デート
「すっごく楽しかった!」
満足気にリナが微笑む。
少し時間は予定より短くなったものの、街を歩きながら買い物をして、少し豪勢な夕食も楽しんだ。
服屋では簡素だった服から少女らしいワンピースに着替え、いっそうリナが可愛くなったし、この世界のいろいろな物が見れて、俺も満足だった。
それに、この世界の食文化は、他とは違いだいぶ発展していることもわかった。今日食べた夕食も日本での食事と遜色のないほどの味だったし、屋台に並ぶ甘味も種類が豊富にあった。
「俺もすごく楽しかったよ。また来ような」
「うん!」
俺たちは薄暗くなった街を歩く。
既に日は沈み、活気は少し落ち着いた道。冷たい夜風が頬を撫でて、家々には明かりが灯り始めていた。
「初めての街で、こんなに楽しくて、トーヤが隣にいてくれて……幸せだなぁ」
そう言うリナはさっきとは違い、少し儚気で、だがほんのりと照らされた顔はすごく幻想的で、思わず見惚れてしまう。
「あのね、トーヤ。私、すごくトーヤに感謝してるの。だからね……」
「……きゃっ!」
リナが何かを言おうとした時、肩に衝撃を感じて、誰かが声を上げる。
どうやら人とぶつかってしまったようだ。
……リナに見惚れて前が不注意になってしまうとは……。
「すいません。大丈夫ですか?」
手を差し伸べて声をかける。
ぶつかったのは女性だった。
紫の長い髪に優しそうな顔立ちで、まさに包容力のあるお姉さんという風な感じだった。
……そんな女性が少し前かがみになって、黒いドレスのような服の隙間からチラリと見えてしまう胸の谷間にドキリとしてしまうのは男として仕方ないことだろう。
「ありがとうございます。すいません…こちらも考え事をしていたもので……っ!?」
「どうかしましたか?」
転けてしまった女性が俺の手を取った瞬間、女性の表情が変わった。
まるで何かに驚くように、目を開いていた。
「……いえ、昔の知人に似ていたもので」
だがそれも一瞬で、表情はすぐに元に戻る。
少し疑問に思いながらもそのまま女性を引っ張って手を離した。
「本当にすいませんでした」
「良いんですよ。……彼女さんですか?可愛い方ですね。髪もこんなに……」
そして再び女性の手を掴む。
立ち上がった女性がリナに手を伸ばしたからだ。
……少し不自然だな。
初対面の人に対して触ろうとする行為に少し疑問を持つ。
「どうしました?」
「すいません。彼女、少し人が苦手で」
「……それは悪いことをしましたね。ごめんなさい。それでは私はこれで」
すると女性はぺこりと頭を下げてすぐに離れていった。
……いったい何だったんだろうか。
胸に残った少しの疑問を気にかけていると、次は小腹を突かれた。
「……トーヤ」
冷たい声。
何かに少し怒っているような、拗ねているような声が俺の耳に響いた。
「な、なんでしょうリナさん」
「……あの人の胸見ていやらしい顔してた」
なんでそんなことわかるんだ!?
角度的にリナからは俺の顔は見えていないはず……!
そう考え沈黙しているのに比例して、リナの顔の不機嫌度も上っていく。
「あ、あれは男として仕方ないことであって……」
「………なら私を見てくれたら良いのに」
何か呟いてリナが歩き出す。
何を言っていたのか詳しく聞こえなかったが、リナが不機嫌なことに違いはない。
俺はそれから宿に着くまでリナの機嫌取りに精を出すのだった。
「見つけた…!」
口元が三日月のように弧を描く。
まさかこんな偶然にも発見できるなんて、幸運を超えて奇跡だと思う。
帝国軍諜報部からの命令で捜索を続けていた2人。
夕方に到着して捜索は明日からの予定だったが、全て繰り上げになった。
ドラゴンを討伐した魔力無しの少年と、女王様の求める魔食の能力を持つ少女。
……まさか2人が一緒にいるなんて。
奇跡に重なる奇跡に笑みが止まらない。
後はこれを帝国まで届けるだけだ。ここからは私の仕事じゃないし、こことはおさらばね。
「良い街だったわ」
そう一言残し、彼女は歩き出す。
紫の髪と黒い服は闇に溶けるように姿を消すのであった。
もっとリナを可愛く描きたかった。
ただ、そうしようとしたらデートの内容をこと細かく書くことになって長くなるから止めといた。
もしデートだけが欲しい人いたら教えてください。1人でもいたら番外編として書きますわ