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三章七節

「僕は、与羽が与羽でいてくれたら、それでいいです」


 辰海は力なく笑んで、浅く首を横に振っている。「許していただけるなら、恋人になりたいです」くらいの言葉が出る覚悟をしていた乱舞は拍子抜けした。


「そっか……」と言う、あたりさわりのない言葉が漏れる。


「乱舞さんは、与羽が文官になることに反対なのですか?」


 その隙に、今度は辰海が乱舞に質問を投げかけてきた。


「反対じゃないけど。不安はあるよ」


 それを不快に思うこともなく、乱舞は答える。


「与羽の体力や心も心配だし……。その辺は、辰海君たちがうまい具合に守ってくれるんだろうけど、与羽自身はそんな守られる自分を良しとせずに、逆に自分を責めちゃうかもしれないって不安もある。与羽は人気者だから、城主の僕よりも影響力を持つ官吏になったらどうしようって自分勝手な悩みも実はあったりする。まぁ、現時点でも、僕より卯龍さんやおじいちゃんの方が影響力を持ってるんだけどさ」


 若くして国を治める立場になった乱舞には、まだ知識も経験も人望も足りない。一位の大臣――卯龍や、祖父の舞行、多くの官吏に頼ることでなんとかやっている状況だ。いつかは誰からも頼られる力を持った存在にならなくてはならないのに、そこに同じ城主一族出身の与羽が立ちはだかると思っているらしい。


「与羽は、人を導く立場の人間じゃありませんよ。彼女は、誰かの上に立つのではなく、人と並んで歩く(たぐい)の人間です」


 これは辰海の個人的な感覚でしかないが、与羽は人に指示を出して何かをしてもらうよりも、人と一緒に行動するのを好むように感じられる。


「それは、確かにそうかもね」


 乱舞はそう言って、ほっと息をついた。


「与羽が官吏になるって聞いて、すごく不安だった。けど、辰海君と話してみると、それも全部杞憂だったみたいだ。

 ごめんね色々意地悪な質問をして。与羽が官吏になるのと今のままでいてくれるの。どっちがいいのか判断がつかなかったんだ。今のままで官吏になれれば一番いいけど、難しいかと思って。けど、与羽は僕が思うほど弱くはないのかもしれない。それに、辰海君がいれば大丈夫かなって思えたよ。最近、あんまり与羽といるところを見ないから不安だったけど、こうやって話すと変わってないみたいだし。安心した」


 乱舞の口元に浮かぶ穏やかな笑みは安堵によるものか。


「万が一、国が滅びて、君と与羽が無事だったら、国は立て直さなくていいよ。どこか、中州も華金も関係ないところで幸せに暮らして。ちょっとわがままで自分勝手な所もあるけど、心やさしくて無邪気で、僕の大事な大事な自慢の妹だから。与羽を、よろしく頼むよ」


「あ……」


 乱舞の言葉は、これから官吏になる与羽のことを言っているのだろうか。それとも、もっと広くて深い意味があるのだろうか。しかし、どちらにしても辰海の答えは変わらない。


「はい!」


 ――与羽を必ず守り切ってみせます。

 たとえ、添い遂げることができなかったとしても。


 辰海は自分の心の内で硬くそう誓った。

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