修行の日々。しかし、事件は起こる
その日、一学期が終わった。
如月は一枚の紙を持って校長室に向かう。
「失礼します」
「やぁ、如月君じゃないか。どうしたんだい?」
「これを提出しに来ました」
そう言って如月が差し出した紙にはこう書かれていた。
「退学届?」
「はい」
「...何故だい?君は優秀だ。この学校に残っていても問題無いんじゃないかい?」
「まぁ、そうっちゃそうなんすけど...やりたい事があって、それをやるには時間が足らないんです」
「しかし、まだ一学期が終わっただけだぞ?君もまだ戦闘と魔法の基礎を知っただけだろう?」
「それだけあれば充分です。応用なんて自分一人でも出来ます」
「...本気なのかい?」
「はい」
「そうか、分かった。これは預かっておくよ。何か、わからない事があったら、いつでも来ていいからね?」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
如月は校長室を出た。
そのまま一直線に校門を出た。
何故如月が学校を辞めたか。
その理由は二つある。
一つはこう時間が無くては、自分が強くなれないからである。
しかし、如月も元高校三年生。
戦闘も魔法も、わからない事だらけであった。
だから一学期だけ学校に行き、残りは自分で修行しようと入学前から決めていたのである。
もう一つは、この学校そのものである。
この学校は、優秀かどうかで優劣をつけるのである。
優劣をつける事自体は普通だ。
しかし、ここは度が過ぎている。
校門に着くまでに何人かの生徒と教師を見かけたが、優秀な生徒に対しては教師はとても優しい。
しかし、あまり優秀でない生徒にはいじめや無視を行なっていた。
教師がいじめなど言語道断、と思い、如月はこの学校を辞めることにしたのだ。
「さて、と。これから交渉だなぁ」
「ただいまー」
「あら、錬。学校は?」
「辞めて来た」
「ええっ!?ほ、本当に?」
「うん」
「な、なんて事!とにかく、パパにも帰ってもらわないと」
程なくして如月の父が帰って来た。
「錬、なんでこんな事をしたんだ?」
如月は、上で述べた二つの理由を伝えた。
「そうか...」
「ねぇあなた、今からでも遅くないわ?取り消しましょうよ」
「...」
如月の父はじっと如月の目を見つめる。
まるで、一時間のように感じられる三分が経ち、如月の父は口を開いた。
「よし、認めよう」
「えええっ!?どうしてよあなた!」
「錬を見てみろ。...決心した男を、俺が止める権利は無い」
「ても...」
「勿論、内容しだいだ。何か提案があるなら言ってみろ」
そこで如月が話したのは、自分がずっと考えていた修行方法である。
少し長かったので、簡単に説明すると、自分は強くなるために旅に出たい。
強くなるには、モンスターを倒すのが一番で、モンスターを倒すと原理は知らないが金や宝石を落とす。
これを全て両親に渡すと言うのである。
さらに、旅と言っても数日に一度は帰ってくる、長くなるときは手紙で知らせると約束した。
この条件に母は渋々承諾。
父はこれにもう一つ条件を加えた。
「強くなってこい。誰にも負けないぐらい、な」
程なくして、如月は旅に出た。
取り敢えず、当初の目的はダンジョンで野宿であった。
しかし、これは想像を絶するものだった。
いた何時、どんなモンスターが襲ってくるか分からないため、寝るときでさえ神経を張り巡らさなければならなかった。
それでも、ダンジョンに五日も籠っていると、レベルが20も上がった。
それから数年、如月はこの過酷な生活を続けた。
そして、ある日。
「錬!」
「ん?セルフィかどうした?」
「こ、これ、持って行ってくれないかな」
そう言ってセルフィが差し出したのはジャケットだった。
普通と違うのは裾が膝ぐらいまである事だ。
「私の魔力を織り込んだんだけど、おかげで丈夫になったし、防具がわりにもなるから。どう?」
「有り難く頂戴するよ」
「ふふっ。早く帰って来てね」
「分かった」
そして五日後。
村に帰った如月は絶句した。
「な、なんだこれは」
村は荒れ果てていた。
それこそ家は潰れ、怪我をしていない人はいないほどに。
如月は近くの村人を助け起こし、話を聞いた。
「何があった!?」
「突然、サイクロプスの集団が襲って来て...セルフィちゃんと君の両親は...村を守ろうとしたけど、歯が立たなくて...」
「それで!?三人は何処に!」
「つ、連れていかれた...」
「...分かった。場所は」
「この先に...洞穴がある。多分そこに」
それだけ聞くと、如月は疾風の如く駆け出した。
一度ならず二度までも、大切な人を失う。
もうそんな思いはしたくなかった。
洞穴まで、あと数十メートル。
to be continue...