五章一節
一ヶ月後――。
官吏登用試験が始まったものの、三次試験までは問題なく通過できた。
一次試験は書類選考、二次試験は一般教養。ここまでは学問所で学ぶ内容なので問題ない。
三次試験は、より高度な知識を問われる筆記試験で、歴史や法律、官吏の仕事についてはもちろん、和歌などの芸術に関する知識も問われた。しかし、歴史書や法律書などは、官吏になると決めてから何度も繰り返し読み返したし、芸術知識は国の姫として叩きこまれている。中には、「次のような問題が起こったとして、どう対処するのがふさわしいか」と言うような思考力を問われる問題もあったが、こちらも似たような事例を書物で読んでいたため迷うことなく解けた。
そして三次試験の合否がわかると同時に、四次試験が始まっている。
四次試験からは文官志望か武官志望かによって試験内容が大きく変わる。文官試験の場合は、五十あまり提示された課題から自分で好きなものをいくつか選んで、それの解決案をひと月以内に書いて提出すると言うものだ。取り組む課題はいくつでもよく、一つを深く掘り下げて提出するもよし。いくつもの課題を広く浅く分析して思考するもよし。自分の能力と得意なことをうまく生かすことが重要だ。
提示される課題は、「城下町に貸本屋を作る際の計画案」「嵐雨の乱後の中州復興のための財源確保案」「中州の任意の都市の新特産品制作」「今年の新年行事の記録作成」「嵐雨の乱で得た華金捕虜の扱いについて」「朝議の議事録作成」などなど、実際に中州国の文官が行っている仕事が多い。
この四次試験を通過すれば、晴れて「準吏」となり、官吏に準ずる立場で国の仕事を行うことができる。いわば長期間の官吏見習い期間だ。四次試験で扱った課題が、準吏になったときに任される仕事とも関係してくるので、解答する課題選びも重要だ。
「あたしが文官準吏になったときは、十日分くらいの朝議議事録と、住み込み労働者の実態調査みたいなことをやりましたよー。知り合いの使用人や出稼ぎ労働者とか三十人くらいに片っ端から聞き取りをして、労働時間やお給金、住まいの状況とかいろいろ調べて、まとめて、提出しましたぁ。あたしみたいなお金持ちのおうちや大きなお店に努める人はかなりいい条件で働けていましたけど、街中の小さなお店に住み込んでいる人とかになると、毎日ずっとお仕事で、お給金もお小遣い程度のところが多いんですぅ。
他の仕事を探したり、住み込みじゃなくてちゃんと自分でおうちを買ったり借りたりして暮らしたくても、お金や時間がなくてできないとか。だから、そう言う人たちがもっと簡単に転職したり、住む場所を得られたりするような仕組みにできないか提案書も一緒に提出しました。
まぁ、あたしが提案した職業あっせん所とかは、もう大商家の赤銅家が少しはじめていたみたいで、あとになってそれを知って『やっちゃったー』って思いましたけど、なんとか試験は受かってましたぁ」
すでに文官準吏の位を持っている与羽の女官――竜月が自分の経験を語った。
「結構大変そうなことやっとったんだね……」
「辰海殿や水月大臣は試験期間一ヶ月、朝議のある日は毎日議事録を作成したうえに、さらに三つくらい課題を提出したそうですね。たぶん、内容がちゃんとしていれば、朝議一ヶ月分だけで充分試験を通ったんじゃないでしょうか……。特に水月大臣は、その時に提出した銀工町を中州最大の交易都市にする計画書が高く評価されて、準吏になってすぐ銀工町に派遣されたそうです」
そう言えば、絡柳は準吏の時と大臣になる前の上級文官時代に数年間銀工町で暮らしたことがあると言っていた。
「……やっぱり、あの二人は格が違う……」
中州城主一族出身として、試験は上位の成績を修めて合格しなくてはならないが、二人の成果を聞くと腰が引けてしまう。




