柊 桜
「ほぅ……魔能を抑えるために、のぉ」
少女がリナを見ながら呟く。
柊 桜と名乗った魔香の少女と出会って、俺たちは少女の家へと案内されていた。
家、と言っても洞窟に居住性を与えた感じで、切り株で作られた椅子に俺たちは腰をかけ、少女に目的を伝える。
リナの魔食の能力から、ここに来るまでの経緯までを話終え、俺たちは少女の言葉を待つ。
「まずこれだけは言っておこう。魔能の完全な制御は不可能じゃ」
いきなり結論が話される。
だが、それは覚悟していたことだ。
問題は、何処まで抑えることができるのか。
「柊は、どうやって魔能を抑えてるんだ?」
「桜と呼んでくれ。わしもトーヤと呼ぶからの」
早速本題を切り出した俺に少女……桜は俺たちを見る。
「そうじゃの……まず、お主らには1つ、話を聞いてくれんかの。言ってしまえば、わしの話じゃ」
そう言って、桜がゆっくりと話し始める。
「わしも最初は普通の町に生まれた子供じゃった。両親は優しく、わしも両親の事が大好きで、なんの変わり映えの無い日常が続いておった……じゃが、ある日じゃ」
桜の話し方が変わる。
「突然、両親がわしの事を襲ってきたのじゃ。しかも暴力的ではなく……性的にじゃ。もちろん、わしは抵抗して両親を突っぱね、恐怖した。すると今度は両親がわしを怖がるのじゃ。わしは全く訳がわからんまま、両親とは離れた」
両親と別れる。
いろいろ差異はあるが、状況はリナと少し似ていた。
「じゃが、わしの行く先々で、関わる人々が変わるのじゃ。わしが愛を望めばそれは肥大した愛となりわしに襲いかかり、皆を拒めば皆がわしを拒むのじゃ。しかもそれは空を漂い、周りの人間をも巻き込む。わしはそれに耐えきれなくなり、人と関わるのを止め、この島へと来た。ここまで来ればわかるじゃろ?」
桜が話を終える。
つまりだ。魔香とは、自身の感情を増大させて人の感情にする能力、といった感じであろう。
両親に愛を望んだ結果、それは家族愛を超えた別物に変わってしまった。それが次の感情が恐怖に変わると、恐怖を超えて忌避するようになってしまった……と。
「島の周りには魔物が山ほどいたじゃろ?あれは魔能者として私が引きつけているのに上乗せして、魔香で私から遠ざけているのじゃ」
なるほど……。
そう考えると、おそらく私兵がここに近づきたく無い、と言い始めたのも魔香の効力範囲内に入り、魔物と同じ状態になった、というわけか。
「それなのに、お主は来た。しかもわしの魔香にすんとも反応しないのじゃぞ?この嬉しさがわかるか?」
そう言って再び腕へとしがみついてくる。
「……さっきから好意を寄せまくってるのじゃが……効果が無いことにがっかりするのも初めての経験じゃ!」
「……そろそろ離れてくれないかな?」
キャッキャッと騒ぐ桜に、とうとうリナが立ち上がる。
「なぜじゃ?」
「なぜって……トーヤは私の恋人だもん!」
「うむ。ならばわしも恋人になろう」
「ダメっ!」
全く意味のわからない'ならば'にリナが鋭く拒否する。
だが、桜は全く動じずに、さらに畳み掛け始めた。
「ダメと言われてもの……お主にもわかるじゃろうに。周りから切り離されて、孤独に嘆いていた所へ、自分の存在を肯定してくれるものが現れる喜びが。しかもそれがこうも良い感じの男なのじゃから……好意を持つのも自然なことじゃと思うが?」
「むむむむ……」
あ、あれ?リナさん?
ちょっと丸め込まれようとしてません?
桜の最もらしい言葉に低く唸り声をあげて、言葉を捻り出そうとリナが頑張る。
それに対して悠々と俺の左腕を独占する少女は、どこか勝ち誇ったような表情でリナを見るのだ。
「……えいっ!」
そして、とりあえずといった風に空いている右腕へとしがみつくリナ。
その頬は拗ねたように膨らみ、目はジトーっと桜を睨み続けるが、桜は全く動じない。
……言い返す言葉が見つからなかったのか。
「うむ、こうすれば万事解決じゃな」
「いやいや、解決してないから。当事者が何も解決できてないから」
まさしく両手に花、状態なのだが、一体どうしてこうなったのだ……。
その後俺は話を元に戻すべく、しばらく奮闘するのだった。
魔香の少女を頭に思い浮かべた時、その姿がまんま黒髪の和服少女だったんですよね。
そのまま勢いで日本名付けちゃいましたが……ま、特に問題無いでしょう(楽観)




