救出。そして、伝えられる真実
「ここか...」
今如月は洞穴の前に立っている。
姿は見えないが、中から魔力を感じることから、サイクロプスがいるのは間違いなかった。
「取り敢えず、行くか」
少しずつ前進する如月。
三、四十メートル進んだ時、急に広い所に出た。
そこには、サイクロプスと鎖に繋がれたセルフィと如月の両親がいた。
サイクロプスのレベルは300。
それに対し、如月の今のレベルは503。
如月なら特に苦戦もせず倒せるだろう。
しかし、問題なのはその数。
優に百はいる。
いくら如月が強くても、サイクロプスの巨躯から放たれる拳をくらえばひとたまりもない。
「くそっ、どうする?」
と言っているうちに、サイクロプス達がなにやら準備を始めた。
火をつけ、その上に鍋のような物を乗せ、更に器まで用意してある。
これらのことから考えられることは一つだった。
「あいつら、三人を食うつもりか!?」
この時、如月の脳裏に、転生前の映像が映った。
目の前で殺された両親。
笑みを浮かべる犯人。
そしてこの状況。
如月は飛び出した。
何の策もなく、考えもなく、ただただ救いたいという気持ちだけを持って。
「うおおおおお!」
如月は武器など持っていなかった。
しかし、如月は武器になり得る物を両手足に三つずつ出現させた。
それはリアベルというリングだった。
如月のスキル、『ブースト』の力である。
能力は至ってシンプル。
進行方向の反対にリアベルをスライドさせれば超加速できる。
それだけ。
「おおおおお!」
如月は両足のリアベルを地面に向かってスライドさせる。
途端、如月の体は残像を、残して消え、気がつくと三人が縛られている所にいた。
「大丈夫か!今鎖を切るから!」
如月は指に魔力を集め、小刀のような形に形成する。
所謂、魔力武器というやつである。
それを使い、鎖を切り裂く。
「動けるか!?」
「う、うん」
「錬!後ろだ!」
如月に迫るサイクロプスの拳。
それに対し、如月も拳を突き出す。
二つの拳がぶつかる瞬間、如月はリアベルをスライドし、拳を超加速。
あまりの威力に、サイクロプスは拳を押し戻され、よろめいた。
「やべぇ!囲まれた!これじゃブーストでの脱出は出来ねぇ...」
「こうなったら、全員で血路を開くぞ!」
こうして、人間四人対サイクロプス約百頭の大乱戦が始まった。
ちなみに、如月の両親はどちらも魔法使いで、サイクロプスに迫る実力を持っている。
「さぁ、いくぞ!」
まず、如月の父が雷魔法で出口の方向にいるサイクロプス一体を痺れさせる。
そしてセルフィ、如月の母が如月の右手に攻撃力倍増魔法をかける。
倍増が二回、計四倍となる。
如月はブーストを使い、痺れたサイクロプスに接近、右手にリアベルをつけ、サイクロプスを殴った。
「おっらあああ!」
あまりの威力にサイクロプスは自分の後ろにいた者を巻き込んで出口に吹っ飛んでいった。
「さぁ、今の内に!」
四人は出口目掛けて駆け出した。
途中、サイクロプスが襲ってきたが、爆破魔法で牽制し、ようやく出口に出た。
が、その時、落盤によって出口を塞がれてしまった。
「そんな!」
「くそっ!こんなものぶっ壊してやる!」
またも右手にブーストを使おうとしたが、その時右手に激痛が走った。
「ぐっ!」
ブーストは協力な力だ。
だがその反面、多大な体力を要するのである。
さっきは、これに攻撃力倍増魔法を上乗せしたのだ。
暫く右手は使えないだろう。
「左手でやるか?いや、左手じゃあこれほどの厚さの岩には人一人通れるぐらいの穴しか...」
「それでいい。開けてくれ」
「で、でも父さん。それじゃあ全員助からねぇぞ?」
「父さんに策がある。お前はセルフィちゃんを連れて行け」
「...分かった」
如月は左手にブーストを使い、岩に人一人通れるぐらいの穴を開けた。
「さぁ、セルフィ!早く!」
「で、でもおじさんとおばさんが...」
「いいから!今は二人を信じるんだ!」
如月はセルフィを連れ、穴を通る。
「父さん!さぁ早く!」
「...」
「何してんだ!母さんも!」
「...ごめんね、錬」
「父さんと母さんはここまでみたいだ」
「はぁ!?何言ってんだよ!策があるんじゃねーのかよ!」
「策なんて無いさ。元々、こうなる予定だったんだ」
「意味わかんねーよ!とにかく早く!」
「きゃあ!」
如月が振り返ると、そこにはボロボロのサイクロプスが立っていた。
セルフィはサイクロプスに掴まれていた。
「う、うぅ...」
「セルフィ!このぉ!」
如月は挑みかかったが、両手が使えないというハンデはでかすぎた。
あっさりと殴り飛ばされる如月。
岩にぶつかり止まるが、右瞼には一直線に傷が走る。
「うっ、ぐはぁ!」
「錬!あぁっ!」
どうやらサイクロプスが力を強くしたらしく、セルフィは痛みに悶えた。
「くっ、く、そ、ぉ」
瞼が重くなる。
耳元でもう一人の自分が言う。
『楽になれよ』、と。
瞼が閉じられた時、如月が瞼の裏に見たもの。
それは、転生前の時のフラッシュバックだった。
必死に自分を、守ろうとする両親。
その時と比べて、今はどうか。
何も変わっていない。
いや、前より悪い。
「まだだ...」
如月はゆっくりと立ち上がった。
「まだ終われねぇ...」
身体が、熱くなる。
痛みを覚えるほどに。
「これじゃダメだ。何も変わってねぇ」
「もう、大切な人を失いたくねぇ!」
如月の全身から魔力が、それも、血のように赤い魔力が吹き出す。
「うおおおおおおおおお!!!」
後頭部に激しい痛みを残し、如月は意識を手放した。
〜如月家〜
「んんん...あ、あれ?ここは...」
見慣れた天井。
寝慣れたベッド。
ここは如月の部屋だ。
「起きたか、錬」
「父さん!無事だったのか!?」
「あぁ。それより、何か身体に変化は無いか?」
「ん?特に何も...」
「頭は?」
「頭?」
如月は自分の頭を触る。
そして、後頭部にあるものを見つけた。
「え、これって、え?」
「そう言うことだ。父さんの頭も触ってみろ」
如月が震える手で父の側頭部を触る。
そして、見つけた。
後頭部のと同じものを。
「一体何なんだ!?これって...」
「錬お前に話さなきゃならない事がある。これは母さんも知ってる事だし、セルフィちゃんも知ってる事だ。いや、セルフィちゃんはついこの前知った、かな?」
如月の父が話す、事実。
その詳しい内容を知るのは、如月、その両親、セルフィの四人だけだった。
そして数年後。
如月21歳。
to be continue...
ここに載せるのは初めてですかね。
今までのお話は、所謂プロローグです。
次回からが物語の始まりだと思ってください。
それと、少し後になりますが(主にストーリー上の理由で)、如月 錬の挿絵も載せるつもりです。
では、また。