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2 異常

「キミ大丈夫?」


歳は俺と同じ位だろうか、青い目をした少女がその真っ白な髪を垂らしながら俺の顔を覗き込んでいた。


 はい大丈夫ですと言いたいところだがまず状況把握をさせてくれ。

 

 暫くして自分が仰向けで外に寝転がっていることに気がついた。

 背中に草の感触がある。


「呼びかけても中々起きなかったから心配したのよ?」


 その美しい少女は柔らかく微笑みながらそんな事を言った。



 朝6時30分。

 スマホのアラーム音と共に意識が覚醒していく。

 久々に気持ちのいい朝だ、何か良い夢を見ていた気がしたが全く思い出せない。


実は人間はある程度の睡眠をとる時、必ず夢を見るのだという。

しかし起きてしまった時には大体見た夢を忘れてしまうらしい。

だから自分が夢を見ていないと思っても、それは見なかったのでなく忘れているだけなのだ。

他愛もない話ではあるが、幼い頃この話を聞いた時には非常に驚いたものだ。


 話は変わるが、今日は学校で全国模試がある。

 まあ昨日学校に帰ってからロクに勉強もせず、自堕落な時間を過ごしていた俺は今日配布されるテスト用紙をものの十数分で裏返し、机に突っ伏して寝るだろう。

俺は諦めのいい人種なのだ。

鹿が天敵である狼を見た時に本能的に逃げるのと同じ原理で、どうしようもない(テスト)には白旗を上げて降参する。

なんて賢いことだろうな。ホント。


溜息をつきながらベッドを後にした俺はそのまま朝食を食べ、手際よく準備をした後これ以上暗澹たる気持ちが倍増しないように心掛けようと考えつつ家を出た。



「ねえねえ、今朝のニュース見た?ここ数日間で全国各地で謎の失踪事件が相次いでいるんだってさ」

「えぇ~、何ソレ怖い」


 教室に入った途端俺にそんな会話が耳に入ってきた。

 なるほど道理で教室がいつもより少し騒がしくなってる訳だ。

 いつもより少し遅く登校した俺は教室内の喧騒を耳にしながら俺が席に座ると、1人の人物が近寄ってきた。


「よお冬弥。今朝のニュース見たか?珍しいこともあるもんだな」


 そう俺に話しかけてきた奴はすぐ隣の机の上に腰掛けた。

 コイツは赤木想太。俺の昔からの幼馴染であり、明るい性格故にクラスの人気者となっている。

あなた方にとっては自分の乗らない電車の遅延情報並にどうでもいい情報なのですぐ忘れてしまって構わない。

 俺は汚れがかった眼鏡を布で拭きながら答えた。


「いや、見てないな。だがクラスでもその話題で持ちきりになってるくらいだからどういう内容かは嫌でも聞かされたよ。物騒なもんだな」


 俺はまるで他人事のように答えた。

 いや実際他人事なのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

 俺はあまりこういう事件には興味はない。というか興味を持てないのだ。

 失踪と聞くとどうしても昔の事を思い出してしまう。


 聞くところによるとここ数日間で何人かの人々が急に行方不明になり始めたそうだ。

 ただでさえニュースで取り上げられる程の行方不明事件はそんなに頻繁には起こらないのに、今回のはそれに加えて全国各地もきている。

 どのテレビ局でもそのニュースを報道しているのだろう。報道局も大変だな。


 そんな俺の反応に赤木は苦笑した。彼は俺の過去なんての知らないのだからそのような反応も自然と言えよう。

 話題を変えるためか、はたまた急に思い出したのか彼は俺に思い出したように問いかけた。


「それはそうと、明後日は冬弥の誕生日だろ?友達呼んでお前ん家で誕生日パーティーでもしようぜ!テストの打ち上げも兼ねてな」


「....ああ、そうだな」


 そう、明後日9月10日は俺の17歳の誕生日だ。

 こいつに言われるまで忘れていたということは黙っておく。

 しかし感慨深いな、もうそんな歳になるのか。

 そんな俺の気持ちも束の間、一時限目の授業、もとい数学のテストの始まりを告げるチャイムが鳴った。


「オラオラ数学のテストを始めるぞさっさと席につけぇ!」


 おぉ怖。


 ◆

学校からの帰り道、俺は考え事をしていた。

 高校生2年生なら誰もが不安に思うであろう、将来についてだ。

 早いこと進路は決めなければならないのだが、今目標にしている事が何もない故思い悩んでいた。

 オープンキャンパスにもっと積極的に行くべきか、そうすれば何かやりたいことが見つかるかもしれない。


 そんな考えごとをしていたら、電信柱に何かが寄り掛かっているのが見えた。


「??」


 なんとなーく不気味な雰囲気を醸し出しているその物体はこれまたなんとなーくそこに突っ立っているように見えた。


 動く気配もないし、袋か何かが引っかかっているのだろうかと思ったが、その考えは次の瞬間否定された。

 

『何故かって?その異様な黒いものは近づいてきたのだよワトソン君』

 

って、何勝手に俺の脳内は俺の監視外で変なナレーターを付けてるんだよ!シャレになってないから!

 今俺がいる道は人通りがとても少なく、今は他に誰もいなかった。

 恐怖で動けなかった俺はなす術なく接近を許し、次の瞬間意識を失った。




(ここはどこなんだろうな)


 最初に頭に浮かんできたのはこの言葉だった。

 自分は今、扉のない真っ白な部屋にいた。

 あるのは椅子と小さな机だけ。

 もしかしたらここが天国なのかもしれない。


 俺はさっきまでの出来事を思い出していた。

 あの黒いモノは件の失踪事件に関わっているのだろうか、自分は死んでしまったのだろうか...ずっとこのままなのだろうか....

 自分でも思考がマイナスの方向に傾いていってるのが分かったが、俺にはどうすることもできなかった。



 暫くして声が聞こえた。

 誰の声だろう?姿は見えないのだが。


「もしもし、聞こえますか?」


 気怠げな女性の声が聞こえた。

 というか、直接脳に響いてきた感じであった。

 おそらく別のところにいるのだろう。

 山ほど聞きたいことはあったが、何故か自分の生死を確かめなければならないような気がした。


「俺は....」


「大丈夫、貴方は生きています。しかしこれは我々の不手際です。今から事の事情の全てを説明しますね」


 そして俺は彼女から全てを聞いた。


 自分が住んでた世界とは別にもう1つの世界があり、その世界からモンスターが何らかの方法でこちらの世界に来てしまったこと、そしてそのモンスターが何人かの人間を襲っていたということを。

 自分の不運さを呪いたくなるような話だった。


「貴方の魂は肉体ごとそのモンスターにもう1つの世界へ運ばれようとしていました。しかしその世界に入る寸前に我々天界の者が貴方を救出し、事なきことを得たのです」


 とまあそんな突拍子もない話を聞いたわけだが。

 不幸中の幸いといったところか。

 しかし、今彼女は天界と言ったか。

 どうやら彼女の話を聞く限り2つの世界を管理している天界と言うのが存在するらしい。


 もし助けられていなかったらどうなっていたかは気になったが、怖くて聞くことが出来なかった。


「今回の件は天界にいる我々の責任でもあります。なので貴方には特別に2つの選択肢を与えます。1つは、通常通り貴方が元いた世界で新しく生まれ変わるか、もしくは」


「もう一方の世界に肉体と記憶をそのままに転生するか、です」


 俺は唾をゴクリと飲み込んだ。


 聞くところによると、どうやら天界の諸事情によりそのまま元いた世界に戻ることはできないという。


 少しガッカリきてしまった。

 最初はもう元の世界には帰れないと思っていたが、生きていると聞いたとき少し望みをもったのだ。

 あぁ、人生山あり谷あり、か。辛いことばかりだ。

 しかし今回のは酷すぎませんかね神様。

 貴方の恨みを買った覚えはありませんよ。


 まあそんなことを考えても仕方ない、と考えた俺は彼女の言うもう一方の世界について考えることにした。もう一方の世界には地球と同じく人間が住んでいるという。しかしその世界には物理法則を大体無視した地球にはない力、言わば魔法というものが存在するらしい。

 それで文明を築いている所も少なくないという。


 まるでゲームのようなファンタジー世界ということか。

 知的好奇心旺盛な俺にとってはとても興味深いものであり、是非行きたいという気持ちが強かった。

 この知的好奇心を勉強に向けることが出来ていたらどれほど今まで悲しまずに済んだことか。


 考えは既にまとまっていた。


「....分かりました。では少し待っていて下さい」


 確認の言葉は無かった。

 おそらく俺がどちらを選択するかは見当がついていたのだろう。


 推定天界の者である彼女には他にも聞きたいことがあったが、止めておいた。

 これから地上に降りる人間に対してこれ以上安易に天界の情報を与えることはないと思ったからだ。


 彼女は暫くしてからこう言った。


「哀れな子羊よ、貴方は不運にも地球での生活を失ってしまいました。ですから、是非新しい世界での生活を楽しんで下さい。新しい世界では、幸せだけでなく、苦難や困難も貴方を待ち受けていることでしょう。しかしどんな時でも諦めずに生き抜いて下さい。貴方に神の祝福があらんことを!」


 哀れな子羊、ね。まさに俺にピッタリの言葉だ。

 なんだか安っぽいような激励を受けた俺は、苦笑しながら椅子に座った。

 自分の意識が朦朧になって来るのが分かったからだ。

 結局彼女は何者だったのだろう。

 分かっているのは天界の者であるということだけだ。

 ないとは思うが、また話す機会があったらお礼を言っておこう。


 そして俺は新しい世界への大きな期待と少しの不安を抱きながら、意識を手放した。






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