魔王討伐隊選抜大会!
「う、ぐ。はぁはぁ...」
如月はとてつもない息苦しさと共に目を覚ました。
如月は何事かと思い、頭を下に向ける。
そこには、気持ちよさそうに寝ているセルフィがいた。
「...おい、セルフィ。起きろ」
「ん〜あと五時間〜」
「ダメに決まってんだろ!つか早く起きろ!」
「むにゅ〜...あ、おはよー錬」
「おはよーじゃねぇ!何で俺の部屋に居んだよ!」
「だって〜なんか眠れなくて〜」
「あのなぁ...はぁ、まぁいい。寝ぼけてんのに何言ってもダメか。ほら、顔洗ってこい」
「は〜い」
ここ最近、いつもこの具合である。
見ての通り二人は一緒に暮らしている。
と言っても結婚したわけではない。
この世界では二十歳になるとクエストを受けられるのだ。
クエストなら稼ぎも難易度も自由に決められるため、今よりも修行しやすいと判断した如月は、王都に引っ越すことにしたのだ。
しかし、ここで誤算が出た。
セルフィが「私もついていく」の一点張りで、仕方なくセルフィを連れてきてしまったのだ。
そのせいで生活費は倍、毎晩自分の部屋に忍び込む。
メリットと言えば、家事が楽になったぐらいだ。
「ほら、セルフィも早く準備しろ。出かけるぞ」
「え〜めんどくさい〜」
「村に帰ってもいいんだぞ?」
「何言ってんの?そっちこそ早く用意しなよ」
気がつくと、セルフィは既に用意を終わらせていた。
「お前...単純だな、本当に」
「それは褒めてるの?貶してるの?返答次第ではタダじゃ済まさないわよ?」
「どっちもだ、どっちも」
その後、如月がグーパンをくらったのは言うまでもない。
「お〜痛ぇ。セルフィ、お前もうちょっとさ、加減というものをだな」
「おちょくった錬が悪い」
「ま、いっか」
「それで、今日のスケジュールは?」
「ダイヤ」
「りょーかい」
この世界のクエストは難易度を四段階に分けており、下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナである。
例えば、プラチナと言うのは、レベル500を越えた実力者しか受けられない超高難易度のクエストだ。
内容例としては、モンスターの一団を一掃しろ、とかである。
逆にブロンズはレベル100以下のモンスターを倒せと言ったものだ。
しかし、二人にとってプラチナなど最早超高難易度などではなく、お金が沢山貰えるクエストという認識をしている。
そこで二人がやっているのは、クエストを作っているギルドの上層部に認められた一握りの戦士のみが受けられる、ダイヤという難易度だ。
その内容はプラチナの比ではなく、街一つを守れ、や要人の暗殺と言った国からの要望まで扱っている。
ダイヤを受けられる権利を与えるに対して、上層部が見るのは、実力だけではない。
覚悟。
命をかけるという覚悟だけではなく、同族を手にかけるという覚悟。
さっき述べたように、ダイヤには暗殺という仕事も存在する。
人間を殺せるか、という覚悟を何らかの形で示さなければ、基本ダイヤを受ける。
と言っても、如月とセルフィはそんな覚悟など示していない。
ただ単に他の奴らより圧倒的に強いからダイヤを受けられるようになったのだ。
「ん〜?何だあの人だかりは」
見るとギルドの前に大勢の人だかりが出来ていた。
如月とセルフィが人混みを掻き分け掻き分け見つけたのは、一枚の張り紙だった。
それにはこう書かれていた。
「魔王討伐隊選抜大会?」
その張り紙を見て二人が思ったことは、
「「名前ダッサ!」」
である。
ちなみに、張り紙の内容はこうだ。
最近、モンスターによる被害が日に日に多くなっている。
なので、その元締めであろう魔王を倒す四人の戦士を選抜する大会を開催することにした。
形式はバトルロイヤルで、最後に残った四人が魔王討伐のパーティーとなる。
「ま、俺たちにゃ関係無いな」
「え、うん。でも凄いね。優勝したら1億ベイルだって」
「予定変更。エントリーするぞ」
「手のひら返し早くない!?」
「いやいや!お前1億ベイルだぞ!?やらんでどーする!」
ちなみに、1ベイルは1円と同じ価値だ。
そして、如月達にとって1億ベイルは、月収の約百倍である。
「俺たちなら絶対優勝出来る!」
「でも、魔王討伐しなきゃなんでしょ?私は全然いいけど、錬はそれでいいの?」
「...」
「錬?」
「やっぱりやめようか」
「えええ!?やめるの!?」
「だって〜ここ見ろよここ。『元締めであろう』だろ?信憑性がさ...」
「うむむ...あ、でも見てよ。優勝したら槍も貰えるらしいよ」
「槍?」
「うん。ほら、あそこに展示されてるよ」
セルフィが指差した方を見ると、確かにガラスの中に何の変哲も無い西洋風の槍が入っていた。
如月はそれを見た途端何かに気づいたのか、その槍をジロジロと観察し始めた。
「ど、どうしたの?」
「出ようか、大会」
「ほら〜やっぱり1億ベイルが欲しいんだ〜」
「いや、違う。俺の目当てはこの槍だ」
「なんで?こんなの何処でも手に入りそうだけど...」
「まぁ、いい。取り敢えずエントリーの手続きをしよう」
ということで、二人は急遽予定を変更し、大会に出ることになった。
〜大会会場〜
「結構いるな〜」
「な、何か緊張する...」
「何でだ?別に俺は感じないが」
「だ、だってこんな大勢に見られてるんだよ!?」
会場はコロッセオの様な形で沢山の観客がいた。
「かっこ悪い戦い出来ないよ...」
「気にすんなって。セルフィにはセルフィの戦い方がある。他人がそれを笑う権利はねーよ」
「うん、ありがと、錬」
「どうやらそろそろ始まるらしいな。気を引き締めていくぞ」
「うん!」
数分後、アナウンサーの声が会場に鳴り響いた。
「近年モンスターの攻撃は刻一刻と激しくなる。
そして、我が国の王はとうとう決意した!魔王を倒す!その偉業を成し遂げるのは誰だ!?魔王討伐隊選抜大会開幕だ!」
アナウンサーの声に反応して会場にいる全員が怒号を上げる。
「ルールは簡単!スタジアムの周辺を見ろ!」
すると、地響きと共にスタジアムの周辺十メートルが落ちた。
「この窪みに敵を落とせ!形式はバトルロイヤル!殺したらアウト!武器はこちらが支給した木製の物を使ってくれ!優勝者には1億ベイルを貰え、さらにパーティーのリーダーだ!それでは、開始だー!」
その声を合図に、出場者は一斉にお互いを攻撃しだした。
「錬!私たちも頑張...ろ?」
見ると如月は満面の笑みを浮かべていた。
「セルフィ...頑張れ♪」
「え?」
錬はブーストを使い、選手達の中に消えていった。
「あの顔は何か企んでる時の顔...絶対何か考えてるな...」
セルフィの大きなため息がスタジアムに響く。
一方その頃、如月はスタジアムの真ん中にいた。
「こんな大勢と戦うなんてめんどくせぇ。一気に削らせてもらう!」
如月は支給された木の棒を頭上で回す。
すると、如月の心臓辺りから赤い魔力が吹き出る。
それが木の棒を包む。
「はぁっ!」
如月は白い魔力に包まれた棒を地面に当てた。
すると木の棒を中心に衝撃波が発生した。
出場者はいきなり発生した衝撃波に対応出来ず、次から次へとスタジアムの窪みに飛ばされていった。
「さぁて、何人残ったかな?」
砂埃が晴れて、スタジアムに立っていたのは...
「俺含む四人か」
「いや、五人でござる」
「!!!」
いつの間に来たのか、如月の背後にも一人の男が立っていた。
「何と!開始五分にして残り五人!何という展開だー!」
スタジアムに観客たちの歓声が響く。
to be continue...