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四章五節

 

  * * *



 これで四人の保証人欄が埋まった。二番目に武官筆頭九鬼(くき)。三番目に祖父舞行(まいゆき)。四番目は中州最大の商家赤銅(せきどう)。五番目にもう一人の祖父豊田(とみた)氏。


 一番最初の欄はまだ空いている。この空欄に入る名前は、保証人の中で一番力を持つ者。そして、文官となる与羽を一番助けてくれるであろう者。文官筆頭古狐(ふるぎつね)家家長だ。

 しかし、現在家長の卯龍(うりゅう)は南の砦にいるので、今回はその代理である辰海(たつみ)に署名をもらうことになる。


 普段辰海に会おうと思えば、古狐本家へ行くか、城で政務が終わるのを待つ。それだけで、辰海の方から与羽を見つけて来てくれる。

 しかし、今回は辰海ではなく、古狐の次期家長に話があるのだ。他の保証人たちにしたのと同じように、相応の手順を踏んでいる。ただ、古狐は保証人になるために一つ条件を付けてきた。


 曰く『古狐以外の保証人欄を全て埋めてからくること』


 これが、不格好に一番最初の欄が空いてしまった理由だ。


 条件を満たし、再度面談を申し出た与羽に、辰海は夕刻に古狐本家に来るよう指示した。その通りに訪れた与羽だが、古狐本家は城の敷地内に建つにもかかわらず、門扉は閉ざされ、両側に屈強な門番が控えるという警戒ぶりだ。しかし、これは城内の治安に不満があるのではなく、『古狐本家』と言うものに重々しさ、物々しさを持たせるものだという。普段ならば、与羽の顔を見た瞬間門を開けてくれるが、今回は警戒心こそないものの鋭い瞳で近づく与羽を見据えるだけだった。


 与羽もそれはある程度予想していた。


「中州与羽です。本日は古狐次期当主、古狐辰海殿にお目通り願いたく参りました」


「若様よりうかがっております」


 かしこまる与羽に門番も重々しくうなずいてから、「どうぞ」と門扉を開いた。その先には既に使用人が待っており、客間へと案内される。


 ――上から五番目……、か。


 古狐の屋敷で暮らしたことのある与羽には、いくつもある客間の格がわかる。五番目は何の肩書もない一般庶民が通される部屋の中で最上。準吏や下級官吏と会うときにも使われるが、格自体は下から数えた方が早い。

 これが中州の姫君をもてなす場合ならば、上から二番目、三番目くらいの各国の要人や大臣をもてなすための部屋に通しただろうから、この扱いは官吏を志すならば、与羽を『姫』と言う特別枠では扱わないという古狐の意思の表れだと考えられる。それならば、与羽も相手との接し方に気をつけなくてはならない。


 辰海はしばらくしてあらわれた。使用人に先導された辰海は正装しており、表情も硬い。与羽は一瞬でそれだけ確認して、頭を下げた。


「顔を上げてください」


 上座に座った辰海は柔らかな、しかしどこか距離を置いた口調でそう促した。


 与羽は頭を上げた。辰海の顔には穏やかな笑みが浮かんでいるが、そこに感情は見えず、外交用のものと言う印象を受けた。今の彼は幼馴染の辰海ではなく、古狐の次期当主として接している。そう確信して、与羽は彼が時間をとってくれたことへの礼と目的を告げた。


「何点か聞かせてください」


 普段より落ち着いた彼の声はとても心地よい。

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