二章六節
四ッ葉屋に正式に認められた傘下の団体は四つ葉の看板を与えられるので、わかりやすいと思います。誰もが四ッ葉屋の恩恵にあやかろうと目立つ位置に掲げていますから。
主要な商品は生産・流通・販売のすべてを四ッ葉屋傘下のみで行うことができます。
四ッ葉屋の本店は、華金の王都『玉枝京』の中央を貫く金蘭通りと呼ばれる大通りの中央部やや王宮寄り。ちょうど貴族と庶民の居住区の間にあります。
扱うのは、薬、あと香、煙草、煙管、茶――植物を乾燥加工したものが多いのでしょうか。四ッ葉屋の原点に近いものが置かれている印象です。奥では金貸しもしていますけどね。
その周りや金襴通り沿いには『四ッ葉屋』姓の商家が多様な店を構えています。
『四ッ葉屋』姓の商家は現在十一。そのどれもが、四ッ葉屋本家と父系の血縁を持っています。
ただし、同じ父系血縁を持つものでも、『求める人に求められる商品を』という四ッ葉屋の理念を守らなかったり、価格設定や商品の質などが好ましくなかったりすれば、すぐに四ッ葉屋姓をはく奪されます。
四ッ葉屋秋兵衛は、確定できる情報がないので推測ですが、本家の次に古い四ッ葉屋――つまり、遠い昔に本家から別れ、四ッ葉屋姓をはく奪されずに今まで残ってきた『二番四ッ葉』の出身だと僕は勝手に思っています。少なくとも、四ッ葉屋姓を名乗っている以上、四ッ葉屋本家とは父系の血縁があるはずです。勝手に四ッ葉屋を騙る命知らずはいませんから」
「有能な……、厄介な男と言うわけか」
絡柳はあえて、そう言いかえた。
「そうですね」
敵に回せば厄介なことこの上ないだろう。彼がただの商人で、華金王に肩入れしていないのが幸いだ。
「水月大臣は、件の遊女に心当たりはあるのですか?」
話を進めようと、比呼はそう話題を切り替えた。
「俺が知っていそうに見えるか?」
腕を組み、片眉を上げて、少し愉快そうに問いかける最年少大臣は、堅物真面目と言うことで有名だ。女性のうわさも全くない。遊郭など、たとえ仕事でも立ち入らなそうな雰囲気だ。
「いいえ」
少し和んだ空気に、比呼も淡い笑みを浮かべた。
「しかし、大っぴらに遊女探しをするのも良くないですよね」
そんなことをしようものなら、城下中にどんな噂が立つかわかったものではない。
「そこなんだ。だが、幸い女に詳しくて、口の堅い奴を知っている。ちょうど中州城にいるから、すぐに呼んでくる」
怪訝そうな顔をした比呼に、絡柳は「あぁ、与羽じゃないぞ」と付け足した。
「あいつに頼るのは不本意だが、時々は役に立ってもらわないと困る」
彼は誰のことを言っているのか。踵を返して部屋を出た絡柳は、すぐに戻ってきた。
連れてきたのは、長身細身の男。年のころは二十代後半だろうか。色っぽいたれ目に、波うった髪、大きな家紋が複数個所に染め抜かれた大紋をまとっている。家紋は、五角形に柑橘を模したものだ。




