二章十節
「お前は、華金王になるつもりなのか?」
絡柳は問いを重ねる。
「わかりません。私は、この遊郭に来てから、とても楽しかったのです。理不尽な暴力を振るわれることもなく、物ではなく人として扱っていただけているように感じられましたので。双子の兄弟も、遊郭の旦那様にちょっともらしたら、本気で捜して買い取ってきてくださりました! よく似た面差しでしたから、すぐにお互い双子の兄弟だとわかりましたよ。それからは、二人で必死に働いて、私と片割れを買い取るために使ったお金を返そうとしていました。そう、最初は華金のことなど全く考えず、旦那様と中州のために生き続けるつもりだったのです」
「旦那様はわかるが、中州のためと言うのは飛躍しすぎてないか?」
「いえ、私に『かすみ』と言う名をくださったのは、与羽姫様で、私にも片割れにも非常によくしてくださっているのです」
「なんでこんなところでも、与羽の名前が出てくるんだ……」
絡柳は盛大にため息をついた。
「与羽姫様は数少ない私の銀髪と性別をご存知のお方ですよ」
絡柳はさらにため息をつく。あえて情報通の与羽を避けたが、彼女に相談していればもっと話が早く進んでいたのかもしれない。
「続けてくれ」
「はい。我々は、このまま平和に中州で生きるつもりでしたが、四年前の華金との戦『一日戦』の時に、中州も平和な国ではないと気づきました。常に南の大国華金の脅威にさらされ続けていると知ったのです。私が、……正確には片割れがですが、華金の王位継承者として名乗りを上げたのは、そうすることで少しでも中州を守れるかもしれないと思ったからです」
「まさか、本気で華金王になるつもりなのか?」
「それは難しいでしょうが、少しでも長い間華金をかき回して、国力をそぎたいとは思っています。少なくとも、片割れと最後に話したのはそう言う計画でした。彼が王位継承者として名乗りを上げるために中州を出て以降、もう三年ほども会っておりませんが……」
彼らが王位継承争いを荒らすことで、華金の中州に対する目をそらすことが目的か。回りくどいやり方だが、彼らにできる方法で中州を守ろうとしているのだろう。
「自己犠牲の過ぎるやり方だ」
しかし、絡柳は批判的に告げた。
永遠に王位継承争いを続けることは不可能で、いつかは誰かが華金王に就く。後ろ盾のない異国出身の母を持つ双子が華金王になれる可能性はかなり低く、王位継承権を失う日が来る。その時、きっと彼らは無事ではないだろう。何とも破滅的だ。
「そうかもしれませんね」
かすみははかなげな笑みを浮かべた。
「中州国は、華金の王位争いには絶対に干渉しない。中州への害意はないとみなし、あなたを華金国の間者として捕まえることも、中州から追い出すこともしない。だが俺は、中州の大臣として、華金の王位継承権を放棄して、兄弟幸せに中州城下町で暮らすことを提案する」
彼の話を聞いた絡柳は判断を下した。ようするに、国としても個人としても全く干渉をしないから勝手にやれと言うことだ。
「……はい」
かすみは浅く頷いた。
「いいんですか?」
ややいらだっているらしい絡柳に、比呼は問う。
「この状態だと、中州が華金の第四王子をかくまっているようにとられかねませんが……」
「こいつを追い出したところで華金が中州と敵対しなくなるかと言えば、そんなことはない。いてもいなくても変わらないなら、中州にいてもらう方が、民にやさしい中州らしいだろう」
「それは、確かに……」
「あと、ここで聞いた話は、必要な時が来ない限り、誰にも言わないつもりだ。二人も黙っておいてもらえると助かる」
「わかりました」と比呼とかすみの声が重なった。
「よし、それなら、話はここまでだな。かすみ殿、貴重な情報、感謝する」
そう言って、絡柳は立ち上がろうとした。比呼に「待ってください」と止められたが。
「ここにきてまだ半刻もたっていません。ここで僕たちが帰ってしまったら、彼女は今夜もう一人客をとらなくてはならないでしょう。しかし、彼女のような格の高い遊女に一晩に二組の客をとらせるわけにはいきません」
「そうなのか?」
「あら、比呼様は心づかいのできる良いおかたですわね」
全く勝手のわからない絡柳は首を傾げ、かすみは女声になってしなを作った。
「少なくとも華金では、一晩に二人以上の客をとる遊女は下級の者と言う認識でしたね。水月大臣はお酒飲めますか? 少し飲んでいきましょう。ここから先は僕が持ちますから。こう見えて、庶民が一生裕福に暮らせるくらいの財産はあります」
「……それは、溜めすぎだ……」
「悪いことをやっていると、たくさんお金がもらえるんですよ」
そう言って比呼は舌をペロッと出して見せた。




