞いた、というわけではなさそうだった。


 もし記憶喪失という病気が一般的に知られていなければ疑われる可能性もある、そう思っていたのだが杞憂に過ぎなかったようだ。


「自己紹介が遅れたわね。私の名前はラティ·オークルクス、見てわかると思うけどアンの母親よ」


 茶髪で茶色い目をしたラティという女性、もといアンの母親である彼女は困ったような目でアンの方を見ながら、


「アンが貴方の事を手助けすることになったらしいけど……」


 と言いかけたが、俺はそれを手で制した。

 何を聞かれるかくらい見当はついていたのだから。


「えぇ、記憶喪失になってしまった俺にアンが手助けしてくれるということになりました」


 と、確認するかのようにそれを言った後、


「それとは別に貴方に頼み事があるのです… 俺をこの家においてくれないでしょうか。倉庫でもどこでも構いませんので」


 要約するとこの家にしばらく居候させろということである。

 そのためにこの家に上がらせてもらい、アンの家族、正確には家の家主と話すことにしたのだ。


 金も金品もない、帰る場所も行くアテもこの世界の知識も何も無い俺には、最低限この世界の知識を頭に叩き込む時間が必要だった。

 そうすれば職を探すこともでき、この世界でも問題なく食っていけると考えていたからだ。

 まあ簡単にまとめると、この世界の知識を学び、職が見つかるまで居候させてほしいということだ。

 その旨をラティに説明しようとしたところ、今度は彼女が手で制してきた。


「貴方の今の状況はよく分かってるわ。ここで私が貴方の頼みをはねのけたら貴方がどうなるかくらいはね」


 ラティさんそんなたいしたことにはなりませんよ。

 と思いつつ喉が勝手に唾を飲み込むのがわかった。

 彼女はこう言い切った。


「好きなだけここに居ていいわよ!アンの友達だものね。それに2人目の子供も欲しかったのよね!」


 意外とアッサリ承諾してくれたことにホッと胸を撫で下ろした。

 まあアンに手助けしてもらうという話が決まっている以上、簡単には俺の頼みをはねのけることは出来ないことを見越しての頼みだった。

 だがそれを考慮してもラティの親切な心が無ければ居候することも叶わなかっただろう。

 どうやら疑いすぎていたようだ。

 なれない環境に置かれたせいで神経質になっていたのかもしれない。

 ラティとアンには感謝しなければ。


「さて!そうと決まればご近所さんに知らせなきゃね。アンはトウヤを部屋に案内しなさい。そうね、今は使われてない父さんの部屋を使いなさいな」


 そう言って外に出ていった

 非常に有難い、まさか部屋まで貸してもらえるとは。

 そう言えばその父とやらはどこにいるのだろう。


「なあ、アンの父さんはどこにいるんだ?」


「父さんはいま王都の方に出稼ぎにいってるの。ここの村から出稼ぎにいく男の人も少なくないからね。」


 懐かしいなぁ……と彼女は呟いた。

 どうやら出稼ぎに行ったのは1年前だそうで、あと1年ほどで帰ってくるという。


「さ、ここがトウヤの部屋よ。ちょっと狭いけど我慢してね?」


 ドアを開けてみるとそこには小さなベッド、机、椅子があった。

 そしてこの部屋で一番目を引くもの...それは部屋の右側に置かれた非常に大きい本棚とそれを埋め尽くす大量の本だった。


「父さんは本がとっても好きでね、出稼ぎから帰る度に多くの本を買ってきてたの。私が幼い頃よく読み聞かせてもらったのを覚えてる。内容は全く覚えてないけどね」


 俺はアンの言葉に苦笑しながらも改めて本棚を見た。


「すごいな……」


 その書籍の量の多さはいかに父が無類の本好きであるかを物語っていた。

 これなら退屈することもないだろう。


 ……1つ疑問に思った。

 出稼ぎについてだ。

 この村からはアンの父をはじめ少なくない男性が王都とやらに出稼ぎに行ってる。

 しかしここは村、しかもたった50人程度しか住んでいないのだ。

 見たところ店なんてなかったし、通貨なんて何の役にも立たないだろう。


 もしかして一々最寄りの都市まで行って買い物をするのだろうか。

 でもそれなら自給自足でもすればいいのではないだろうか。畑みたいなのあったし。

 現に約50の人が人里離れたこの村で生きているのだ。

 何かしらカラクリがあるはずだが、そのカラクリとならが自給自足であるとしか考えられない。


 それとも王都で働いて得られる金はそれほどに大きいのか…

 考えてもわからないと判断した俺はアンに聞こうとした。

 ドアがノックされたのはその瞬間だった。


「……?」


 誰だろう。

 ラティが帰ってきたのかと思ったが、自分の家にノックして入る人などいないだろう。


「あ、そう言えば今日だったかな」


 そう呟いたあと、アンは足早に玄関の方に向かった。

 アンは誰が来たのか分かっているようだ。

 ……なんとなくアンに付いていくことにした。



「はーい王都宅配サービスのご利用ありがとうございマース!」


 トンガリ帽子を目深に被り、黒いマントを身に付け、いかにも魔術師のような格好をした兄さんは見た目のキャラに似合わないチャラい声でドアを開けるなりこう言ってきた。


「今回は食品の買取ですね?こちらがご予約されていた食品になりまーす」


「いつもありがとうございます」


 そういうと、アンは幾ばくかの硬貨を渡し、食品を受け取った。


「またのご利用お待ちしておりマース」


 そう言った次の瞬間彼は消えた。

 冗談や比喩などではない。

 本当にパッと消えたのだ。


 この時俺はすっかり忘れていた。

 この世界には地球の物理法則を大体無視した力、魔法が存在するのだと。



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