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一章三節

「消去法なんだね?」


 乱舞(らんぶ)の目は少し冷たい。与羽(よう)は慌てて首を横に振った。


「完璧なお姫様か、官吏かなら、官吏になりたい。それ以外の選択肢はない。そのどっちか以外にはなりたくない。だから、私は官吏になりたい。辰海(たつみ)絡柳(らくりゅう)先輩と一緒に乱兄を支えたい。絡柳先輩や、卯龍(うりゅう)さんみたいにかっこよくなりたい」


 そう、そういうあこがれもあって、官吏になりたいんだった。はたから見れば兄に口出しして政治を捻じ曲げているだけの「わがまま姫君」ではなく。


「賢くてかっこいい官吏になりたい」


 与羽はまっすぐ乱舞の目を見た。乱舞が困ったように笑む。


「君の気持ちはわかった。けど、まだ迷っとるね」


 そしてひとつ息をつく。


「個人的な意見を言わせてもらうのなら、君には絶対官吏にはなってほしくない。それだけ大変な仕事だから。中には、準吏になるのが目的の人、下級官吏になって、簡単な仕事を適当に終わらせながらいい給金をもらいたいだけ――楽して稼ぎたいだけの人もいる。個人的に、そういう人たちは気に食わないけど、城主としては、そういうやり方もあると認めてる。準吏はその人の能力を示す一種の国家資格。楽して稼ぎたいだけで向上心のないごくごく下の下級官吏だって、代えはいるかもしれんけど、それでも割り振った仕事はちゃんとやってくれる中州にはなくてはならない人間だ。

 でも、君に関してはそんな楽な官吏の生き方をさせてあげられない。姫としての格を上げるために準吏になりたいって言うなら、認めてあげられた。でも、君は官吏って言ったね。城主一族出身で官吏になるんなら、中途半端なことは許せない。主要文官家と一緒だね。その家の名を背負って官吏になるんだから、それに見合うだけの働きと順位を求められる。もし君が下級文官どまりだったりすれば、君のその低能は、君の兄である中州城主の能力や中州城主一族という家の格にも悪影響を与えるんだ。汚い話だけどね。周りの人は絶対にそういう目で見る。考えてごらん。もし、辰海君が下級文官どまりで大した成果を上げずに一生を終えてしまったら? 『文官筆頭家も落ちたものだな』『古狐(ふるぎつね)って名前だけの無能一族だっんだな』って陰口をたたかれるのは目に見えてるでしょ? 現時点でも、辰海君や古狐を悪く言う言葉は少しだけど聞こえてたしね」


 ――「古狐」のくせに自分のことにかまけて、国をおろそかにするバカ跡取り。

 ――古狐大臣は「古狐」の名前だけで一位になった、息子の育て方さえわからない無能。


 乱舞は口にしなかったが、卯龍や辰海を良く知らず、心無い人々がそう言うのを耳に挟んだことがある。

 与羽も多少は心当たりがあったのか、浅くうなずいた。彼女の顔はしかめられている。


「ちっぽけなほころびかもしれないけど、そう言う小さいところから少しずつ国は壊れていっちゃうもんなんだ。特に、中州みたいな明確な敵国がいる国はね」


 与羽が官吏になれば、人々は城主一族から出た官吏と言うことで、与羽に過度な期待をするだろう。それこそ、与羽の能力を超えた期待を――。

 しかし、与羽はそれにこたえなければならない。さもなければ、「結局城主一族なんてこんなもんなのか」と思われかねない。

 その侮りは、与羽だけでなく、中州城主への侮りに直結する。そうなれば、中州城主の絶対的な権限は失われ、城主一族、果ては国の安定にも悪影響を与える。

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