転生しちゃうらしいです
「あ、あれ?」
俺は気づくと、真っ白な世界にただ一人立っていた。
「ここ何処だ?確か俺は...」
「御機嫌よう。如月 錬」
如月が声のした方を向くと、そこには白いローブのような物を纏った女性が立っていた。
「あんたは?」
「何をおっしゃいます?もう分かっているのでしょう?」
「女神って奴か?」
「ええ。私は現実世界と異世界を管理する女神です」
「やっぱりな」
如月も分かってはいたものの、やはり動揺を隠しきれない。
それもそうである。
今まで想像の中でしか存在しなかった女神が事実、目の前にいるのだから。
「それで?女神様が何の用だ。確か俺は死人の筈だが?」
「その通り。あなたは死にました。そして、今のあなたは魂だけの存在」
「魂、ねぇ」
「普通だったら、人は死ぬと審判神アヌビスの元に送られます。しかし、稀に転生という機会を与えられることがあります」
「で、俺が転生できると?」
「その通りです」
如月もやっと話が掴めてきた。
「転生というのは自分がいた方の世界ではない方、あなたにとっては異世界で、もう一度人生を送ることが出来るものです」
「でも、なんで俺に転生の機会が?」
「今、異世界に危機が訪れようとしています。あなたには、その世界を救って欲しいのです」
「...そんな大役が俺に出来るのか?」
「異世界は、生まれながらにして、一人一人役割を持っています」
「あ、もしかして俺が勇者だったりして?」
如月は女神の「そうです」という言葉が返ってくるのに期待した。
しかし、返ってきたのは逆の答えだった。
「いいえ、あなたは勇者ではありません」
「え、えええ〜」
明らかにガッカリしたという態度を見せる如月。
「勇者じゃないのに世界救えんの?」
「さぁ。元よりあなたには余り期待していませんしね」
「...は?」
如月は度肝を抜かれた。
自分は異世界を救うために呼ばれた筈なのに、期待されてないのはどういうことか、と。
「意味が分からないという顔ですね。理由は簡単。勇者ではないからです」
「なら勇者を呼びゃいいじゃねーか。それに、異世界には勇者は居ねーのかよ」
「いえ、勇者は居ます。しかし、その勇者では今回の危機に立ち向かえるかどうか不安ですね。まぁ簡単に言えば、あなたは現実世界で強い勇者が出るまでのつなぎです」
「何だよそれ...」
如月は、怒りとも呆れとも言えない微妙な感情を抱いた。
弱い勇者しかいなくて、肝心の自分はつなぎ程度にしか思われていない。
それでは自分がいる意味は何なのだと。
そして、如月にある一つの感情が沸き起こった。
「おい、女神」
「何ですか?」
「あんたがそこまで言うならやってやるよ。勇者でなくても、期待されてなくても、世界は救えるってな」
誰も頼れない。
肝心の勇者は弱い。
自分はつなぎだ。
それがどうした。
誰が勇者じゃないと世界は救えないと決めた。
きっと自分でも、世界は救える。
それが、如月が持った感情であった。
「...分かりました。そこまで言うなら...」
でも、と女神は付け足した。
「もし、異世界が危機に屈したら容赦無くあなたを地獄送りにします」
「失敗したら、死ねと?」
「はい。それだけの覚悟が無いと、異世界をあなたに任せることは出来ません」
「いいだろう」
「いいのですね?」
「ああ。やってくれ」
如月に、迷いは無かった。
「いいでしょう。異世界を...頼みましたよ」
如月は光に包まれて、消えた。
暫くして、一人の天使が寄ってきた。
「あれで良かったのでしょうか...」
「あら、聞いてたの?ガブリエル」
「あなたがあの人間に期待していない。あれは嘘ですよね?」
「あらぁ、ばれちゃった?」
女神は可笑しそうに笑った。
実はこの女神、如月にとても期待を寄せていたのである。
「では何故あのように酷いことを?」
「...異世界の命運はあの子の双肩にかかっているわ。あれだけの覚悟を事前に持っておいて欲しかったの」
「そういうことでしたか...」
「あの子が持つ力は計り知れない。さぁ、これからどうなるのか...流石の私も分からないわね」
今、一人の人間が異世界に旅立った。
to be continue...