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一章五節

 

  * * *


 乱舞(らんぶ)に官吏になる許可をもらい、前回の旅で一番気にかかっていたことは何とか落ち着いた。次だ。


 翌日、与羽(よう)は中州城下町へ下りていた。城主に旅の報告を行ったり、自室で物思いにふけったりすることが多かったため、なかなか城を出られなかったのだ。

 胸につっかえていたものの一つに折り合いをつけられて、やっと城下を歩く精神的な余裕ができた。


 まだ焼け落ちたままの家があるはずだが、大通りは戦前とほとんど変わらない。人々が行きかい、活気に満ちている。


 今回の目的は、とある人物に会うこと。

 与羽は大通りに面する屋敷の戸口を叩いた。


「こんにちはー」


 そう声を張り上げる。


「与羽!」


 その声で誰かわかった青年が、明るい声とともに戸を開けてくれた。

 腰を過ぎるほど長い髪を一つに束ねた中性的な美貌を持つ青年。彼が浮かべる笑みは、とても人懐っこく、こちらまで笑顔になってしまう。


「久しぶり、比呼(ひこ)


 与羽は片手を挙げてみせた。


「ちょっと話、いい?」


 中州に帰ってきて、いくつか言葉を交わしはしたが、まだゆっくり話せてない。


「もちろん!」


 そう言って、比呼は中州城下町でも有数の敷地面積を誇る薬師(くすし)本家へと与羽を招き入れた。広い土間の壁には、乾燥中の薬草が所狭しとかけられている。かまどの鍋で煮出されているのも、何かの液薬らしい。


「与羽ちゃん、いらっしゃい」


 その前で火加減を見ていた二十歳過ぎの女性――凪那(なぎな)がにっこり笑いかけてくれる。しかし、すぐに怪訝な顔になった。


「与羽ちゃん、その髪……?」


「旅に出るときに染めたんよ。この方が他国で目立たんくてええでしょ?」


 与羽は城下町に帰ってから何十回と言ってきた言葉を口にした。今では慣れすぎて、満面の笑みで言える。


「凪ちゃん。それは――?」


 その笑みを崩さず、与羽は凪の作っているものを尋ねた。


「城下町の主婦に大人気! 冷えに効くお薬よ」


 鍋を指さす与羽に、凪が煮出している薬を教えてくれた。


「こっちは咳止め」


 そして、膝の上に置いている乳鉢の中身まで紹介してくれる。


「ごめんね。お茶を入れてあげたいけど、火加減見てないとダメだから――。今はおばあちゃんも父さんも母さんも出てるし――」


「あ、気ぃ使わんでええよ。大丈夫」


 与羽が手を振って「お構いなく」と示す。


「……ちょうど、比呼と二人きりで話したかったし」


 声をころしてそう付け足す。凪が首を傾げた。与羽が急に纏った深刻な雰囲気に気付いて、比呼も陽気な笑みを引っ込めて、真剣な顔になる。


「……わかった」


 比呼がうなずいて、動作で与羽を奥の部屋へ招く。


「気負わず、ゆっくりしていってね」


 凪のそんな言葉を背に、与羽は比呼について行った。

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