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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不良ッ子と転校生~後ろから隣に~

 私が初めて彼女に会った時の第一印象は、可愛い子、だったかな。

 彼女が私のクラスに来たのは、高校一年生の二学期が始まって、二ヶ月たった位。

 茶髪で長さは肩までいかない位。小柄であり、笑顔は皆の注目を集めた。

 クラスの皆は可愛いと騒ぎ、女子の中には小声で何かを言っている奴らもいた。

 彼女は、良くも悪くも、注目を集めたんだ。


「今日からこのクラスで皆様と共に学ばせていただきます。柊梓です。よろしくお願いします」


 鈴を転がす様な声で挨拶をする彼女。歌とか上手そうだな。


「皆も柊と仲良くするんだぞ。柊の席は、そうだな。平野の隣が空いてたよな」


 それを聞いたクラスがザワつく。

 男子の数名は先生にやめた方がいいと言ったり。俺の隣が空いてますよと言ったりした。

 しかし、彼女は私の隣の席に座る。


「あの、柊です。よろしくお願いしますね」

「ん、よろしく」


 不愛想に挨拶をし、正面を向く。


「えっと……その」


 柊はうつむいてしまい、それ以上は話しかけてこなかった。

 それを見ていた柊の隣の席の子が、こっそり耳打ちしている。


「彼女はこのクラスで一番関わったらいけない子よ。何でも煙草を吸ってたり、暴力で他のクラスの子を病院送りにしたらしいよ」


 根も葉もない噂だ。だが、柊はそれを信じたのか、私の方をチラチラと見てくる。

 柊に余計な事を教えているのは、クラスでも噂好きの奴だ。

 ちなみに私は煙草も吸わない。体に悪いし。喧嘩もしない。痛いから。ただ見た目がそんな感じなだけだ。

 金髪に長い髪。学校の校則を破ってるから、そう思われても仕方が無い。生活指導の先生にも呼び出されることが多い。

 成績は悪くはないんだけどね。見た目って大事なんだよ。変えるつもりはないけどさ。

 ホームルームが終わり、彼女はクラスの皆から質問攻めにあっていた。

 前の学校はどんな感じだった。好きなタイプは。趣味はあるのとか、そんな感じ。

 中には、平野に虐められたら直ぐに俺に言うんだぞとか言ってる男子がいた。本人の前でそんな事言うかな。取り合えずそいつを睨み付けたらビビッて何処かに行った。

 騒がしいのが嫌いな私は席を離れ、トイレに向かう。


「平野さん」


 誰かに名前を呼ばれ振り返れば、柊が私の後に着いてきていた。

 どうやら、あの質問攻めが堪えた様だ。


「あんた、学校の構造とか分かってる?」

「まだ全然」

「そ、案内してあげるけど、どうする。他の奴に頼む?」


 私の提案に、柊は驚いている。


「え、いいんですか」

「私部活とかしてないし。放課後は暇だから」

「平野さんって、思っていたよりも優しい方なんですね」


 思ったよりって、この子以外にも正直な子だな。

 その日の放課後、柊には学校の色々な所を案内した。

 校舎裏には不良共が集まるから近づくなとか。屋上は鍵が掛かってるけど、ある方法を使ったら開けられるとか。

 私の後を楽しそうについてくる柊は、まるで子犬の様だった。


「じゃあ、バレーのチーム分けをするぞ」


 翌日の体育の時間。身長順に分けられた男女混合のチーム。

 私は女子にしては身長が高い方だ。柊は背が低い。だから同じチームになった。見た目通りというか、柊は運動が苦手だった。

 飛んできたボールをトスも出来なければ、レシーブも出来ない。仕方なく私が柊の場所も守っていると、彼女は笑顔で「ありがとう」っと言ってくれた。私はいつもの悪い癖で「べつに」っと、不愛想に答えてしまう。

 彼女はそれでも一生懸命にやっていた。そんな姿を、私はいつの間にか目で追っていた。


 それから一ヶ月たったある日。いつも通りのホームルームを終えた時だった。

 同じクラスの奴らに、柊が呼ばれているのを見た。新しい友達が出来たのだろう。いつも私の様な、見た目が不良の奴よりはましだろう。

 寂しくもあったが、彼女が学校生活を楽しめているなら私は構わない。

 お昼休み。私が屋上に向かうと、扉はすでに開いていた。ここの開け方を知ってるのは私と、柊くらいだろう。

 扉を開け屋上に出る。思ったとおり、柊がいた。

 ただ、彼女は泣いていた。私に気が付いた柊は涙を拭い、笑いかける。


「平野さん、今日は屋上でお昼ごはん?」

「あ、うん」


 何て声をかけたらいいのか分からない。いつもだったら、他人が泣いていようが、困っていようが、興味がないのに。


「さっき、泣いてたよな。何かあったのか」

「……大丈夫です。何でもないですから。私、もう行きますね」


 顔も合わせず、柊は速足で屋上を去った。一人になった私は、柊が座っていた場所まで移動する。数か所が、まだ微かに、涙の跡らしきものがあった。

 私には……何も出来ないのかよ。


 あれから三か月。柊から笑顔が少なくなった。話しかけられた時や、挨拶をする時なんかは笑顔を見せる。

 でも、それが前の様な心からの笑顔じゃないことくらい分かる。

 最近一緒にいる女子グループ。あいつらが話しかけてくると、おびえたように縮こまっている。

 多分だけど、あいつらに虐められているんだろう。

 私には何も出来ない。助けを求められた分けじゃない。私が何かしたら、逆にあいつの立場が悪くなる。

 そんな事……分かってんのに。


「なあ、柊。ちょっと時間ある?」

「え、あ、ごめん」

「……」


 私は席を立ち、柊の腕を掴む。


「え、平野さん」

「黙ってついてきな」


 彼女を無理やり連れて行く。クラスメート達は、私が暴力をしに行くと勘違いしているのだろう。ざわざわとしている。

 柊を引っ張り屋上へ向かう。

 屋上に付いた私は壁に両手を突き、柊を逃げられないようにする。


「ど、どうしたの。平野さん。怒ってるの?」

「自分でも分からない。ただ、すっごいイライラしてる」


 こんな気持ち初めてだから分からない。私はなんでイライラしてるんだろう。

 柊が笑顔じゃないのが、こんなに辛いなんて。


「柊さ、虐められてるんじゃないの。あいつらに」


 ビクッと肩を震わせ、下を向く。その反応だけで分かった。

 それでも、彼女の口から聞きたい。助けてほしいって。私が出来ることなんてたかが知れてる。


「虐められてない」

「嘘」

「虐められてないったら」

「嘘」

「虐められてない!」


 涙を流しながら彼女は言う。それは否定ではなく。自分に言い聞かせているようだ。


「だったらなんで泣いてるの」

「平野さんが私を、困らせるからだよ」


 手から力が抜ける。

 私の勘違い……違う。


「守りたいから」

「え」

「初めて友達だと思えた子を、守りたいんだよ!」


 気が付いたら、私も泣いていた。


「……私、前の学校でも虐められてたんです。転校してきたのも、虐めが原因でした。新しい学校なら、一からやり直せるかなって、そう思ったんです」


 柊は昔の学校での出来事を話してくれた。なんで虐められたのか。誰も助けてくれなかったことも。友達だと思ってた子に裏切られたことも。泣きながら話してくれた。

 そんな柊を私はいつの間にか抱きしめてた。

 下校中、彼女は私の袖を掴んで離さなかった。


 翌日、彼女と一緒に登校した私は、どうすればいいか考えていた。口で言って分かってくれる連中ではないだろう。

 だったら、謹慎覚悟でやるか。


「柊さん、ちょっといいかな」


 あいつらが話しかけてきた。柊は私をチラッと見て。


「大丈夫だよ」


 彼女らについていった。私も行こう。

 ついていけばそこは校舎裏。数人に取り囲まれている柊を見つけた。


「持ってきた? 五万円」

「そんなに持ってこれる分けないよ」


 言い返している。覚悟が出来ている証拠だ。後はどうやって乱入するか。


「は? 何こいつ。あんま調子に乗ってると、その顔傷物にするよ」


 そう言って一人がカッターナイフを取り出す。あ、ごめん柊。我慢できない。

 飛び出した私はカッターナイフを持っている女の腕を掴み、力任せに壁に叩き付ける。


「痛った!」


 倒れこんだ彼女の顔に、ギリギリ当たらないよう壁を蹴る

 

「今度こいつに手を出してみろ、その顔を傷物にすんぞ。お前らもだ!」


 彼女たちは逃げていった。これで解決したとは思えない。

 私が居ない時に報復に来るかもしれない。

 さて、久々に生活指導室に呼ばれるか。

 案の定、私は呼び出しをくらい、一週間の謹慎処分が下された。仕方が無い。



 一週間ぶりの学校。柊からの連絡はあったが、顔を見ないと心配になる。

 ワクワクしながら教室の扉を開けると


「おはよう! 平野さん」


 そこには、金髪になっていた柊がいた。


「え、何それ」

「えへへ、似合ってるかな? 平野さんとお揃いにしてみたんだよ」


 これは、私の真似をしているのか。よく見れば髪型も私に似せている。

 クラスメート達は驚きを隠せないでいる。先生も柊を見て驚いていた。金髪が二人いる。そう言って先生は教室を出て行く。

 もしかしなくても、私に悪い影響を受けているようだ。


 お昼休みは何時もの屋上で。放課後は一緒に下校。私の後ろをついてくる柊が、まるで別人のように思えた。

 段々とイライラしてきた。私は、前の彼女が好きだったのに。


 今日も屋上で昼食をとっていると、扉が開く。柊だ。


「先に行くなんてひどいよ。ここにいるとは思ったけどね」


 嬉しそうに隣に座り、購買部で買ってきたサンドイッチを食べ始める。


「ねえ、なんで金髪にしちゃったの」

「これだと誰にもいじめられないから」

「私、この髪色好きじゃない、元の茶髪の方が好き」


 優しく撫でながらそう言うと。


「でも、戻したらまた逆戻り」

「また私が守るから」

「いつまでも平野さんが一緒とは限らないし」

「一緒にいる」


 彼女の顔を私の方に向けさせる。

 そのままキスをした。拒まれると思ったけど、彼女は受け入れてくれた。


「一緒にいたい」

「嬉しいです」


 もう一度、私達は深いキスをした。



 数日後。

 彼女は元の髪色に戻し。私も茶髪にした。

 私が居なくなった、柊を守れないしね。


 今日も彼女は笑顔で私の後ろをついてくる。

 いや、私の隣で、ついてくる。

百合を書くと、気持ちが落ち着く。

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