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二章五節

 

  * * *


 さて、秋兵衛(しゅうべえ)から得た情報を誰に伝えるか。

 中州城下町に急いで戻ってきた比呼(ひこ)だったが、少し悩んでいた。


 誰の許可を得ることもなく華金へ行き、秋兵衛に会ってしまった。

 比呼から中州の重要な情報が漏れてしまう危険性もあったし、彼の姿が過去の暗鬼を知る人に見られる可能性もあった。褒められた行為ではないのは重々承知している。誰に話しても、良い顔はされないだろう。それでも、中州のことを考えれば、伝える必要のある情報だ。


 しかし、それは与羽(よう)ではいけない。

 彼女が知れば、何としてでも間者をさがそうとするし、(くだん)の遊女に接触しようとするだろう。だが、彼女はまっすぐな人間だ。彼女のさがし方はきっと相手に感づかれ、与羽や他の人々の身を危険にさらしてしまう。

 ひそかに立ち回る能力を持ち、そのために動かす人の確保や情報の統制ができるほど地位が高く、元暗殺者の話をまじめに聞いてくれる人――。欲を言えば、四ッ葉屋秋兵衛と言う存在を知っている者が良い。そうなると、思い浮かぶのは一人しかない。


水月(すいげつ)大臣」


 比呼は周りに誰もいないことを確認して、小さく呼びかけた。


「なんだ? 珍しい」


 現在の最年少大臣――水月絡柳(らくりゅう)が振り返り、目を細めた。


「……場所を変えた方が良いな」


 影に溶け込むように立つ比呼のまじめな表情を見た瞬間、絡柳は声を低めて踵を返した。そのまま人気のない部屋に比呼を導くと、自分は閉め切った戸口の前へ立ち、腕を組んで比呼を見た。


「何があった?」


 そう率直に聞いてくる。

 比呼は簡潔に与羽たちが出会った四ッ葉屋秋兵衛と言う男の正体と彼に会いに行ったこと、そして彼から得た情報を伝えた。


「なるほど」


 口をはさむことなく聞き終えた絡柳は、間をおかずにうなずいた。


「華金の間者が中州城下町にいることは予想していた。詳しい情報がないのは残念だが……。そして、『銀髪青眼の遊女に会ってみろ』と」


「はい」


「四ッ葉屋秋兵衛も……、油断ならない相手だとは感じたが、情報屋か……。あいつは何なんだ? 四ッ葉屋のどのあたりにいる? 四ッ葉屋と四ッ葉屋秋兵衛について、お前が知っていることを教えてくれないか?」


「もちろん」


 比呼はうなずいた。


「四ッ葉屋は華金で最も大きな商家です。商業集団としてみれば、商人連合はじめ同じくらいの規模のものがいくつかありますが、その中でも四ッ葉屋は古く、幅広い。


 はじまりは庶民向けの薬屋だったと言われていますね。しかし、その質と効能の良さから次第に上流階級にも重宝されはじめました。

 扱うものも、薬から食べ物全般、香、嗜好品、武器も扱いはじめましたね。『風が吹けば桶屋が儲かる』とは言いますが、戦が起これば、けが人が出て薬屋が儲かるんですよ。


 そんななかで、四ッ葉屋は分家や他の商家を傘下に入れ、そのうち商品の生産を行えば仕入れ値がより安くなるということで、農家や職人、商品を運ぶための船団や飛脚なども次々傘下へ納めて今に至ります。

 現在四ッ葉屋が扱ってない商品はないと思いますよ。飲食店や賭場、花街――。物の売買以外にもお金が動く場所にはたいてい絡んでいます。

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