決着
長くなった。
「グォォォ……!」
広い草原を轟音がこだます。
一つはドラゴンの咆哮。
悲鳴にも聞こえる叫び声と共に、鱗は削り取られ、翼も所々が破られ満身創痍のドラゴンだが、未だに目は前にある目標を捉え、追い続ける。
「はっはっは!的がでかいから当てやすいぜ!」
そしてもう一つは、ブローニングM2重機関銃をぶっ放し続ける俺。
トリガーハッピーなのか、笑顔を浮かべて撃ち続ける姿は、側からみると完璧な悪役そのものである。
「ひゃっ!わわっ!あぶっ!きゃっ!」
そして最後は可愛らしい悲鳴を上げるリナ。
初めての運転で揺れる車体を必死のハンドル操作でコントロールしている所を見るに、案外才能があるのかもしれない。
時間があれば運転教えてみようか。
脳内でこんな解説をしている間にも状況は進む。
「ガァァァァッ!」
「来たか!」
12.7mm弾を撃ち込まれ続け、消耗する一方だったドラゴンがとうとう反撃に動いた。
火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、ハンヴィーの全速力に追いつけなかったドラゴンが、徐々に間合いを詰めてくる。
降り注ぐ銃弾の雨は既にドラゴンから無視されているようだ。
「そろそろ決着か?」
「グオァッ!」
距離が縮まり、短い咆哮の後、ドラゴンの口元から炎が溢れる。
この距離で、リナの運転により直進しているハンヴィーは避けることはできないだろう。
ドラゴンが身体を仰け反らせてブレスの体制に入る。
が、そのまま撃たせるわけがない。
俺はカバンからあるモノを取り出して構える。
「これでも食らっとけ!」
そして、発射。
発射機から飛び出た弾頭はロケットブースターによって加速され、一直線にドラゴンへと飛翔する。
直後、着弾。
戦車の装甲すらも貫通する威力は、ドラゴンの身体をやすやすと破壊した。
撃ったのはパンツァーファウスト3。
ドイツ製の対戦車兵器であり、陸上自衛隊でも使用されている無反動砲だ。
「リナー。もういいぞ、お疲れさま」
「はぁぁぁ……。やっと終わったのね」
俺はリナに声をかけてハンヴィーをゆっくりと停止させる。
初めての経験にリナは憔悴しているようだ。
「……で、ドラゴンはどうなったの?逃げた?」
「いや、倒したよ」
「……え?ドラゴンって倒せるものなの?」
「だって、ほら」
そう言って指をさす。
そこにあるのは翼を広げ、横たわる巨体。
ピクリとも動かなくなったドラゴンを見て、リナは唖然とする。
「わぁ……すごい!すごいよトーヤ!」
しかしすぐに表情が変わり、興奮したように凄い凄いと言いながら抱きついてくる。
一方俺はと言うと、ドラゴンを倒したのはいいが、この世界の強さの基準がいまいちわかってないので、凄さもわからず、苦笑することしかできなかった。
「さ、そろそろ移動しようか」
リナの興奮が冷めるころを見計らって、声をかける。
予定外の戦闘で時間がだいぶ過ぎたようで、日は既に傾きかけていた。
日没までには街に入りたいし、こんなでっかいのの側にいると、また厄介なことが起きそうだから早く移動しておこう……。
「リナ。まだ街の方向はわかる?」
「うーん……たぶん方向的に街に水平に走って行った感じになると思うから……こっちの方角かな」
そう言って指をさす方向。
広大な草原で、地平線にまだ街らしきものは見えてない。
しかし。
「……あれ、何かこっちに来てないか?」
「馬…かな?凄い速さでこっちに来てるね」
リナが指さした地平線からこちらに近づく複数の影。
今度はドラゴンのように巨大では無いものの、俺の嫌な予感がビンビンに反応していた。
そうしているうちに、影が目視できる位置まで来た。
駆ける馬に乗っているのは……騎士?
100人以上、数え切れないほどの数が俺たちを囲む。
そして
「動くな!貴様らには少し話を聞かせてもらう!」
そんな集団の先頭に立つ男が、俺たちに向かってこう言った。
一応この世界でドラゴンは最強クラスの魔物です。
この世界の最強クラスが戦車ほどだと思ってもらえると、現代兵器のチートっぷりがよくわかる……かな?