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二章三節

「えぇ、一応は――。殺してしまっては意味がないっすもんね」


「……今の第三王子は第四王子ですか? 確か、(あきない)王子」


「おー、さすが暗鬼(あんき)さん。察しが良いっすね。その通りっす」


 華金王の息子たち――次の王位継承者は年長順に第一王子、第二王子――と呼ばれていくが、王子が死んだり、王位継承を放棄したりするとその数字が繰り上がる。そうしないと、第数百王子まででてきて、ややこしくなってしまう。

 以前は南部の貴族を束ねる名門家を母に持つ青年が第三王子と呼ばれていたが、現在はその下、以前第四王子だった者が第三王子なのだそうだ。


「逃げましたか……」


「そうっすね。第一王子の策略にはまって、南部――(そう)州で軟禁状態になった際に、王位継承権を放棄したっす。もともと王になりたいわけではなかったみたいすし、命の危険にさらされ続けるくらいなら――、って思ったんでしょう」


 華金王の息子にしては気立てが良かったように思うが、王の器ではなかったか……。


「商王子の勢力はまだ伸び続けているのですか?」


「だいぶ成長速度は落ちたすけど、そうっすね。商人連合を後ろ盾に持つ第三王子……」


 秋兵衛(しゅうべえ)はそう言って口のはしをゆがめた。


()葉屋(ばや)にとっては、あまり王になっては欲しくない人物なのでしょうね」


 第三王子の後ろ盾となる商人連合は、四ッ葉屋をはじめとする古くからある大商家に対抗するために、小中規模の商家が集まって作られたものだ。四つ葉屋とは対立する関係にある。


「そうっすけど、あそこはじき落ちるっす」


 秋兵衛は何でもないように片手を振って見せた。


「お金は重要すけど、それだけで国は治められないっすから。商人は王に肩入れせずに、求められる商品を正確に高値で売りつけてればいいんすよ。自分が売りたいものを売るんじゃなくて、相手が欲しいものを売るんす。あの連合はそこをはき違えちゃってる。ダメっすね」


「持論ですか?」


「持論っす。でも、『求める人へ求められる物を』って四ッ葉屋の理念でもあるっすよ」


「なるほど。あと、第四王子派は――?」


「その前に、暗鬼さんって、今の第四王子のことご存知すか? たぶん、暗鬼さんが中州に行く前は、第七王子だったと思うすけど」


「数年前に王子として認められた人とだけ」


 普通、華金の王位継承者は生まれた時から王子としてその後ろ盾となる集団に大事に育てられるものだ。しかし、この王子は突然現れて王位継承権を主張し、しかもなぜかすんなりとそれが認められたため、印象に残っていた。


「じゃあ、少し詳しく説明しないといけないっすね。第四王子は、彼しか持ちえない身体的特徴を持っていたから、華金王の子息と認められたんす。彼に強い後ろ盾はないんすけど、だからこそ次の華金の覇権を握ろうとたくらむたくさんの集団が彼の後見人になろうとにらみ合ってる状態っす。愛称は、影の王子とか玉の王子とかいくつかあるすけど、そのまとまりのなさも謎多き第四王子っぽいすよねぇ」


「第四王子の身体的特徴とは?」


「それは俺もわからないっす」


「彼――第四王子自身がどの集団を後見人に選ぼうとしているのかわからないのですか?」


「それもわからないす」


 秋兵衛は自分が間違っていると知っている情報を売ることはないが、知っていることを「わからない」と答えることはある。秋兵衛の答えに、比呼は目を細めた。


「俺自身、第四王子がどこにいるのかさえ知らないすしね。強烈な運と有能な側近に恵まれた第四王子。ちょくちょく生存を確認できる情報が流れてくるので、王位継承権を持ち続けている状態。この先どう出てくるのか……。『ダークホース』ってやつっすね」


「外つ国の言葉ですね」


 比呼は秋兵衛の口から出た耳慣れない単語にそう言った。

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