序章 - 一
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冷たい雨が降っている。
この雨で先日まできれいに色づいていた葉は、落ちてしまうだろう。
周辺国を回る旅を終えてこの小国の国府――中州城下町に戻った時には、すでに紅葉の見ごろは終わりに差し掛かり、城主への報告などで忙しくしている間に今日の雨だ。今年は城下町周辺にある紅葉の名所を楽しめなかった。
肌寒さを感じるものの、与羽は部屋の戸を開け、雨に煙る中庭を見ながら物思いにふけっていた。やっと時間ができたので、城下町に下りて色々な人と話そうかとも思ったが、こんな天気では気分が沈んでしまう。
考えるのは、今回の旅のこと。南の敵国、華金に宣戦された際に兵を貸してくれた隣国を訪れて、国主である兄の代理として感謝を伝えて回った。公的な報告はすでに終えているが、彼女が私的に感じたこと考えたことがいまだに脳内をめぐっている。
考えながら長い髪を手ですいた。この国は龍神が興した国と言われ、国を治める城主一族は常人と違う外見的特徴を持っている。かつて光を浴びて青く光っていた髪は今、深い紺色になっていた。旅の間黒く染めていた影響だ。
自分の特殊な髪色も、青紫の瞳も嫌いではない。それでも、他の人と同じならと思ってしまうときがある。自分の姿を見慣れない他国の人がこの色彩を見てどう思うのか、気が気でなかった。彼らの驚いた様子や、意識的に視線を逸らす仕草を見ると何とも言えない恥ずかしさや物寂しさを感じた。もう外を出歩きたくないと思うほど気持ちが沈んだ。
ただ、髪を染めたおかげで接近しない限り見た目に特殊なところはなく、その分奇異の目で見られることも少なかったはずだ。あれでも、まだましだったのだろう。
「はぁ」
与羽はため息をついて再度自分の髪に触れた。
結局髪を染めても嫌な気持ちになったし、髪色を戻しきることができなかったので、以前のような状態にするにはかなりの時間がかかる。何とも気分の沈む回想だ。
「色々あったよなぁ……」
しかし、一度はじめてしまった回想はなかなか止まらない。